第2話 Vtuber

 画面をけると2次元の女の子がいた。


 金髪のゆるふわヘアーの可愛い女の子。


 ……ん? なんだこれ?


 私が小首を傾げると画面の少女も同じく小首を傾げる。

 手を振る。

 画面の少女も手を振る。


 ……連動してる?


 そこで私は文字を──いや、コメントを見つけた。


『おーい』

『故障? 聞こえてる?』

『事故なう』

『↑古い』


 コメントが下から上へと流れている。

 あー。分かったぞこれ。Vtuberというやつだ。


 あいつ部屋で何かやってるなーと思ったらVtuberやってたのか。


『マジで事故?』

『フリーズなう』

『↑なうは古いから』

『now』

『うぜぇ』


「ええと……どうしよ? 切るべきかな?」


『誰?』

『声が違う』

『まじで?』

『オルタ化だ』


「私、姉です。すみません」


『よく聞こえない』

『マイクは?』


「マイク?」


 あっ! これか。


「ど、どうも〜。私は姉でーす」


 私はマイクに顔を近づけて挨拶を交わす。


『姉きたー!』

『うわー、本物?』

『なんで?』


「えーと、レポートを書こうとパソコンを借りようとしたら配信モードになっていて……すみません。切りますね」


 しかし、どうやって消すんだろう。普通にウインドウを消す右端のバッテンでいいのかな?


『えー、話そうよ』

『赤羽メメは?』


「赤羽メメ?」


『妹さんの名前だよー』


 ああ! Vtuberのね。はいはい。


「ええと美容院に行ってまして……」


『配信忘れて?』

『俺達のこと忘れて?』


「さあ?」


『それじゃあメメちゃんの代わりにお姉さんが実況だ!』

『そうだ! 責任取れ!』

『実況GO!』


 次々と私に実況しろとのコメントが溢れる。


「ええ!? 私が!? でも実況って何!?」


『画面の右上のゲームだよ』

『ハリオー』

『プレイしつつ実況』


 右上?

 画面右上に小さいウインドウがある。黒画面にスーパーハリオと白文字でタイトルが出ている。


 スーパーハリオ。


 聞いたことはある。というか日本国民なら誰もが聞いたことのあるゲームで、私の親世代が遊んでいたゲームだ。キャラのハリオも有名で続編や派生作品も今に至るまで数多く生まれている。私もハリオカートを嗜んでいた口だ。


 スーパーハリオはやったことはないがバラエティ番組でもよく取り上げられていたので、どういうものかは知っている。

 確か……ネームキャラクターのハリオを動かして敵を踏んづけて倒したり、アイテムで大きくなったり、魔法を使ったりして遊ぶゲームだった……はず。


「これ? でも勝手にやると妹が怒りそうだし」


『大丈夫。秘密にするからw』

『てか、もう怒られ案件じゃね?』

『引いても鬼』


「いやいや、さすがに……」


『1000円』


「ん? せん……」


 1000円と書かれたコメントが見えた。すぐに新しいコメントによって消えたけど、そのコメントはバックが青かったのでコメントが下から上へと流れていても目に付いた。


『1000円』


 まただ。

 これってもしかしてスパチャというやつ?


『金に目がいっている』

『金の亡者め』

『10000円』


「せん……え!? 10000!?」


 あわわわっ、どうしよう? 10000だよ。

 これで切ったら申し訳ないような。

 そして妹の沽券に関わるのではないか?


「そ、それじゃあ、す、少しだけ」


『金で動いた』

『現金な人だ』

『マネー!』


「このスーパーハリオのスタートをクリックすれば良いのかな?」


『OK!』

『GO! GO!』

『スターティン』


 私はロゴ下のスタートをクリックする。

 するとパソコンの画面全体が変わった。


「え!? 何!?」


 スーパーハリオのウインドウが中央に移動して大きくなり、スクリーン画面半分以上を支配した。

 そしてそのスーパーハリオの画面右横ににアバターの赤羽メメ。そして左端上から中程までをコメント欄が支配。


「おお!?」


 そして次の段階で私は気付いた。

 これどうやって動かすの?

 キーボード? コントローラー?


 探すと棚にコードレスのコントローラーがあった。

 電源をオンにして、十字キーを動かすとハリオが動いた。


「それじゃあ、いきまーす」


 ハリオを右へと動かす。


「ちょっ、ちょっ、動き過ぎ」


 思っていたより、ハリオがするすると進むので敵に体当たりしそうになる。

 ジャンプして回避アンド踏んづけ。


「よし!」


 その後もブロックをジャンプして頭で壊したり、コインブロックやアイテムブロックを壊していく。

 雛壇のような坂を登ったり、下ったり。

 これならステージクリアも楽勝かな。


 そして進んで行くと大穴があった。その向こうには青いフラッグがある。


『中間セーブポイント見えた』

『やっと真ん中』

『この先が本番』


 つまりあの青いフラッグが中間セーブポイントか。

 この大穴には大ジャンプで攻略だね。


 私はコントローラーでハリオをBボタンを押して走らせ、そしてAボタンで飛ぶ。


「成功!」


 そして先へと進むとまた大穴が行く手を塞ぐ。

 ここもまたBダッシュで乗り越え──。


「あれ?」


 ハリオは向こうに届かずに穴に落ちていった。


「タイミング外しちゃったかな?」


 もう一度ステージ最初からのスタート。

 そしてまたあの大穴に。


「次こそは」


 しかし──。

 ハリオは落ちて、情けないBGMが流れる。


 タラッ、タラッ、ター。


「あんれー? なんでー?」


 どれだけBダッシュしても向こう側に届かず、穴に落ちてばっか。


 一旦、コントローラーを離して、手汗を膝で拭う。


「これどうすんの?」


 視聴者に向けて私は聞く。

 するとコメント欄に、


『隠しブロック』

『穴の手前で上にジャンプ』


「隠しブロック!?」


 とりあへず言われたとおりにハリオを穴の手前まで移動させてから上にジャンプしてみる。


 すると隠しブロックが現れた。


「お! これに乗れってことね」


『まだあるよ』

『上に上に』

『正確には右斜め上な』


 私は次々と隠しブロックを見つけて、そこにハリオを飛び移らせていく。そして最後は飛んで向こう側に着地させた。


 その後、青いフラッグに触れて、中間セーブポイントゲット。


「成功! てか、ひどくない。隠しブロックなんて。そんなのあるって分かるわけないよ」


 コメント欄を伺うと、


『それがハリオ!』

『おめ』

『やったね』

『ど素人すぎ』

『1000円』


「あ、スパチャありがとうございます」


 でも、当たり前だけどそのお金、私にはこないんだよねー。


 そこでスマホからメッセージ音が鳴った。


「あ、豆田」


 そうだ。私はレポート作成のためにパソコンを借りようとしたのだ。それをなぜVtuberになってゲーム実況を。

 ……まあ、勝手にパソコンを借りた私が悪いんだけどね。そのせいでVtuberをする羽目に。


  ◯


 その後、私は何回か失敗したりしてステージをクリアした。


「ふぅう」


 私はコントローラーを置いて、息を吐く。


「これで終わ──え!?」


 次のステージが現れた。1-2と表示されている。


「そうだった」


『レッツゴー』

『全ステージクリアだ!』

『いやいや、1ステージでどれだけ時間かかるんだよ』

『今でちょうど30分』


 30分!

 時間確認すると17時41分。


「もうすぐ妹が帰ってくるので私はこれで……」


 そこでちょうど階下から玄関が開く音が聞こえた。


「お! 噂をすれば! ちょっと待っててくださいね」


 私は席を離れ、妹の部屋を出て、階段を下りた。そして下りたところで妹の佳奈と鉢合わせをする。


「おっと!?」

「ど、どうしたのお姉ちゃん?」


 妹は走って帰ってきたのかちょっと息が切れてる。


「佳奈、良いところで帰ってきたわ。実は……」

「ごめん。その前に私、仕事が……」


 佳奈は階段を上がり自室に急いで戻ろうとしているらしい。

 たぶん配信のことだろう。


「仕事ってVtuberのこと?」

「! な、な、な、なんでそれを!?」


 佳奈がすごく慌てふためいて私を見つめる。


「実は……」


 私はパソコンを借りようとしたら配信モードになり代わりを務めたことを白状する。


「なんで勝手に! しかも代わりに! ああ! Vtuberのこともバレたし!」


 髪を両手でわしわしと掻き回す。


「ごめんね」

「ああ! もうー! とりあへず、先にVtuberの方だ!」


 佳奈は階段を急いで駆け上がる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る