第6話

 数週間後。

「千歳! 今すぐこれを着ろ!」

 病室に入るなり、紙袋を投げながら、宙斗は言った。

 千歳がキャッチした紙袋の中身は服が入っていた。

「え、何? どういうこと?」

「出掛けるぞ! 俺はすぐ下で待ってるから、着替え終わったら合図してくれ」

「え、でも、私、入院中で病院から出られないし……」

「だから、見付からないように抜け出すんだよ」

「でも……」

「そんなに心配すんな。千歳、病気の割りに元気だし。ちょっと外に出るくらい、大丈夫だって」

「……」

「じゃ、待ってるからな」

 宙斗が病室から出た後、千歳は困ったような顔になった。

「どうしよう……」

 紙袋の中には、レースの付いた可愛いワンピースとレギンス、リボンの付いた帽子が入っていた。

 入院生活でずっとパジャマを着ている千歳にとって、この様な服を着ることは憧れであった。

「一応、着てはみたけど……」

 千歳が窓の方へ向かおうとした時、コンコンとノックの音がした。

「千歳さん、もう着替え終わった?」

 知らない女の子の声だった。

「え、あ、はい」

 千歳がそう答えると同時に病室の扉が開いた。

 扉を開けて、女の子が入って来る。

 名前は知らないけど、どこかで見たことある子だった。

「あの、あなたは誰ですか?」

 少し派手な感じの女の子だった。

「俺の彼女」

 そう言いながら、女の子の後ろから出てきたのは、ガッキーであった。

「あっ、ガッキー」

「よっ、千歳。……その服、似合ってるね」

「えっ、そうかな」 

 千歳の顔が少し赤くなる。

「ちょっと、あんた、彼女の前で他の女の子を口説くってどういうこと⁉」

 彼女がガッキーに詰め寄る。

「いや、別に口説いてないし。ちょっと褒めただけだし」

「まあ、いいわ。……あっ、まだ自己紹介をしてなかったわね。ガッキーの彼女の奏よ。よろしくね」

「あっ、はい。こちらこそ、よろしく」

 千歳がペコリと頭を下げる。

「お前にその服を貸してくれたのも、奏なんだ」

「ありがとう。こんな可愛い服、初めて着るよ」

 千歳が本当に嬉しそうに言う。

「喜んでもらえたなら、何よりよ」

「で、私はこれからどうすれば?」

「取り敢えず、下にいるバカとデートして来ればいいわ」

「バカって、宙斗のこと?」

「もちろん。……赤点連発のバカ宙斗のことよ」

「あ~、こいつ、口は悪いけど、根はいい奴だから」

 ガッキーがフォローに回る。

「デート……」

 千歳の顔が赤くなる。

「いや、いつもみたいな感じでいればいいから。デートとか変に意識しなくていいよ」

「う、うん」

「じゃ、行くか」

「でも、途中で桂先生とかに見付かっちゃうんじゃない?」

「大丈夫よ。帽子を深く被って、顔が見えないようにすれば気付かれないわ」

「俺達の後ろに隠れてればいいし」


 彼らの言葉の通り、千歳は誰にも気付かれることなく、外に出ることに成功した。

「おーい、宙斗。連れて来たぞー」

「遅かったな。……じゃ、行くぞ」

「ちょっと、バカ宙斗! この可愛い格好に何の反応も無い訳?」

 奏が宙斗に文句を付ける。

「えっ、か、可愛い? ……ま、まあまあだな」

 宙斗がそっぽを向いて言う。

「ったく、素直に可愛いって言えばいいのに」

「うっ、うるせー」

 宙斗の顔は、真っ赤だった。

「まあ、後のことは俺達で何とかするから」

「楽しんで来なさいな」

「……じゃあ、行くぞ、千歳」

「うん」

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