第64話 ザ・ポリス①

 6期生の件で今日は星空みはり先輩と一緒に『ザ・ポリス』というゲームをすることになったのだが──。


「6期生の猫泉ヤクモでーす」


 なんと渦中のヤクモまでいた。


「……赤羽メメ・オルタです」

「私は0期生の星空みはりです。本当は銀羊カロも合わせて4人でやる予定でしたが、今日は3人で『ザ・ポリス』をやっていこうと思いまーす」

「てっきり2人っきりだと思ってました」

「オルタ、私と2人が良かったの?」

「違います。他にVを呼んでたの知らなくて」

「私もです。急にコラボしようと連絡が来て。銀羊カロ先輩が来ないわけは?」


 おずおずとヤクモはみはり先輩に聞く。


 ヤクモは自分が参加したからカロが抜けたのではと考えたのだろう。


 もしかしてみはり先輩はカロとヤクモの仲を良くするためにコラボを設けたのかな?


「それがさ、カロのやつ、コロナに罹ったらしくてね」

「えっ!?」

「ん? どうしてオルタが驚くの?」

「いえ別に」


 まさか同じ大学に通ってて、この前会ったとは言えない。そういえば理系はコロナが流行っていて大変だと言っていた。


「最近コロナ流行ってますもんね」


 ヤクモが不安そうな言う。


「大変だねー。さて、挨拶もここまでで、プレイしていこう!」

「「おー!」」


  ◯


「まずはキャラメイキングだね。私は前に使ってたのを使うよ」

「私も同じく」

「メメが使ってたキャラを使いまーす」


 私はメメが使っていた婦人警官を選ぶ。


「キャラメイキングしないの?」

「いえいえ、時間がかかりますし、メメのキャラを使いまーす」

「そう? なら、スタートだ!」


 そして画面は警察署の中に変わる。


「あら? ヤクモはミニスカポリスだ。やらしい」

「セクシーって、言ってよー」

「ねえねえ? 私は?」


 みはり先輩のキャラが私の周りでぴょんぴょん跳ねている。


「……みはり先輩、そのキャラは一体?」

「激ヤバでしょ?」

「ある意味、激ヤバですね。警察官というより犯罪者ですよ」


 みはり先輩のキャラはお腹が見えたレザー生地のミニのシャツにホットパンツ。

 これが女性キャラならヤクモと同じセクシーなんだけど、肩幅の広い男性ゴリマッチョだから、ただの変態だ。しかも太眉でけつ顎。


「こう見えて警部だよ」


 みはり先輩がキャラを可愛く動かす。


「下の人間に示しがつかないよ」

「オルタは普通だね。いかにもかわいらしい事務職の婦人警官」


 ショートカットに規則正しく制服を着た婦人警官。


「作ったのはメメですけどね」

「オルタは作らないの?」

「キャラメイクって難しいですし、時間がかかりますからね」

「でも、このゲームではないけど、『グランド・フリーダム』というゲームで、今度、大規模なイベントがあるから、オルタもキャラメイクの練習しといた方がいいよ」

「イベント?」

「そう。大人数で警察と犯罪者に別れてドロケイをやるんだって」

「へえ」

「知らない? ヤクモは知ってる?」

「私は知ってましたよ。30数人規模なんですよね?」

「そうだよ。ヤクモは参加するの?」

「まだ未定です」


 ヤクモは歯切れ悪く答える。


 たぶんデマの件で気後れがあるのだろう。


 自分が参加していいのか。


 参加することでギクシャクしないか。参加辞退をする者が現れないか等。


「ちなみに先輩はそのキャラで参加するんですか?」

「まだ考え中。もっと奇抜なやつをしないと駄目かなって思うんだよね」

十分じゅうぶん奇抜ですよ」


  ◯


 私達は警察署を出た。外は夜で暗かった。


「よし。パトロールだ。街へ行くぞ!」

「「おー!」」


 そして私達はパトカーに乗る。運転はみはり先輩。


「まずは繁華街に行く」


 経験者だけあってか、繁華街の場所を地図を見ずに進んでいく。


「繁華街は治安が悪いですからね」

「うん。悪い奴らを捕まえてポイントを稼ぐんだ!」


 ……なんか主旨が違うような。


「出世するにはポイントですよね」

「うん。ヤクモは分かってるね」

「分かってないのは私だけですか」

「オルタ! このゲームは悪い奴を殺……捕まえポイントを稼ぐんだよ」

「今、殺すって言いかけませんでした?」

「まあ、たまに殺すかな」


  ◯


 そして繁華街に辿り着く。


 しかし、みはり先輩はパトカーを止めず、道路を突っ込む。

 NPCの通行人がパトカーに吹き飛ばされていく。


「うらぁ!」

「先輩! 跳ねてます。轢いてます。通行人めっちゃ死んでますよ!」


 しかも電柱にパトカーを擦らせたりもする。

 運転が荒く、周りのNPC達は逃げていく。


「先輩、やばいですよ。こっちが犯罪者になってますよ」

「だって、こいつら車道を歩くんだもん。交通法違反だよね? 捕まえてあげないだけ、マシじゃない?」

「捕まえない代わりに轢くのかよ!」

「アハハッ。さて、ここからは歩きで巡回だよ」


 私達はパトカーを降りて、ネオン輝く繁華街を歩く。


「いやらしい。実にけしからん」


 みはり先輩はぷりぷりしながらいやらしい看板を見ては憤慨している。


「風紀が悪いよー! 御禁制ですよー!」


 変態おじさんキャラを動かしておいて説得力が無さすぎる。


「ムムッ! オルタ、ヤクモ! 前方に喧嘩を発見! いや、リンチか?」


 リーマン風のおっさんが地べたにうずくまり、それを金髪ツンツン頭のゴロツキ複数人が足蹴りをしている。


「どうするんです?」

「オルタは初めてだったね。私とヤクモが見本を見せよう」

「お願いしまーす」


 みはり先輩とヤクモは前は進み、ゴロツキ達に近づく。


(間に入って仲裁かな?)


 バン!


「えっ!」


 なんとみはり先輩とヤクモは拳銃を取り出し、ゴロツキ達を殺していく。


「オラオラ! 往来で何やらかしとんねん! ヤクモ、そっちに逃げた!」

「任せてください!」

「殺すの? それになぜ関西弁?」


 ゴロツキと、なぜかリンチにあってたリーマンも殺して2人は戻ってきた。


「ドヤッ」

「ドヤッじゃありませんよ。何、全員殺してんるんですか。リーマンを助けるんじゃないの?」

「間違えて殺してしまった。さて、次に行こうか」


 そう言ってみはり先輩は繁華街を進む。


「……ねえ、このゲームって、本当にこんな感じなの?」


 私はヤクモにこっそり聞く。


「うん。悪いやつは殺す。もしくは戦闘不能にさせて手錠をかける。極悪犯罪人は殺せば大量ポイント。軽犯罪者は捕まえたら大量ポイントだから」

「なんか物騒なゲームだね」

「CEROもCだしね」

「CERO?」

「レーティングのこと。つまり年齢規制。Cだからこのゲームは15歳以上対象ということだよ」

「どう見ても……もっと上な気がする」


 警察官が問答無用で拳銃ぶっ放すんだよ。過激なゲームなのでは?


「グラフィックも低いし、血も出ないから15歳以上なんだよ。それにコメディやジョーク感覚のノリだし」

「そ、そうなの?」

「もしこれがD以上だったら、メメはプレイ出来ないよ」

「そっか。年齢が引っかかってプレイ出来ないゲームもあるんだ」

「そうだ!」


 と、前を歩いていたみはり先輩が後ろに振り返る。


「今度の大型イベントってさ、『グランド・フリーダム』のCEROがZなんだよ」


 どうやらみはり先輩は私とヤクモの話を聞いていたらしい。


「ああ! そっかZだ!」


 ヤクモも気づいて驚く。


「ん? Zだとなんですか?」

「Zってことは18歳以上。つまり高校生のメメは参加出来ないよ」


 みはり先輩が説明してくれた。


「なるほど」

「他にも参加出来ない人がいるね」

「メメ以外にも高校生Vtuberがいるんですか?」

「誰とは言えないけどいるよー」

「?」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る