もう、無理です

「マトメー」「マトメー」「マトメー」


もう、何百回唱えたかわからなかった。


あれから、数週間が経っていた。


「もう、無理です」


キレート校長の部屋に呼ばれていた俺の耳にこの声が響いた。


「どうぞ」


ミズーは、俺を部屋に入れてくれる。


「もう、無理だとはどういう意味なのかな?」


「どうも、こうもないです。もう、半年以上経ってるんです!なのに、毎日、毎日、お風呂場はぐちゃぐちゃなんです」


「ぐちゃぐちゃなら、君が直せばいいのではないだろうか?」


「僕だって、彩りの習得がまだ出来ていないんです!」


そこに居たのは、ホウだった。


ホウは、キレート校長に怒っている。


「だったら、君だって同じではないだろうか?異世界の人間は、スキルを習得するのに時間がかかるんだよ!わかってやって欲しい」


「そんな事言われたって、もう無理です。僕だって……。僕だって」


「君は、初めて壁にぶつかったんですね」


キレート校長は、ホウに

話した。


「彩りなんてありません」


ホウは、ボロボロと泣き出してしまう。


「君が壁にぶつかって、イライラしてる気持ちはわかります。それをアーキー君のせいにするのはおかしくはないかな?君は、アーキー君のようになれないから怒っているではないかな?」


ホウは、キレート校長の言葉に驚いた顔をしている。


「いつ習得出来るかわからないのに、必死で頑張り続けるアーキー君が羨ましかったのではないのかな?」


「違います」


「違うのだろうか?」


「違います。もう、住めないだけです」


ホウの言葉にキレート校長は、「それなら、一緒に住みなさい」と言った。


「聞いてましたか?もう、無理なんです」


「聞いてましたよ!ミズー」


「はい」


ミズーは、ホウの前に立った。


「コホン。ホウ、アーキーは、外部での生活を共にする事、そして、互いに新しいスキルの習得が出来た時、また寮に戻ってくるものとする」


「ええ?」


ホウは、目を丸くして驚いている。


「こちらが、外部での生活場所の鍵になります」


ミズーは、気にせずにホウと俺に鍵を渡してくる。


「こちらが、仕事先になります。アーキー君は、異世界人なので働けません。生活費をホウ君が稼いできて下さいね」


「ち、ちょっと待って下さい!僕は、無理だと言ったんです」


ホウの言葉にキレート校長は、「コホン」と咳払いしてこう言った。


「この契約を飲めないのなら、君にはこの学園を辞めてもらいます」


「ど、どうしてですか?」


「どうしても何も、彩りを半月かかっても覚えられないのなら……。君には、才能がなかったって事になります。ただし、この条件を飲むのなら彩りを覚えるまでは、寮に戻らなくてもいいんですよ」


「辞めなくていいって事ですか?」


「そうなりますね。考えるまでもないのではありませんか?」


キレート校長は、ホウにそう言いながら肩を叩く。

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