悪と款す
一色まなる
悪と款す
枯れ果てた大銀杏の幹の前に彼女はいた。折れ曲がった幹にはもうあの日のような黄金は宿らない。そしてそれは自分だってそうだ。目の前に呆然と立つ彼女はやっと剣を下ろした。
「……こんな事しかできなくて、ごめんね」
ずっと抱えてきた感情を押し殺して、静かに泣いている。その言葉を言うのは自分だと叫びたい。けれども、流れるのは言葉ではなく、もっともっと鮮やかなものだ。
「皇女様、邪龍討伐おめでとうございます」
「これで皇国に平穏が訪れましょう」
「皆の助けがあってこそだ。ご苦労であった」
冷たい、彼女の物とは思えない色だ。戸惑い、嘆き、怒り、今まで見たことない色が彼女を包んでいた。彼女はあるべき道を取った。ならば、己もそれに倣うまで!
聖剣で傷ついた翼を広げ、俺は天に叫ぶ。彼女―――皇女はまさか、といった目で俺を見上げる。
「来たれり! 我が怨嗟を聞き届けよ! 彼方の同胞よ!」
俺が叫ぶと同時に空が昼のように明るくなる。見上げれば煌々と輝く火の玉が地上を目指して落ちていく。ひらりと舞い上がれば炎に溶けていく大地が見える。
「行かないで! ” ”―――!」
俺を呼ぶ黄金の瞳を振り切って、俺は己が悪だと款した。
悪と款す 一色まなる @manaru_hitosiki
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