第2話 FOC

 今日は大先輩0期生の星空みはりとのコラボ配信。


 ゲームは『Fight out the crown』で略して『FOC』というアスレチックゲーム。


 内容は何十名のプレイヤーが可愛らしいキャラでアスレチックコースを駆け抜けてゴールするという至ってシンプルなもの。


 コースは全5コースで、コース毎に数名から十数名の脱落者を出し、最終コースで王冠を取りに行くというゲーム。


 ただ厄介……というか、このゲームの醍醐味なのが──。


「先輩! 邪魔しないでください! 揺らさないで! マジで!」


 網縄の下を懸垂で進んでいる私のキャラに向けて、先輩は縄を揺らして邪魔しているのです。


「落ちる! 落ちるから!」


 下は底の見えない大穴。落ちたらスタート地点へと転送されます。


「邪魔しないで!」


 このゲームは相手を殴る蹴るは出来ないが掴んだり引っ張ったり体当たりすることができ、それいった行為で他のプレイヤーに妨害が可能である。


 そして今、後方にいる先輩が私を落とそうと掴んだ縄を揺らして妨害しているのだ。


「落っちろ、落っちろ」

「可愛い声で酷いこと言わないで」


 私が前に進もうとしたら縄を揺らす。なら先輩が進んでいる間にこちらも進めばいいのだが、なぜか先輩は動かない。


「先輩、このままだと2人してゴールできませんよ。ここは仲良くゴールしましょう」


 一緒にゴール出来れば次のコースにいける。


「……うん。分かったよ。じゃあ、私がそっちに近づくまで動かないでね」

「……はい」

「絶対にだよ」

「……はい」

「なんか返事に間があるようなんだけど?」

「気のせいです」

「信じるよ。……って、進んだよね?」


 私は先輩が進むと同時に前に進みました。


「そんなのいいから。先輩、早く!」

「ねえ? 騙してないよね?」

「騙してたら先輩が動いた時に縄を揺らしますよね」

「そうだね。オルタちゃんを信じるよ」

「はい」


 そして私は先に網縄を懸垂で進み終えました。


(さてと)


 私は網縄を支えている支柱に向けて体当たりをします。


「オラッ! オラッ! ウォラァ!」

「や、やめてオルタちゃん!」


 縄が揺れて先輩は悲鳴をあげます。


「落ちろ! 落ちろぉ!」


 悲鳴なんて知ったことではありません。先の……いや、これまでの恨み、ここで晴らしておかなくては。


「やめて! 許してオルタちゃん!」

「うるせぇメンヘラ! 落ちろ!」

「メンヘラじゃないよ。怖いよ」


 私は体当たりで支柱を大きく揺らしますが、


「あっ!」


 体が柱を外し、間違って奈落の底へと落下しちゃいました。


「アハハハ! 落ちてやんのー!」


 先輩は落下した私をあざ笑います。

 しかし、その先輩も他のプレイヤーの妨害によって落ちました。


 私達2人はスタート地点へと戻されます。


「先輩」

「オルタちゃん」

「ここは本当に仲良くしましょう」

「だね」


  ◯


「おつかれ〜。今日は楽しかったよ〜」

「はい。お疲れ様です」

「オルタちゃんは夏休みはどうしてるの?」

「まあ普通に友達と約束したりとか」

「ふうん。夏フェスに落ちたって聞いたよ」

「誰……って、妹からですか?」


 というかそれしかない。


「うん。メメちゃんから」


(……まったくあいつは)


「夏フェスの件、もしかしたらどうにかなるよ」

「え!?」

「ただし条件があるけど」

「ならいいです」

「はやーい。条件聞いてから判断してよ」

「メメから話を聞いてるなら歌枠とかライブとかの話も聞いているんでしょ? なら歌枠とかライブが条件でしょ?」

「メメちゃん名探偵! さっすがー」


(当たりか)


 私は心の中で溜め息を吐いた。


「Vtuberの仕事はゲーム実況のみです。歌いません。踊りません。私、歌は下手ですし、ダンスも学校の授業で習った程度。しかも下手」

「まあまあ落ち着いて。踊る歌ばっかじゃないから。アーティストの曲やバラードとかなら踊らなくてもいいでしょ?」


 確かにアーティストの曲やバラードでダンスはあまり見たことない。


「うんうん。ならあとは歌だけ」

「嫌です。断固拒否します」

「もう頑固だなー」

「本当に歌は下手なんです」

「下手でもウケることあるよ」

「ただの下手なので私は無理です」


 先輩は息を吐き、


「そっかー。でも、とりま考えといてねー」

「はい」


 考えてはおく。受けはしないが。


「それじゃあまたねー」

「またよろしくお願いします」


 そして通話は切れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る