とあるVtuberの話⑦

 ブラック企業を辞めた後の私は適当にバイトをする日々を送った。


 母からは「よくこれからのことを考えなさい」と口酸っぱく言われていた。


 これからとはなんだろうか。

 結婚? 就活?


「いつまでも家でゴロゴロしては駄目でしょ?」

「今日は休日だから」

「外行って遊びなさいよ。もしくは趣味を持つとか」

「趣味ねえ」


 派遣で中抜きをされても、実家暮らしと、仕事ばかりで使うこともなかったこと、そして慰謝料で金はたんまり貯まっていた。


 まったく手をつけていなかった貯金に手をつけるとなると変な躊躇いがあった。


 そんな時、パソコンでニパニパ動画を見つけた。

 当初、私は「素人動画なんて」と興味はなかったが、この時はなぜか暇つぶしとして見たのだ。

 するとどうだろうか。

 なんとMAD動画が面白くて、私はハマり、ニパニパ生放送も見るようになった。


 初めは見る側だったが、次第に心の内にあるものがざわつき、私も配信者としてスタートを決めた。


 パソコンを新調して、マイクやゲームの据え置きハードとソフトも買った。


 そしてニパ主としてスタート。


 サングラスにマイクで初配信を始めた。


 最初は同接も0になったりする一桁台で低かったが、それでも構わなかった。あくまで趣味。同接にはこだわらない。


 ただ単に言いたいことを言えるというのが楽しかったのだ。


 時には実況中に就活難や強制内定自主辞退、ブラック企業の経験も話した。

 するとどうだろうか。胸につっかえていたものが無くなったのだ。


 それから栓を外したようにあれやこれやと言葉が出た。


 自由気ままにゲームをして、自由気ままに喋る。


 アンチもいるがそのものは気にしない。


 さらっと流して、配信をする。


 そうこうしている間に徐々に同接も伸びてきた。


 このままコンビニバイトも辞めてニパ主でもやろうかななんて冗談半分で思っていた時、大学生の涌井遥君とバイトで知り合った。


 彼もまた昔の私のように就活で困っていたらしく、私は碌なアドバイスも出来ないが話を聞いてやった。


 本当に話を聞いてやるだけだったが、なぜか懐かれた。

 さらに彼から藤村歩を紹介された。

 なんでも就職支援センターで知り合ったとか。


 彼女は私がニパ主をやっていると教えると、「私もやりたい!」とニパ主について尋ねられた。


  ◯


 ニパ主である程度、知名度が上がった時、私はペイベックスからオファーがきた。


 ペイベックスといえばミュージック界の最大手。


 これはチャンスと私はペイベックスのネット配信課に所属した。


 そしてペイベックスがVtuber企画を練っていた時に2期生メンバーとして、私に白羽の矢が立った。

 Vtuberに興味があったため私はすぐに二つ返事をした。


 こうして私は2期生白狼閣リリィとしてデビュー。

 さらに欠員が出たため、私は藤村歩を紹介して、彼女も赤焔しゃくえんアメージャとして2期生デビューをさせた。


 ペイベックスVtuberも今では6期生まである。

 ライバー同士の仲の良し悪しもあるが、それなりに楽しい生活を送れている。




  ◇◇◇


 作者より読書の皆様方へ。

 これにて第3章は終わりとなります。次から第4章となり、テーマは「1期生と2期生、そしてキセキカナウ」です。

 ここまでお読みいただきありがとうございます。よろしければフォロー、星、レビューのほどお願いします。

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