第55話 縁の下の……【福原岬】

 今日、宮下千鶴さんを呼び出したのは前回の配信ブチギレではなく、とある策のためであった。

 そしてそれは見事を成功して、千鶴さんは鈴音さんと鮫島に出会い、小会議室に入った。


(よし。ナイスバッティング!)


 それから数分後、三人は小会議室を出て行ったのを陰ながら見送った。

 そう。私と鮫島は千鶴さんと鈴音さんを鉢合わせるように策を講じていたのであった。


「よし。あとは彼女達ね」


 Vtuber課に戻り、私はペーメン5期生のリーダー、片山照に連絡した。


「もしもし。今、大丈夫?」

『ふぁあぃ、大丈夫ですぅ〜』


 寝起きの声が返ってきた。

 どうやら今までご就寝だったようだ。


 Vtuberは一般人と違い、生活リズムが狂ってるから仕方ない。


「明日空ルナのことは知ってる?」

『え? 何ですか?』


 声に明瞭さが戻ってきた。どうやら深刻な話となり頭の切り替えが行われたようだ。


「実はこのままだと卒業するかもしれないのよ」

『卒業! え、本当に?』

「そうなの。でも、SNSの炎上さえどうにかなれば卒業の話はなくなるのよ」

『炎上の鎮火ですか……それは難しいですよね』


 そう。炎上は鎮火させるのが難しいのだ。

 謝っても炎上。

 無視しても炎上。

 何かしても炎上。

 もう他の誰かが炎上してくれるのを待つばかり。


「そうよね。難しいよね。でもさ、同情を買わせることはできるんじゃない?」

『同情を?』

「ええ。ルナも、踊りたくてもこんな体だから踊れなくて悲しんでいるとか、ルナも、皆を騙すのに心を痛めていたとか、そういうの」

『そういうの……ですか』

「うん。今日の夜に雑談するでしょ? その時にそのことを言ってもらえないかな?」


 元はライブ振り返りという枠があったのだが、ルナの件で先送り。それで5期生内で雑談をするという枠が設けられたのだ。


『まあ、それくらいならいいですけど』

「ありがと。お願いね。それと他の5期生のメンバーにもこのこと伝えておいてね。一応、私の方からもメッセージで伝えておくけど」

『分かりました。皆にも……そうだ! オルタはどうしますか? 彼女、先日の配信でブチギレてしまいましたけど』

「彼女の件は大丈夫だから。この後でルナと共に配信をするから。そこであれこれと話をする予定。貴女達もその配信を見ておいてね」

『配信? ルナと? 大丈夫なんですか?』


 驚きと心配の声が返ってきた。


「大丈夫。大丈夫」

『配信って、何を?』

「それは──」


 私は配信内容を告げた。


 しばらくの間、照さんは配信内容に驚き、固まっていた。


『え!? ええ!? そんなこと……えっ!?』

「ここはがつんと行かないとね」

『がつんって……ええっ!?』

「なるべく配信内容は皆には秘密ね」

『……は、はあ』


  ◯


 片山照との通話後、他の5期生にメッセージでオルタとルナが配信予定であること。そしてその配信を見た上で今日の雑談でルナの同情をリスナーに買わせるように誘導する旨を告げた。


「他はどうですか?」


 5期生にメッセージ送信後、私は他のペーメンマネージャー達に聞く。


「こっちは今日の雑談配信がオルタとルナの配信と被ってるから、本人には配信中に見つつ、コメントするよう伝えた」


 0期生、星空みはりの専属マネージャーが返す。


「ありがとうございます」


 ペーメンの稼ぎ頭である星空みはりならたくさんのリスナーに同情を買わせることが出来るだろう。


「こっちも配信後にSNSでコメントを書くよ」

「私のVも一肌脱ぐってさ」

「トビもハリカーしつつ、それとなく擁護するってさ」

「うちのは明日の朝活配信でコメントするって」


 Vtuberのマネージャー達が次々と報告をしてくる。


「皆さん、ありがとうございます。これで一気に叩き込みましょう」


 炎上する声が大きいなら、擁護する声を増やそう。ペーメンにはたくさんのファンがいて、リスナーもいる。彼女達が擁護する声を増やしてくれれば、もしかしたら鎮火も可能だ。


「自分んとこのVでもないのに、よく頑張るわね」


 谷原が小声で聞いてきた。


「なんでだろうね」


 私は苦笑した。


 確かにこれは明日空ルナの件だ。

 それなのにまるで自分のことのように炎上の鎮火に力を入れてしまっている。


(オルタがブチギレたせいかな?)


 柄にもなく、オルタの言葉で私は熱くなってしまったのだ。

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