第40話 テスト
レコーディングブースで私は深呼吸する。
今日はライブ出演を決めるテストの日。
正確には再テストなんだけどね。
テストのお題は
そしてこの曲はライブでも歌う曲でもある。
なぜこの曲になったのかというと、前回のテストの時、エンジニアの竹原さんからリクエストがあって歌わされ、そこからもしライブ出演時もこの曲へといつの間にか決められていた。
私としては東野カナとかaityamuの曲を歌いたい。
もし合格後に相談すれば……駄目か。ダンスもあるんだ。私はダンスが下手だから佳奈に踊ってもらわないといけなくなる。
佳奈自身もライブに出るのだからこれ以上は負担は増やしたくない。
……でも東野カナはダンスもないし、もしかしたら……。
『あー、どう? いってみる?』
「はい。いけます」
いけない。しっかりしないと。今はこの曲に集中しないと。
合宿で練習した成果をレコーディングスタジオにいる竹原さんに見せるのだ。
そして曲が流れた。
◯
「どう……でしたか?」
歌い終わって私はレコーディングスタジオにいる竹原さんに聞く。
上手く歌えたと思う。合格の自信は……ありよりのあり。
『ちょっと待って』
窓から見えるレコーディングスタジオでは竹原さんは後ろの福原さんと数人のスタッフらに何か話しかけていた。
しばらくしてから、
『宮下さん、こっちに来て』
「はい」
そして私が隣のレコーディングスタジオに入ると竹原さんが、
「こちらはライブスタッフさん」
「よろしくお願いします」
とスタッフさん達が立ち上がり、私に頭を下げる。
「あっ、どうも」
私も彼らに礼を返す。
「こっちに座って」
と竹原さんに座るよう促された。
私が椅子に座ると、
「結果として合格」
「合格ですか?」
急に結果発表されて私は疑問の声を上げてしまった。
「嫌なの?」
「いえいえ。嫌ではないです。本当にという意味です」
「合格よ。ね?」
竹原さんは福原さんに問う。
「はい。合格です。バッチリでしたよ。この短期間でこれだけ歌唱力を上げれるなんてすごいです」
福原さんは少し興奮気味に言う。
「ありがとうございます」
そこまで言ってくれると素直に嬉しい。
「合格したからといって有頂天になっては駄目よ。あくまで『スーパーカー』で出演レベルに達したってことだからね」
「もう! 竹原さん、厳しすぎですよ」
福原さんが眉を八の字にさせて文句を言う。
「でも本当のことだし。他の曲だときっと駄目ね」
「駄目なんですか?」
私は竹原さんに聞く。
「『スーパーカー』は合ってたからいけたのよ。オリジナルだと問題ないけど。他の曲だと少し厳しいわね」
「どうしてオリジナルだと問題ないんですか?」
「そりゃあ、カバーってことは下手に歌うと相手に失礼でしょ?」
「なるほど」
「それに相手のファンに嫌われるしね」
「でもオリジナルだと歌ってる本人だから多少は下手でも問題ないけどね。ま、私としては下手な歌はリリースしたくないけど」
そう言って竹原さんはどこか複雑そうな顔をする。
今までリリースに納得がいかなかったことがあったのだろうか。
「で、これからライブ出演が決定ということだから、出演スケジュールの話をしようか」
「はい」
スタッフの1人がスケジュールが書かれたプリントをテーブルに置く。
「本当はもう全員のライブスケジュールは決まっているだけどね。君の場合は合格したらここに入れるって決めてるんだよ」
竹原さんが5期生演目のスケジュールを指す。
5期生と一緒か。ま、それもそうだよね。
「5期生のライブ後にゲスト枠として赤羽メメ・オルタを出します」
福原さんが説明する。
「……ゲストですか」
なんかすごい響き。
「出るかどうか分からない状態でしたのでゲストということです。これなら後から足しても問題はないでしょう」
あ、そうでしたか。
「ちなみに出演不可だった場合はMCで伸ばす予定でした」
「それよりダンスはどうなんですか?」
スタッフの1人が福原さんに聞く。
「ダンスはメメが踊りますので大丈夫です」
「つまりオルタは別室で歌うと?」
「はい。3Dはすでに出来上がってます。ちなみにこのことはリスナーには伝えるということになってます」
「リスナーに伝えるのですか? ダンスもオルタがやってるという
それは佳奈がオルタのモーションを担当しても私がやっていると嘘をつくということか。
「聞かれない限り真実を言わなければ嘘にはなりませんからね。でも、これからを考えるとライブだけはメメが担当したと言った方が良いでしょう」
「これから……それはつまりダンスが下手とか?」
「はい」
福原さん、即答しないで。
「なんらかの形でオルタがダンスをした時、今回のライブと差があれば不誠実がバレてしまいます。なら話しておくべきです」
それはもし私のダンスが上達して、いつかダンスをする機会があれば、その時のダンス技術がライブの時と違えばきっと疑惑が持たれ炎上する。だから福原さんは今回だけはメメがダンス担当だと告げておくべきだと言っているのだろう。
もちろん、私が佳奈よりダンスが上手くなれば問題ないのだが……自分でも正直それはいつになるかは分からない。
「リスナーは納得するでしょうか?」
「元々オルタはついこの間まで一般人。なら今回は致し方ないと言えば納得するでしょう。それにオルタは正式なVtuberとは違うのです。メメの別側面。問題はないでしょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます