手紙

「だ、大丈夫ですか?」


「あっ、大丈夫です」


「そんなに恥ずかしかったんですね。気づかなくてすみませんでした」


リズリさんは、俺が恥ずかしくて泣いていると思っているようだ。


大人として、それはどうなのだろうか?


でも、今はその方が助かる。


母に似てるから泣いたなんて言ったら、リズリさんが迷惑なだけだから……。


「なんか大人なのに、情けないですよね。すみません」


「いえいえ。恥ずかしくて泣いちゃうのは、誰でもありますよ」


この優しい声に、眼差しに……。


涙が込み上げそうになるのを堪える。


「あの、話ってなんでしょうか?」


「あっ!そうでした。忘れていました」


リズリさんは、小さく手を叩く。


「これです」


「手紙ですか?」


「はい。ソウヤ理事長からです。この手紙は、家では読んだら駄目ですよ」


「え?何でですか?」


「この手紙は、開封して三分後には、燃えるようになっています。だから、外のお水がある場所で読んで下さいね」


「お水ですか?」


「ほら、公園の噴水の近くとか……」


リズリさんは、そう言いながらどこかを指差しているけれど……。昨日、引っ越してきたばかりの俺に土地勘などない。


「えっと……。それって、どこですか?」


「あっ、あっちです」


ピリピリ……


「あーー。ごめんなさい。電話です。では、また何かあったら……」


リズリさんは、俺に会釈をして部屋を出て行ってしまった。


どうしたらいいんだ……。


(受け取りを確認しましたので、タイマーを起動します)


「え?」


(10分以内に読まれなかった場合、この手紙は自動で抹消されます)


「ちょっ、ちょっと待ってくれよ。そんなの聞いてない」


(自動抹消まで、残り29分58秒……)


「い、いやいやいやいや」


俺は、家の鍵を取って慌ててアパートを出る。


噴水のある公園なんかあるわけないだろうが……。


えっと……。


えっと……。


(凛音、アパートの近くに大きな池がある公園があるんだって行ってみない?)


一瞬、母さんの声が聞こえた気がした。


そうか!このアパートは、やっぱり現実世界(あっち)で俺が住んでた場所なんだ。


俺は、走って行く。


アパートを出て右に曲がって、少ししたら左に曲がる。


「あっ、あった!!!」


母とよく行った公園が現れた。


真っ白だけど……。


ここなら、手紙を読める。


(自動抹消まで、5分35秒)


ヤバい!


道に迷ったせいで、時間を結構使っていた。


俺は、池の近くで手紙を開いた。


この手紙に書いている文章のせいで、ホウとの関係が悪化していく事になる事を、この時の俺は、まだ知らずにいた。


この手紙さえなければ、あんな事にはならなかった……。


俺は、手紙に書かれた文章を読み始める。

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