2章④『第2の……』

間話 Vtuber【赤羽メメ】

 私、宮下佳奈は美矢下唯の名で声優をしていました。


 ……過去形。


 それは言葉通りの意味で今は声優をしていません。


 今はペイベックスVtuber5期生の赤羽メメの魂を務めてさせております。


 なぜ声優からVtuberに移籍したのか。

 それは不祥事があったからです。


 若手の声優でユニットを作るという企画がありました。その企画進行中に置き引き事件がありました。


 メンバーの1人がとある演者様の楽屋に忍び込んで財布からお金を盗んだのです。

 その事件が内々で片付けられなくなり、結局企画は白紙になりました。


 私個人は置き引き事件に関しては一切関与しておりませんが、メンバーということでユニットの解散。そして活動の自粛となりました。


 この時、私は「ああ、これで終わりか」とひどく落胆してました。


 と、そんな時にVtuber課に移籍の話がきたのです。

 正直、最初は断りました。


 Vtuberでやることも絵に声をあてるということで、仕事は声優と似てはいますがVtuberはゲーム実況が基本。


 ゲームはあまりプレイしたことないので苦手。さらに台本なしで進めるのは自分にはまだ無理と思っていました。


 けれど、それから何度も福原さんから熱烈に勧められて、私自身も「ま、最近流行ってるし、やるだけやってみようかな?」という気分でVtuberになりました。


 で、どうだったかと言うと、やはりそう甘くはありませんでした。


 もはや飽和状態となったVtuber業界。

 音楽業界大手のペイベックスといえど、V業界では2、3流クラス。チャンネル登録者10万人を超えるのも大変でした。


 1年が経ち、後輩もできた頃。ある2つの出来事が発生した。


 1つ目は迷惑配信者、根津剣郎。

 置き引き事件をどこから聞いたのか、それをネタにゆすってきたクズ野郎。


 私個人は事件と関係はないのだけど、こいつの動画は一部分をわざと隠し、まるでこちら側が胡散臭くさせることにより、視聴者を邪推へと誘導させるような配信をするのだ。


 そして2つ目は配信事故。

 姉が私のパソコンを勝手に使ってしまったから、姉が配信をするという事故が発生。これは先の根津剣郎問題の連動していて、私が配信前に部屋を出る要因がそれだった。


 でも、この事故のおかけで私のチャンネル登録者が30万人を超えた。


 正直ありえないと思った。

 いや、ありえたんだけどね。

 だって、そう思っても仕方がないよ。


 1年頑張ってチャンネル登録者10万人だったんだよ。それが1日の配信事故でプラス20万人。ありえなくない?


 何をどうしてそんな数字を叩き出すのか。


 その後、他のVtuberの方々も真似て配信事故をよそおうも失敗に終わり、なぜかうちの姉だけが唯一オルタ化に成功した事例となっている。


 これは不思議なことでVtuber課の人が分析を試みてもそれは謎のままだった。


 本当に運が良かったのか?

 はたまた姉にはなんらかの力があったのか?


 まあ。姉がオルタ化したことでチャンネル登録者も増えて喜ばしいことだ。

 さらに根津剣郎の件も片がついて、楽になった。


 ……でもそれは初めだけだった。


 徐々に私ではなく姉を求める声が大きくなり、食われてきた。そして私は姉に……嫉妬し憎んだ。


 悔しかった。

 むなしかった。

 許せなかった。


 一時は辞めようと本気で考えた。


 けどその後、ハリカー大会でなんやかんやあって今もVtuberを続けているし、姉との仲も良好だ。

 なんか笑ってしまう。


 そしてペイベックスVtuberライブに姉が出演することになりました。


 初めは「そういえばお姉ちゃん、歌ってないよね?」と姉が歌枠をやったことがないことに気づき、不安でした。


 テストも最悪。

 ダンスはウンチだし、歌も素人以下。

 歌詞を覚えていないし、歌い出しも分からないし酷すぎ。


 それで合宿参加でその後に再テストだからびっくり。

 しかも再テストに合格したんだから。


 そしてリハーサルで姉が合宿の成果を見せてくれました。


 曲は五浦いつうら宇宙そらの『スーパーカー』。


 男性の曲で少し不安だった。

 五浦宇宙は中性的な声音であるが、それでも誰が聞いても男性だと分かる曲。


 女性である姉が歌って大丈夫かと心配だった。


 けれどそれは杞憂だった。

 姉がカッコよく歌ってくれた。


 そしてライブ。

 姉は緊張しているせいか、どこかズレていた。


 だけれど、サビで持ち直してくれた。

 この瞬間、ビビッときた人はどれくらいいただろうか。


 姉の歌声はカッコよかった。強く、芯があり、どこか訴えかけてくるものがあった。


 本当に胸が弾むような歌声。


 こうしてライブは一応は成功した。


 その後は0期生の番。0期生が終われば、あとはアンコール。


 そして0期生のMCが始まり、ライブもあと少しというところで、地震が発生した。


 震源地から離れていたためライブ会場はそれほど強い揺れはなかった。

 が、姉と明日空ルナさんのいるスタジオは大変だったらしい。ただ、姉達のいるスタジオに強い揺れがあったというわけではなく、ビルが老朽化していて大変だったということ。


 そしてその地震によってスタジオの天井が崩れ落ち、明日空ルナさんが下敷きになってしまった。


 それが会場に伝わり、明日空ルナは車椅子障がい者であること。そしてライブでは踊っていないことがバレた。


 ネットでは大炎上。


 某掲示板では明日空ルナさんに対する誹謗中傷はひどく。数分程度でコメントが1000を超えて、すぐに新しいスレッドが生まれる。


 私や姉のスレッドにも中傷文がいくつかあったが、姉の救助活動が功を奏したのか炎上はならなかった。


 後日、運営はホームページ上にて明日空ルナさんの容体について語り、リスナーに対して隠し事をしていたことを謝罪した。


 けれど、それで炎上が収まることはなく、今もまだ炎上中。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る