第68話 コロナ感染
喉が痛い。
そして喉奥に異物感がある。
シール?
何かが喉奥に貼られている感覚。
咳も少し。
あとは鼻詰まりもしている。
ベッドから降り立つとちょっと気怠い。
(風邪かな?)
額に手を置くが、熱くはない。
1階のリビングに向かう。そしてティッシュで鼻をかむと失敗して爆発した。
「いっ!」
もちろん本当に鼻が爆発したわけではありません。
そんな感じだったのです。
鼻奥が詰まっていたせいで、鼻から出す息が穴から出ずに鼻奥をおもいっきり叩いたのです。
水泳でターンをした時、失敗して鼻に水が入ったような痛みが残ります。
「いったー!」
「何やってるのよ?」
母が呆れたように言います。
「鼻が詰まって、出なかったの」
私は今度はゆっくりと鼻をかみます。
するとずるずるとした粘着性の鼻水が出てきました。
「うえっ」
「風邪引いたの?」
「分かんない。喉も痛いしさ。なんかイガイガ。鼻奥は詰まってるし」
「……ちょっと熱を計りなさい」
私は体温計で熱を計る。
脇に体温計を挟んで少し待つ。電子音が鳴り、体温計を取り出して画面を確認。
「どうだった?」
「36℃だった。熱はないね」
「とりあえず、今日は学校休んで病院行きなさい。コロナかもしれないじゃない?」
「熱ないよ?」
「熱のないコロナもあるのよ」
「本当?」
「これは銀羊カロからコロナがうつったね」
佳奈がふとそんなことを言ってきた。
「そうかな?」
カロがここ最近コロナに感染したという話は聞いた。
カロの魂は涼子で私と同じ大学の学生。
この前、大学構内で会ったが接触はしていないし、会話もほんの数分程度。しかも相手はマスクをしていた。
「カロからアメージャ、そしてお姉ちゃんなんだよ」
「アメージャさんも?」
アメージャさんとはこの前の休日に会って、一緒に遊んだ。
「メテオさんも?」
その時、メテオさんもいた。
「うん。メテオも。だからカロ経由だよ。本人も謝ってたよ」
「ほら、身近に感染者がいるんだから病院行きなさい。保険証はそこのケース棚の上から2番目のとこにあるから」
母がケース棚を指して言う。
「……分かった」
◯
友達には風邪で今日は学校を休むことを告げ、私はマスクを着用して、保険証と病院の診察券、母から受け取ったお金を財布に入れた。
「それじゃあ、行ってくる」
「どこの病院?」
「そこのクリニック」
近所に内科のクリニックがある。
「そこ診てくれるかしら? 一応、大きめの病院の診察券も持っていきなさい」
母はケース棚から別の病院の診察券を取り出して、私に向ける。
「えー」
「何嫌そうな顔してるのよ」
「そこ遠い」
「遠くても行かなければいけない時は行きなさい」
「……はーい」
私は病院の診察券を受け取り、財布に入れて、玄関に向かう。
◯
「診察券と健康保険証をお願いします」
「はい」
近くのクリニックで私は診察券と健康保険証をカウンターに置く。
「今日はどのようなことで?」
「喉が痛くて。ちょっと咳を。それと鼻詰まりで」
と、私が言ったら受付の女性事務員が険しい顔をする。そして「ちょっとお待ちください」と言って受付を離れる。
すぐに年配の女性事務員の方が現れて、
「一度外に出てください。それから裏の勝手口に来てください」
「はあ」
私は外に出て、裏の勝手口に行く。
「コロナですか?」
勝手口でマスクをした年配の女性事務員が訝しみながら聞く。
「さあ? 分かりません」
「PCR検査は受けてないのですか?」
「はい」
「ええ!?」
受けてないから来たようなものなのに、なぜか私が非常識な人みたい扱いだ。
「ここでは診察はできません。大きめの病院へ行ってください」
(まじかよ)
まさか母の言った通りになるとは。
「カードと保険証は提出されましたか?」
「はい」
「少しお待ちください」
次に事務員の方が診察券と保険証を持って現れた時には、さっきは着用していなかったビニール手袋を着用していた。
◯
仕方ないので私は大きめの病院に向かった。
そこでなら対応してくれるだろう。
ただ──。
「喉が痛いと」
総合受付の女性事務員の方が、クリニックの事務員のような顔をしている。
「はい」
「咳もあると」
「少し」
「……そちらの方で体温を計ってください」
カメラ型の体温計があり、スマホサイズの枠内に自身の顔を映す。
そして体温がすぐに表示される。
「36℃です」
「とりあえずこちらの席へ」
総合受付隅の椅子に座らされる。
そしてしばらくすると個室に連れられた。
そこでプリントに名前、生年月日、住所、裏面ではアンケートの記入をさせられた。
アンケートでは妊娠や服用している薬、アルコールやタバコ、手術経験、アレルギーなどで、私は全部『いいえ』にチェックした。
プリントの記入後、もう一度、脇に挟む体温計で体温を計らされ、次に血圧も計らされた。
「それではいくつか質問しますが、咳や喉の痛み、鼻詰まり等はいつから?」
「今日の朝からです」
「昨日にはなかったと?」
「はい」
私は頷く。
「身近な人物でコロナに感染された方はいらっしゃいますか?」
「います」
「……それはご家族ですか?」
「いいえ、学校の友人です」
そして私はまた別室へと移動させられた。
次の部屋は病院奥にある隔離室だった。
「ここでお待ちください」
「はい」
30分後、PCR検査器を持った女性の先生(いや看護師かな?)が現れた。
細長い綿棒を鼻に突っ込まれて、激痛が走る。
(くぅ〜)
「はい。オッケーです」
綿棒を抜かれて安心したが、もう片方の穴にも綿棒を突っ込まれる。
(うぐっ)
涙が溢れ出てきた。
「はい。終了です。結果が出るまで、もう少々ここでお待ちください」
「はひぃ」
痛い。鼻奥がじんじんとする。
待ち時間はちょっとなんてものではなく、1時間もかかった。
男性の医者と女性看護師がやってきた。
まず結果ではなく、診察が行われた。
「症状は全部今朝からなんですね」
「はい」
「喉は……腫れてますね。大変ですね」
医者が私の喉を見て言う。
「熱はないんですね」
「はい」
「熱がないのは軽症ですね」
「……はあ」
軽症と言われて、どう反応すればいいんだ?
「咳もまったくないようですね」
「はい。時々咳き込むくらいで」
医者の後ろにいる女性看護師が、「先生、コロナの件、伝えておりませんよ」と医者に伝える。
「あれ? そうだっけ? ああ、それはごめんよ。君、コロナだよ」
「え? コロナ?」
「うん。陽性だよ」
ずいぶん軽いノリでコロナ宣告された。
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