第2話 お義兄さまとデブイン!

 チチチと小鳥の声がし朝日を感じた。

 ああ…朝だ…。

 起きて学校行かなきゃなー…。

 と起き上がるが途端に現実へと引き戻された。


 ぶっとい手や足、腹を視界に捉えて私はまた昨日と同じデブを鏡で確認した。

 何度見ても同じデブがそこにいる!

 青ざめてついにまた


「ぎゃあああ!」

 と叫ぶといきなりバンと扉が開き男の人が入ってきて怒鳴った。


「朝から豚みたいな悲鳴出すんじゃねーよデブが!!」

 と入ってきたのはスラリとした男の子でまるで貴族みたいな服と菫色の髪の毛と青の瞳を持っている可愛いらしいイケメン君だった。


 あれ?この顔どっかで見たことない?


 あれ?


 ん?


 私は記憶を遡って頭の中で作品を探すと…あるスマホアプリの乙女ゲームに出てくる攻略対象の一人と一致した!!


 そうだ!確か彼はヒロインの義兄の…ルイス・アレグザンダー・タウンゼットじゃね!?

 とジロジロルイスを見た。

 それにルイスは嫌そうな顔をして


「おい、デブ!ジロジロ人の顔見んな!気持ちわりいなー!」

 と言われた!!

 ていうか違和感に気付いた。


「あ、あの…ルイス君…私って貴方の義妹よね?」

 と確認すると


「ああ!?てめえこのデブ!何がルイス君だ!!?ルイスお義兄様だろ!?寝ぼけてんのか!?

 朝からほんとに見るだけで目が腐るわ!!さっさと飯を食って支度をしろ!学園の入学式に間に合わなくなるだろ!?」

 と言われる。


 え?待って?

 やっぱり私…ゲームのヒロインのミキャエラ・ナディーン・タウンゼント男爵令嬢よね?


 ????


 な、なんでこんなに太ってんの!?

 ていうかこんなのヒロインとして失格じゃないの?


 この乙女ゲーム…【銀色星屑ラビリンス】のヒロインは銀の髪と青の瞳を持つ美少女でもちろん体型はスラリとしていたはず!!しかも義兄のルイス君は…こんなに口の悪い子じゃなかった!ヒロインよりも背が伸びないことから弟みたいに扱われ恋に落ちるという攻略対象の一人のはずなのにおかしい!


 因みにどの攻略対象でも告白シーンが星空の下で行われて結ばれる展開から【銀色星屑ラビリンス】なのである。


 おいおい!聞いてない!ヒロインがまずデブだとか聞いてない!!


「る、ルイスく…お義兄さま?あのぉ?私な、何で太っているんですか?」

 素直に聞いてみると


「ははは!何今更言ってんの?お前なんてうちに来る前からデブじゃないか!!孤児院で他の子の飯を分捕ってたんだろ?養女になってもお前1日朝食だけで3人前は食うしな!」

 と言われて膝が震えた。


「それよりさっさと制服に着替えろよデブ!飯抜きにされたくなけりゃな!」

 とルイス君は去っていく。


「うそぉ…だ、誰か夢だと言ってよ!」

 とパァンと私はまた自分の頰を叩いたが夢ではなくて痛いだけだった。


 *

 制服が飾ってあったので袖を通してみる。

 どうやら侍女は養女ということもありいないのか、男爵家だから使用人の数が限られているのか一応お嬢様でも一人で支度するしかない。


「うがっっ!!!ウエストが!!き、キツい!、ボタンが!!閉まらない!!くそっ!!この!」

 と肉をぎゅうううと押してみるがボタンがはまることは無く仕方なく机の引き出しを探って見つけた安全ピンみたいなやつを見付けて付けた。

 さ、最悪この身体。重いし、汗かくし良いことがない!


 ヒロインなのに何でこんな目に!!?


 食卓に着くとルイス君やお義父様やお義母さまが睨んでいる。同じ菫色の髪と青の瞳だ。

 ゲームでは私に優しくて良い人達だったが、ルイス君同様に私のことを嫌そうな顔で見ていた。


 貴方達は何で私を養女にしたんですか!?と言いたくなる。


「全く!痩せたら綺麗になるかと思ったのだが失敗だったな!恥さらしが!さっさと食べなさい!」


「ミキャエラ?一応男爵家令嬢として学園では目立たずにいなさい!?その体型では難しいかもだけど!」


「早く食べろよデブ!俺とお前が何で同じ馬車に乗らなきゃいけないのか!」

 使用人が2、3人後ろでクスクス笑っている。


 テーブルの上には3人前の朝食がどどんと置かれていた。

 お義母さまが


「ミキャエラ…夜中に厨房でハムを食べるのはおやめなさいね!!意地汚くてよ?」

 と注意までされた!!


 食欲が全く湧かずにサラダを一皿食べたのみで私は残した!すると悲鳴に近い叫びが上がる!


「ミキャエラが!ご飯を残したぞー!?」

「なっ!そんなばかな!!」

「嘘だろ!?ミキャエラがサラダだけなんて!!」

 と口々に驚いている。


「お前…病気か!?」

 と不意にルイス君がおでこに手を当てた。


「何ともない」

 と言いながら嫌そうな顔をしながら側にあった布でゴシゴシと念入りに拭った。何も本人の前で一生懸命拭かなくても…。そんなに私のおでこは汚いかなぁ?


 ヒロインなのに嫌われている!

 そもそも…孤児院で育った時はミキャエラは痩せてる設定だったのになんで!?


 ともかく痩せなければいけない…。ここが乙女ゲームの世界なら主役は私ということになるんだから!


 *

 ともあれルイス君と一緒に馬車に乗れて幸せ。だって私をゴミのような目で見てるけどイケメンはイケメンだものね!

 目の保養になっていい!毎朝こうならいくら悪口言われようとも我慢できると言うものよ!


「お前…何ニタニタしてんだよデブ!学園では大人しくしてろよ!お前が我が家の人間だなんて知れたら俺は恥ずかしくて同級生達になんて顔すればいいのかわからねぇ、絶対に問題を起こすなよ!」

 と厳しく注意された。

 問題って?私ヒロインだけど…??


 ともかくルイス君には嫌われてるようだからあんまり喋らんとこ。


「返事は!?」

 といらつきながら聞かれたので


「は、はい…」

 と応えておく。

 するとガタンと馬車が石に乗り上げ大きく傾いた!私は向かい側のルイス君に倒れかかった!

 確かゲームでは支えてくれて見つめ合いいい雰囲気になりお互いに照れ合うと言う素敵なイベントが起こるはず!


 しかしこちらに倒れてくる私をルイス君はすんでのところであろうことか足で腹を支えるという状態から蹴り込んだ!


「グエっ!」

 潰れたカエルのような鳴き声とともに少しお腹が痛んだ!!


「あっぷねー!!お前の体重に押しつぶされて死ぬところだったわ!」

 ひ、酷っ!!

 ルイス君は御者に文句を言いながら座り直した。


「おいこっちをあんまり見るな!外でも見てろデブ!」

 と言われて仕方なく外を眺めながら登校することになった。


 うーん…一体どうしたもんか。

 デブってだけで辛い…。

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