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 まどろみとはよく言った昼下がり。

「おや、片付いてるな」

 得意気な壁を見上げて、カーテンを引きちぎる。

 少し不満そうな金切り声が心地よい。

「そろそろお前も削除かな」

 そのボロをごみ箱に落とし、赤く点滅するPCの電源ボタンに指をかける。

 目覚めさせると同時にノックが聞こえた。

「失礼します」

「名乗りたまえ」

「本日四限の竹葦教授の概説を受講しております猫蚤です」

「ネコノミ……ああ、法学部の」

 一九〇はありそうな背丈に似合わない苗字だと思うが。

 人は親を選べまい。

 どこぞの文豪のような丸眼鏡に、撫で付けた光沢ある黒髪。

 極めつけは時代錯誤の焦げ茶色のベスト。

「何の用だね」

「来週欠席させていただきたいので課題を課して貰えませんか」

 理由はどうでも良い。

 そう言わんばかりの。

 竹葦は机の無駄紙を一枚手渡した。

「君の好きな作家の本を一冊選んで書評を書いてきなさい」

「ジャンルは」

「オールだ」

 猫蚤は静かに紙を四つ折りにして胸ポケットにしまいこんだ。

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