第27話 私と姉【宮下佳奈】
配信の後、5期生メンバーで食事に行き、家に帰ってきたのが夜11時頃だった。
「ただいま」
私は玄関でローファーを脱いで、階段を上がり、自室に向かう。
そしてベッドにダイブした。
「疲れた。まじ疲れた」
肉体的疲労はなく、ほとんど精神的なものだ。
5期生メンバーとは仲が悪いわけではない、仲は良い。
だけど年齢も違うし、オルタの件もあり、どこか気を遣わなくてはいけない。
トントン。
ノックされた。
「なーにー?」
私は枕に顔を埋めたまま返事をした。
ドアが開き、
「風呂空いたよ」
ノックの主は姉だった。
「う〜ん」
どうしよう。入りたいけど、ちょっと疲れ気味。
「お父さんが先に入ろうとしているんだけど」
それを聞いて、私は起き上がる。
「先入る」
父より後に入るのは嫌。
姉は先に入ったのか、顔は火照り、バスタオルを頭に巻いていた。
「聞かないの?」
「何を?」
「その私がどこ行ってたとか?」
「? 仕事でしょ。それでその後にメンバーとご飯を食べたって」
「あ、うん。そう」
母には5期生メンバーと飯を食べて帰るから私の分はいらないとメッサージを送っていた。たぶん母経由で姉は知っているのだろう。
「気になる?」
先に階段を下りる姉に尋ねる。
「ん? 別に?」
前を向いたまま、本当にどうでもよさそうに姉は答える。
「お姉ちゃんも来たかった?」
「いやあー、私はいいや」
そして姉はリビングに。そして私は脱衣所へ向かう。
背中で姉が「佳奈、先に入るってー」という声をどこか遠くのことのように聞こえた。
一応脱衣所で服を脱ぐ前に、風呂場を確認する。風呂場に父がいないことを確認すると脱衣所で服と下着を脱ぐ。
シャワー温度を確認した後、私は頭からシャワーを浴びる。
「フーーー」
◯
お風呂の後、リビングに入るとテレビを見ていた姉が、「アイスあるよ」と言う。
「そう」
「さて、やっとお父さん番か」
父が私と替わって、リビングを出る。
「今日、お父さん早かったの?」
私はダイニングで椅子に座っている母に聞く。
「そうよ。電話したら迎えに行ってたんじゃない?」
「いやよ。箱入り娘って言われるじゃない」
私はまず冷蔵庫でコーラのペットボトルを取り出し、コップに注ぐ。
そしてリビングのソファに座り、肘掛けに頬杖をつく。
「ドラマ録画してある?」
「してるよ。見る?」
「いい」
私は見るというよりも内容を知るためにドラマを見ている。
これは学校での会話についていくため。
仕事で見れなかったなんて、嫌味に聞こえるらしい。
だから、仕事があっても、つまらないドラマでも倍速で見る。
そんな作業を家族には見られたくない。
明日は休日だし、今見なくも問題はない。
私はコーラを一杯飲んだ後、冷蔵庫に向かい、チョコのアイスバーを一つ取り出す。
「私の分もー」
「食べたんでしょ?」
「私、まだ食べてないよー」
と姉が言うので私は真偽を確かめようと母に顔を向ける。
「千鶴は食べてないわよ」
「そう」
私はもう一本アイスを取って、リビングでぐうたらしている姉に渡す。
「ありがと」
私はソファに座り、
「ねえ、5期生のメンバーに会いたい?」
「別にー」
本当にさっきと同じように、どうでもいいように答える。
「会わないとダメ系?」
「そうじゃないけどさ」
「もしかしてその同期のやつに『おいおい、テメエの姉は菓子折り持って挨拶にも来ねえのか?』なんて言われてるの?」
「違うよ。ただ誰とも繋がりを持とうとしないからさ」
「う〜ん。私は基本バイトみたいなものだからね。存在が薄まれば自然と消えるつもりだから」
私とは真逆の考えをもつ姉だった。
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