第16話 雑談【瀬戸真里亞】
「珍しい組み合わせね」
食堂に向かうと
「何の話をしてるの?」
私はコーヒーカップを片手に近付き、新に聞く。
「ちょっとゲームの話で弾んでさ」
と答えたのは新ではなく新の彼氏である川西君だった。
「ゲーム?」
「さっきの講義でゲームの話があったんだよ」
「で、宮下達と盛り上がってな」
なるほど。つまり彼氏の川西が宮下さん達と会話し、それに彼女の新が加入したということか。
「知ってるか? 家庭用ゲーム機って弁天堂が最初に作ったんじゃないんだぜ」
「そうなんだ?」
そこで、
「珍しい組み合わせね」
私と同じセリフを誰かが言った。
誰だと振り返ると天野心だった。
「で、あなた達は誰?」
と天野が私の隣の席に座りつつ、宮下さん達に名を尋ねる。
「私は文学部2年の宮下で……」
「私は豆田。同じ文学部」
「ふうん。私は天野。商学部よ」
「ん? 初対面なの?」
私は天野に尋ねる。前に宮下さんのこと話してなかった?
「もちろん初対面よね?」
と天野は宮下さん達に聞く。
「はい。あ、でも皆さんは何度か校内で顔を見たことがありますので覚えてますよ」
「顔を覚えてるって怖いわー」
「いえ、目立つのでという意味です」
「目立つ? 派手ってこと?」
「いえ、顔が」
「顔が派手?」
「いえ、あの……」
宮下さんはアワワと両手を振る。
「ちょっと心!」
「冗談よ」
まったく。
「で、講義はどうしたの? 代返?」
代返とは他の子に自分の出席をさせるという行為。
でもあの講義は出席がうるさくて代返が難しいはず。だから天野はいつもこの時間はきちんの講義を受けている。
「休講になった。で、みんなで何の話をしてたの?」
「ゲームだよ」
川西君が答えると天野は、「へぇー」とどうでもいいように返事する。
「なんかオタクみたいな話ね」
「ゲームといってもスロッチの話だよ?」
「スロッチねえ」
「宮下の妹がスロッチを持ってたんだよ」
「へえ。子供ね」
「まあ妹はまだ子供ですけど」
宮下さんは苦笑する。
「でもスロッチなら私も持ってるよ」
宮下さんをフォローするように私は自分も持っているとアピールが、天野はそれをスルーして、
「それまで知らなかったの?」
「ゲームにはあまり興味なかったから」
「興味なかったからスロッチを持っていると教えられなかったの?」
「うん。妹もね、なぜか私がゲームに興味ないと思ってたらしくて。でもスロッチがあったらやってたよ」
宮下さんは笑った。
「で、ゲームで知り合ったの?」
天野は宮下さん達と川西に指を差し動かす。
「いや、俺が受講している講義でゲームの話があったんだよ」
「何よ、その講義?」
「教養の自由選択科目にある『社会経済学』講義で日本のアニメやゲーム市場の話があったんだよ」
「ふうん」
と言い、天野はコーヒーを飲む。
「まあ日本はアニメとゲームが売りだもんね」
私は興味がある風に言う。
「アニメね〜」
心底どうでもいいみたいに天野は呟く。
「どれだけ儲けたとか。どうして流行ったのかってね」
「へえ、どんなの?」
「『マナカ・マグラ』だよ」
その作品名が出た時、私はドキッとした。
「どうせキャラとかでしょ?」
小馬鹿にした天野の言葉に川西君が不敵に笑う。
「何よ?」
ちょっと天野はイラっとしたらしい。
「あれはあることで流行ったんだよ」
「だから何よ? もったいぶって」
「お前が大好きなドラマ『次は犯人のターンです』はなぜ流行った?」
「何? 関係あるの?」
「あるんだよ」
「もうウザい。さっさと言いなよ」
川西君は首を横に振り、大袈裟に溜め息を吐いた。
「考察だよ。『マナカ・マグラ』も、その他の流行ったアニメも考察で流行ったんだよ」
「考察って? そのアニメにそれだけの価値はあったの?」
やばい! このままだとこいつ『マナカ・マグラ』のネタバレを喋ってしまうのではないか?
「知らん」
「知らんのんかい!」
つい私は突っ込んでしまった。
「瀬戸って関西人か?」
「ちゃうわ」
「ねえ、時間はいいの?」
新が彼氏の川西君に聞く。
「え? 時間? ああ!? ごめん。俺行くわ」
スマホで時間を確認するや、川西君は慌てて出て行った。
「どうしたの?」
私の問いに新は、
「次のコマに間に合わないから、急いで行ったのよ」
「次のコマまで時間あるでしょ?」
「次は旧棟の視聴覚室で講義なんだって」
「ああ。あそこは遠いよね」
「ゲームといえば昔さ、問題なったよね」
新がゲームの話を繋げる。
「問題?」
宮下さんが「何それ」と聞く。
「Weeで通信トラブルとか個人情報漏れたとか……あとは何かあった気がする」
「携帯ゲーム機の4GSのニアミス通信でエロ画像が勝手に送られてくるとかでしょ」
ずっと黙ってた豆田さんが答える。
「ええ!? エロ画像!?」
宮下さんが「何それ気持ち悪い」みたいな顔をする。
「私、知ってる。確かプロフィールのやつだよね」
あれは本当に悪質だった。
「どういうの?」
「ニアミス通信でフレンドになった人のプロフィールが見れるんだけど、そこに卑猥な画像を一緒に載せてるやつがいるのよ。私もエロ画像見たことがあるよ」
しかも写真で撮ったやつで、イチモツとかにモザイクがなくて最悪だった。
「そう。それ以降は写真画像を送ることを禁止になったんだよ」
と、豆田さんが言う。
「当時はまだ通信が弱かったからね。確かWeeからだっけ? ネット通信によるオンライン対戦が始まったの?」
「ああ、うん。そういえば、ハリカーもその時からオンライン対戦が始まったよね」
「そのハリカーでも問題あったよね?」
と、新が聞く。
「え? あった?」
宮下さんが小首を傾げる。
「あった。あった」
豆田さんはうんうんと頷いている。
「あれでしょ? 嫌がせのやつ」
「そう、それ! ストーカー被害とか。負けたプレイヤーからの粘質な嫌がらせとか。本当に怖いよね。当時、私まだ小学生低学年だから怖かったわ」
新は肩を抱き、いやいやとといった風。
「そんなことがあったんだ」
眉根を寄せて宮下さんは言う。
「ねえ? ハリカーはやってるの?」
ふとしたように天野は宮下さんに聞く。
「え? 昔はやってたよ」
「今は?」
「今はやってないよ」
「確か妹が持ってたと……思うけど、まだやったことはないよ」
「なら今度対戦しましょうよ。プレイヤーコードを妹さんから聞いておいてよ」
「……え? スロッチ持ってるの?」
「普通に持ってるわよ」
『…………』
この時、私や皆はきっとこう思っていただろう。
ざけんな! さんざんオタクみたいとか言っておいて! 何? 皆がスロッチやっているとなると『え? 私も〜』みたいに混ざんなやと。
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