第53話 ブチギレ

「えーと、今日は『Fight out the crown』をソロプレイでゲーム実況します」


 本当は今、流行っているゲームをする予定だったのだけどマネージャーから「今は騒がしいので別のにしましょう」と言われた。


 仕方がないというのは分かる。

 でも、感情はまだ落ち着いてくれず、どこか胸がずきずきと痛む。


「この前はちゃんと出来なかったので今回はゴールを目指して頑張ろうと思いまーす」


 私は自作コーデしたアバターを選択し、ゲームをスタートさせる。

 最初のコースは障害物を越えて、ゴールを目指すスタンダードなコース。


 私は可愛らしいアバターを操作して、障害物を越えようとするのだけど、


「……今日もゴースティングが……多い?」


 明らかに私だけを狙った妨害が多い。

 捕まれたり、ぶつかったり、私の前に出て通せんぼしたり、跳んで穴を越えるも着地した時に体当たりされて穴に落ちたり。

 本当に邪魔ばかりされる。


 うっとうしさと苛立ちで台パンをしてしまう。


「もう! どうしてこんなことするのよ!」


 結局ゴールは出来ずにゲームオーバー。


 ◯


 その後も何度もゴースティングされ、私は早々にゲームを切り上げた。


 そして雑談をすることにして、今日の配信を終わらせようとした。

 コメント欄は配信画面内のコメント欄ではなく、左側のモニター内に設置されたコメント欄を使う。


 このコメント欄にはフィルタリングがかけられていて、暴言等は表示されないようになっている。

 なっている……が。


『500円。人を騙して得たお金で食べるご飯は美味しいですか?』

『300円。結局、貴女もルナと同じなんでしょ?』

『300円。ダンスは誰が踊ってるんですか? メメではないんでしょ?』


 スパチャはどうあっても表示されるようになっているのだ。

 スパチャはあとで返礼枠を作って、コメントを返すのだけど……。

 この日は色々な苛立ちがあったせいか──。


「騙すってなんですか? ダンスを踊ってたのはメメですから。それと荒らしはやめてください」


 返事をしてしまった。

 しかもこういう荒らしコメントを咎めるような返事は駄目だと言われていたのに。


 Vtuberは楽しい配信をモットーにしている。

 だからこういうギスギスした配信はNG。


『500円。騙していないと? ルナのやったことは何ですか?』

『800円。私は悲しいです。リスナーを騙すのはやめてください』


 またスパチャで攻撃される。

 今度は無視をする。

 色のついていないコメントだけを読み、返答をする。


『赤スパじゃないと返事しないんですか? 現金な人ですね』


 無視だ。


「さっきの『FOC』は散々だった。もうゴースティングはやめてくださいね」


『500円。嫌われてるからゴースティングされるんだよ。気づかないの?』

『10000円。ゴースティングをやってるのは私です。貴女が配信をやめたら、ゴースティングをやめます』


「ざけんな!」


 堪忍袋の緒が切れてしまった。


「スパチャで暴言吐くな!」


 するとコメント表示がゆっくりとなった。

 それで私は配信画面内のコメント欄を見ると荒らしコメントで溢れていた。


『あ! 赤スパで反応した』

『金の亡者め』

『赤スパで暴言祭りだ!』


 これが炎上というやつなのだろう。

 汚い言葉がずっと流れていく。

 左側のコメント欄を見るとわずかだがスパチャに紛れて励ましコメントもあった。


「確かに明日空ルナさんはファンの方を騙したのかもしれません」


『当たり前だ!』

『嘘つき』

『謝罪しろ!』


「でもそれは本当に悪いことだったのですか?」


『嘘は悪』

『子供でも分かることだろ?』


「ルナさんは皆に喜んでもらいたかった」


 感情が込み上げてくる。


「でも脚が悪いから出来ないことがあります」


 悔しと怒りが。


「だからダンスは別の方が担当しました」


『だから?』

『言い訳?』


「それはいけないことですか? 私だってダンスが下手だから妹にやってもらいました」


『でもルナは何も教えてくれなかった』

『内緒で行った』

『ずっと騙してた』

『俺達はずっと騙された』

『騙して笑ってたんだろ?』

『なんでここで荒れるんだ? ルナに言えよ』

『オルタに当たるなよ』

『オルタとルナで当たるなw』


「ルナさんは言いませんでした。それはいけないと思います。でも、それは言えなかったのです。皆さんが傷つくかもしれないから」


『実際ショックだった』

『だからもう卒業しろよ』

『嘘つきはペーメンにはいらない』

『言わなければ嘘ではないと? でも隠してたんだよ。不誠実だ!』


「言わないことはルナさん自身も傷ついていたと思います。ルナさんは優しい人です。きっと今まで皆さんに嘘ついて苦しんでいたと思います」


『思います……それ貴女の憶測ですよね?』

『詭弁ですか?』

『それで許されると?』

『いい加減にしろよ』


「……どうして許してくれないんですか?」


『え? 何様?』

『謝る人が上から目線?』

『まじ許せない』


「もうルナさんを許してあげたらどうですか?」


 そこからはコメント欄に暴言がものすごいスピードで流れた。


「……今日の配信はこれで終わります」

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