第47話 本戦①
7月28日、ペイベックス上半期イベント・ハリカー大会本戦がついに始まった。
『はいはーい。皆さーん、こんばんわー。MCを務める白狼閣リリィでーす』
『コメントを務めるのは紅焔アメージャでーす。よろしくお願いしまーす』
『いやー、まさか2人とも本戦落ちするとはねー。しかも弱杯戦にも出られないとは』
『アハハ。本当だねー。その分、コメントはガンガン頑張るよー』
『下ネタは駄目だからね』
『もー! そんなの言うわけないじゃーん』
『アハハ』
「おーい! そろそろ進行か紹介をしてくんなーい」
那須鷹フジが口を挟む。
『ごめんごめん。では、まずハリカー大会本戦について説明するね。今回は予選AグループとBグループの各々上位5名の選ばれた計10名のプレイヤーが本戦であるここで勝負をしてもらいまーす』
予選2回戦に出場していない私が本戦に出場しているのに誰もそのことには触れてはこない。
それだけ『腫れ物』なのだろうか。
(まあ、いいか。こっちもその方が楽だし)
けれど──。
「あれ? そういえばメメちゃんでなくオルタちゃんだ。今回はオルタちゃんが出場なんだね」
なんと星空みはりさんが私のことに触れてきたのだ。
『そ、そうですね。ええっと、今回はメメちゃんの代わりに出場ということになってます』
MCのリリィが困ったように早口で説明する。
『コメントのほうですが、ここ前室とレース時の各々のコメント欄の二つあります。前室にスパチャを送っても意味はないのでリスナーの皆様はご注意を』
『ねえリリィ、それってレース中はコメント欄にはスパチャを送ってもいいことだよね?』
『そうです』
『ちなみにそれって……私達にはないってことだよね』
『イエス』
『タダ働きじゃーん』
アメージャが不満の声を上げる。
『アハハ。えー、それとペーメンの皆様は各々のコメントへの返事は控えますようにお願いしまーす』
ちらりと前室のコメント欄を見ると私やメメへの罵詈雑言が並んでいた。
〈うわっ! 本当にオルタが出場かよ〉
〈メメは逃げたのかよ〉
〈運営は不正に加担していいのか?〉
『発言もレース中は総合ポイント上位3位までが発言権を持ちまーす。それ以外の方はこちらでミュート扱いとなっておりまーす』
『おー! ん? ということは第1レースは無言?』
『そうだよ、アメージャ。だからその分、私達が頑張ってコメントしないとね』
『ううっ。コメンテーターを任された以上頑張るしかないかー』
『では第1レースのコースを選んで下さーい』
コース選択画面に移る。
私はWee時代からの得意のコースを選択。
画面には他の人が選んだレースが表示されるが、やはり予選を這い上がってきただけに上級コースが多い。
『皆さん、選びましたね。それではランダムでコースを選びまーす』
光が動き、プレイヤー達が選んだレース枠を灯す。そして光は止まり、
『第1レースはココナッツビッグウェーブです』
(うわー。このコースか)
ココナッツビッグウェーブはスロッチからの新コースで私が苦手とするコースの一つだった。
『ではレースに移りまーす』
画面はレースのスタート地点に変わる。
シグナルが点灯し、カウントダウンが始まる。
(頑張らなきゃあ!)
私はきちんとスタートダッシュを決める。
が、やはりここにいる皆は上手で誰もスタートダッシュでミスするものはいなかった。
もしかして、ここはあえてスタートダッシュをしない方が良かったのかな?
後続なら良いアイテムを取れる。そこから一気に巻き返すというのも手であろう。
まあ、いい。ミスせずに速く走ればいいのだ。
◯
……着順は5位。
(くっ! 次こそは)
そして第2レースはアマゾンピラニアコース。
得意というわけではないがWee時代からあるコース。
そして3週目にして私は1位に躍り出た。
(よし! あとこのまま1位をキープしてゴールだ!)
『おおっと! ここで2位のナツメ選手が追尾ロケットランチャーを手に入れた!』
直線なら危険だった。でもこのカーブなら問題ない!
私は耳を澄ませ、音を聞く。
小さい羽虫の音を聞き、私はドリフト解除する。するとミニターボが発動して前へと一時的にスピードが駆け上がる。
そして追尾ロケットランチャーを回避した。
『え!? ええ!?』
『な、なんと回避した? え? なんで?』
リリィとアメージャが驚愕の声を出す。
『なんか当たる直前にミニターボで前に進んで……回避? 回避だよね?』
『うん。そう。そうだよ。確か時折……運良く、回避ができることもあるって聞くけど』
『ものすごいラッキーか、はたまた超絶テクのとちらかなんだけど。リリィはどっちだと思う?』
『分かんな……おっと! またしてもナツメ選手がアイテムボックスにて追尾ロケットランチャーを手に入れた』
『そして打ったぞーーー!』
私はもう一度、追尾ロケットランチャーをミニターボで回避した。
『こ、これは偶然ではない?』
『ですね。これは明らかに意図的にミニターボで回避していますよね』
『な、なんというテクだ!』
そして私はそのまま1位をキープしてゴールした。
『1位だ! オルタ選手、超絶テクを披露して見事1位獲得。総合でも3位に上がったー!』
これでコメントも賞賛の嵐かと思ったが、前室に戻るとコメント欄が逆に荒れていた。
〈オルタが上手だなんてずるい!〉
〈卑怯だ〉
〈そこまでして優勝したいのか?〉
「はあー!? 何よそれ!?」
声を出したのはメメだった。
「メメ?」
「勝手にデマ流して、自分達は正しいみたいに喚いておいて、それが間違ったら、次は上手かったらずるい? 何それ? あんた達いい加減にしなさいよ。卑怯よ!」
『メメちゃーん、コメントに反応しないでください』
『どうどう。落ち着けメメちゃん。その怒りは分かるよ。でも今は落ち着こう』
『そうだよ。ヒステリックを飛ばすのはフジだけにしてくださーい』
『巻き込むなー!』
フジが吠えた。
鼻息の荒い佳奈は席を立ち、おもいっきりにドアを開けて部屋を駆け出ていく。
「え? メメ?」
開け放たれたドアから玄関ドアを開閉する音が聞こえた。
「外に行っちゃった!」
『あらら! メメちゃんはキレて外に出て行きましたか』
『コメントの皆さーん。いい加減にするようにね。邪魔するならBANするよ』
「それでオルタちゃんはどうするの?」
星空みはりが私に聞く。
「え?」
「追いかけるの? それともハリカーを続ける?」
「えっ、えっと……」
逡巡しているとスマホのメッセージ音が鳴る。
瀬戸さんからだった。
『メメちゃんは私に任せて』
『どういうこと?』
『私、近くにいて追いかけているところ。任せて』
『なら任せるね』
どうして瀬戸さんが近くにいるかはひとまず置いといて、佳奈は瀬戸さんに任せ、私はハリカーに専念しよう。
「ハリカー続けます」
「そうこなくちゃあ!」
『では皆さん。コースを選択してください』
そして選ばれたのはボルケーノコースだった。
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