第4話

これから約束通り、宙斗は毎日、千歳に会いに来て、今日学校であったことなど、他愛もない話をした。

「千歳、俺、赤点取っちまったよ~」

「ええ~、また~? 次は何?」

「現国。……これで、数学と古典と英語も合わせて四つ目だ」

 宙斗が千歳に泣きつく。

「何で、学校行ってる俺の方が通信教材だけの千歳より、頭悪いんだよ~」

 宙斗は、成績はあまり良くない。むしろ悪い。

「現国と英語と古典、教えてくれ。……数学は千歳もダメだし」

「宙斗よりはいいよ。……勉強教えてもらうなら、私よりも桂先生の方がいいよ。桂先生は、教え方すっごく上手いんだから」

「でも、先生は忙しいだろ。いいよ、千歳で我慢する。……後で、ガッキーも呼んで三人で勉強会しよう。ほら、三人寄れば何とかっていうだろ」

「文殊の知恵?」

「ああ、そんな感じ」

「そんな感じって……。諺くらい分かろうよ……」


「まあ、ちょっとお馬鹿な所が宙斗のいいとこなんだよね」

 というのは、ガッキーこと石垣君の談。

「何がちょっとお馬鹿だって~」

「宙斗は勉強よりも部活をするために、学校に来てるようなもんだから」

「そうだ。学生の本分は勉強じゃなくて、いかに青春を過ごすかだ! 俺にとっての青春は部活! 陸上部で汗を流すことにあるんだ!」

 熱心に語る宙斗。

「いきなり青春を語られても……」

 呆れる千歳。

「まあ、テストが返って来る度に、こんな言い訳をしてるんだけどね」

 慣れているらしいガッキー。

「追試でも赤点取って留年したら、ガッキー先輩って呼ばせて扱き使ってやるから」

「ふん、何がガッキー先輩だ。……見てろよ、俺はやる時はやる男だ。二度も赤点なんて取る訳ねえだろ」

「だったら、最初から本気出せよ」

「俺は、後の方でスパートを掛けるタイプだ」

「スタートダッシュも頑張れよ」

 千歳はこの二人のやり取りが面白いらしく、さっきからずっと笑いを堪えている。

「もう、何で二人共そんなにリズム良く会話できるのぉ……あはははは、面白ーい」

「「何でって、幼馴染だから」」

 見事にハモった。



 数日後。

「ねえ、宙斗」

「ん?」

「さっき、ガッキーの病室に入って行った女の子はガッキーのお友達?」

「いや、あれガッキーの彼女」

「へえ~、ガッキーって彼女いるんだ~」

「まあな、いい奴だし」

「……でさ、宙斗は彼女とか欲しいの?」

「おっ、俺は……」

 恋愛の話には疎いらしく、顔が赤くなる。

「ええっと……今は部活が恋人だから、当分彼女はいらないな」

「……ふ~ん」


 きっと、彼らくらいの歳になると、誰も少なからず異性を意識する。

 恋愛に疎いこの二人も例外ではなく……。


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