第2話
僕は今、公園の桜の木ということになっている。
その公園の隣りに、病院がある。
その病院の一室で、あの子は本を読んでいる。
あの子の名前は「音無 千歳」という。
「ええ~、また検査なの~?」
「ごめんね、検査ばっかりで……」
「もう慣れちゃったよ。……あ~あ、私はいつになったら学校に行けるんだか……」
「……本当にごめんね」
「いいよ、別に。桂先生が謝ることじゃないよ」
「……僕も千歳ちゃんが早く良くなるように頑張るから、その時まで待ってて」
「は~い」
千歳は病気であった。
学校には、ほとんど通えていない。
それと、さっき病室を出て行った優男は、千歳の主治医の桂先生だ。
「さあ、本の続き読も~っと」
千歳が読みかけの本に目を落とした時だった。
ガラガラガラ……。
「よっ、ガッキー、元気にしてるかー? 怪我は大丈夫かーって、あれ? ガッキーが女の子になった?」
病室の扉を開けて、知らない少年が入ってきた。
「……私、元から女の子だよ。……それと、あなたはだれ?」
「え~っと、俺の名前は羽川宙斗です。……え~、ここは、走り高跳びの着地に失敗して打ち所が悪くて骨折してしまった、石垣君の病室だよね?」
「違うよ。ここはずーっと前から私の病室だもん」
「確か、二階の一番隅って言ってたんだけどな……」
「それって、向かいの病室のことじゃない? 最近、あなたと同じ年頃の男の子が入院してきたよ」
「あっ、そういえば、病室の名札見ないで入って来ちゃったな……。ごめんな、驚かせちゃったよな?」
「うん、ちょっとびっくりした。……ノックもなしで、いきなり入って来るんだもん」
「……本当にごめん」
「いいよいいよ、私、そんなに怒ってないし。……早く、お友達のお見舞いに行ってあげなよ」
「ああ、そうだった、ガッキーのお見舞いがあった。……じゃ、ありがとな」
そういって宙斗は病室を出て行った。
「同年代の男の子と話すのなんて、本当に久しぶりだなあ」
これが二人の出会いであった。
この小さな出会いが千歳と宙斗の人生を大きく変えるのだということは、まだ誰も僕でさえも、この時は知る由もなかった。
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