博物館デート・後編 ~マインド・トランサー~
☆彡
瑠璃は、この博物館の中で妙な展示を見つけた。
「何…これ…マインド・トラン…ス?ミッション?」
☆彡
展示を見る限りでは、人間の精神世界に飛び込むことが出来るというもの、らしい。最先端技術であり、これを利用すると、他人の精神を覗き見ることが出来るらしい。
しかし、まだ実用化までには至っていないらしい。倫理的な問題、安全性など多数の問題が山積みになっているようだ。
それは、古くから、60年以上前から考えられていた。しかし、当時は実現困難だったものだった。そして、最先端技術とされながらもいまだ実用化に至っていない技術であった。コンピュータ性能の問題により対応できなかった問題が多かったのだ。
現在は、コンピュータ性能の問題が解決されつつあり、精神的な病気や、心療の問題解決に利用できると言うのだ。非常に画期的な技術であり、直接問題を解決できる、心の問題の解決が非常に楽になる。
「翠夢さん…これ、すごい。私の男性恐怖症の問題も、解決できるかもしれないんだ。」
「…そうだな。前に比べると男との関りも慣れてきたと思うが、これがあったら楽に恐怖症を軽減できたかもしれないな」
「楽になったかもしれないけど、そういうことじゃないよ。これが使えたとしたら、きっと翠夢さんとは恋人同士にはなれなかった。それに、これはまだ使わなくてもいいと思うの。また男の人が怖くなるかもしれないし、その時は後で使うかもしれないけども。でも、今のところは翠夢さん、ありがとうございます」
「…そうだな。うまく出来そうだ」
翠夢には、瑠璃の言っていることがなんだかよくわからない話に思えた。ありがとうと言われたのに、うまく話せない。初心な男女が手も繋げずに赤くなる…というにはその領域は超えているはず。
にも拘わらず、言葉が出てこない。「うまく出来そう」とは何かを考えてしまう。
「どうしたんですか?翠夢さん?」
「すまない。」
「なんだか…不安?」
「不安だって?そんなこと…」
「なんだか、考えていたみたいだから。ちょっと、休めるところに…」
瑠璃は、翠夢の腕の服を引っ張った。それに誘われるように、歩いて行った。
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休めるスペースにたどり着いた。椅子に座る。翠夢は引っ張られている時に気が付いたのだが、瑠璃が疲れているようだ。それに気が付かないで自分のことに囚われていたことに翠夢は恥じた。
「すまない。疲れていることに気が付かなかった」
「…それは翠夢さんも。あまり来ることがない所だから…」
「そうだな。…マインド・トランスミッション。精神面を覗いたりしたい人っている?」
「…ごめん。翠夢さん。ちょっとだけなら見てみたいです。何を考えているのかわからない時に知りたいです。もっといっぱい知りたい」
「…恋人の事。もっと知りたいと思うのは同じか。あの装置で俺も…瑠璃の事を知りたいと思った」
カップルらしい会話とは言えるだろうか?ずっとこの2人は考えている。それでも、疲れが取れた。
「そろそろ、続きを見るか」
「待ってください…見てください」
翠夢は、瑠璃の方を見たのだが…珍しく、目を閉じて唇を出している。ここでキスしたいのだと理解するが、場所が良くない。男性恐怖症持ちでしかも恥ずかしがることが多い瑠璃にしては珍しい行動だが、そのまま受け入れるわけにはいかない。
「その先は、周りにいない所でだ。後にしよう」
「え…あ、はい。…本当に、後で…」
瑠璃の消え入りそうな声。手をもって立ち上がり、2人は残りの展示物を見に行った。
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そして、見終わった後の外の公園。入ったころはまだ明るかったが、もう虫の声がするかも怪しいくらいの静寂で暗い世界。
ここで、周辺は大丈夫だと思ったのか、瑠璃はまた目を閉じて唇を出している。
「…瑠璃からしてもいいぞ…」
「あの、そうですか…今日も楽しかったです。ありがとうございます」
了承も得たし、2人だけの世界で…抱きしめあい…
「それでは、失礼します」
2人だけが聞ける水音が、女の子の塞がった口から2人の耳に届いた。
その後の顔を見ていると、瑠璃の眼鏡のレンズが、微妙に白く曇っていた。
同時に、わざわざ精神世界に入る必要はないと、2人は思った。
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