異世界転生者の俺より先に魔王を倒した奴についていったら別の異世界に来てしまった!!

伊賀栗 エイジ

第1話



 俺、『コウスケ』は転生者だ・・・


 いきなり自分で言うのもなんだが、俺は今いるこの世界の出身者ではない。ある日、日本にて見ず知らずの子供を庇って事故に遭って死んでしまった俺は、気が付くとこの異世界にやって来た。


 ぼやけた目をハッキリさせると、そこにはゲームのステータス表示のようなパネルが見え、そこには各国目999という一目見ただけでも分かる異常な数値をしていた。


 異世界では、邪悪な魔王が魔物を率いて人々を襲っている。俺は手に入れた力を役立てようと、魔王を倒すために冒険者になった。


 旅の途中、エルフの少女『ココラ』、獣人の少女『ソコデイ』、女騎士の『アーコ』を仲間にし、数々の苦難を乗り越えた俺達は、とうとう禍々しい紫の空の下にある魔王の根城、その中心にたどり着いた。


 この門の先に魔王がいる。その事だけでパーティに緊張感が走る。重く静かな空気の中、ココラは気合いを入れるために声を出し、ソコデイがそれに頷く。


 「いよいよですね・・・」

 「うん・・・」


 しかし言葉とは裏腹に肩に力が入っている二人。そこにアーコが後ろから不意に飛びついて驚かせた。


 「オラッ!!」

 「「ひゃぁ!!?」」

 「アーコ! 何すんのよ!!」

 「フフッ、少しは緊張が解けたでしょ? そんなに気負いしたらそれこそ負けちゃうわよ。」


 アーコの説得に二人は少しだけ落ち着く。彼女は俺に向かってウインクし、アイコンタクトを送ってきた。美しいお姉さんの視線に少しドキッとしてしまう。


 色々と気合いを入れ直された俺達は、深呼吸をして扉に視線を向ける。


 「開けるよ!」

 「「「うんっ!!」」」


 後ろの三人は武器を構え、俺が前に出て扉を開けた。重い扉が鈍い音を鳴らしながらゆっくりと動く、先の部屋の明かりの光が差し込み、いよいよ魔王の間が見えてきた。


 「行くぞ!!」

 「「「ウンッ!!」」」


 と俺達が顎を引いて見た先、そこには・・・






























 「チッ・・・ ここも外れか・・・」




















 「エッ?・・・」


 既にむごくボロボロに砕けて無惨に殺された魔王の亡骸。そしてその上に一人の青年が座り込み、何かを放り投げていた。


 あれだけ憎み、ここまで来るのに散々苦労してまで倒そうとした魔王。それをここまで苦しんだ顔で既に死んでいるとなっては、俺達にとって拍子抜けどころではない。


 「何・・・ どうなってんの?」

 「あれ、誰?・・・」

 「魔王・・・ でもなんで・・・」


 俺がこうなっているのだ。彼女達が衝撃を受けるのも無理はない。すると固まっている俺達に、近付いてくる存在がいた。


 ピョコピョコと可愛らしく歩くそれは、白やピンクといった明るい色合いをした、丁度抱き心地の良さそうなサイズのぬいぐるみが動いているようだ。そのぬいぐるみが、こちらを興味津々に見ている。


 「これ、何?・・・」


 ココラがその物体に向けて質問すると、向こうにいる青年が大声を出す。


 「何してるリズ!! 次に行くぞ!!!」


 声を受けて張ったなったリズというぬいぐるみは回れ右をし、またピョコピョコと走って青年の元に向かって行く。青年もその場に立ち上がると、左腕をガッツポーズのように掲げた。すると青年の目の前の空間に突然裂け目が発生し、扉のように開いて真っ白な空間が見えた。リズが青年の右肩に乗り、その場から歩き出す。


 「ちょ! 待てよ!!」


 訳の分からない状況に、唯一の手がかりである青年に話しの一つも出来ないのが嫌になった俺は、考えるのを後回しにして走り出した。


 そのまま声をかけようと俺は青年の右肩を掴んだが、それがいけなかった。避けた空間は入るというより吸い込むものだったらしく、俺も青年達に巻き込まれて入ってしまったのだ。


 「うおっ! ウワアァ!!!」

 「「「コウスケ!!」」」


 後ろのいるココラ達がどうにかしてくれようと走り出すが間に合わず、俺が空間に吸い込まれてすぐに裂け目は閉じた。



______________________



 そこから俺が目を覚ますと、目の前に見えたのは青い空だった。さっきまで魔王城の中にいたはずなのに、一瞬で外に出たのか? などと単純なことを思いながらその場に立ち上がろうとした。


 そこで俺は見るものの違和感に気付いた。下を見て見える地面は、俺がいた異世界のレンガや土で出来たものではなく、以前にいた日本のアスファルトのそれだったのだ。


 『なんで、アスファルト?・・・』


 俺は何処か嫌な予感を感じながらゆっくり顔を上げて前を見る。その先にはさっきの青年とぬいぐるみ。その先には、懐かしき都会のビル群があった。


 俺は目の前の光景を理解するのに大きくあんぐりをし、体が石のように固まってしまう。そして俺の姿を見た青年も、目を見開いて驚いているようだった。


 「お前! 誰だ!?」


 その声を聞いて我に返った俺は、慌ててつぎはぎなことを言い出してしまう。


 「ここどこだ!? さっきまで魔王城の中にいたのに!! お前ら一体!!?」

 「なるほど、扉に一緒に吸い込まれたのか・・・ てことはお前、さっきの世界の住民か。」

 「さっきの・・・ 世界!?・・・」


 と、俺が青年の言葉の意味を理解するのに時間がかかっているそのとき、周辺一帯から突然たくさんの赤い光がこちらに向けられた。青年はそれを見て舌打ちをする。


 「チッ・・・ いきなりか・・・」


 次の瞬間、俺達に向かって突然無数の赤い光が撃ち出された。光は床に当たると爆発し、連鎖していく。


 「何だ何だ何だ!!?」


 青年がぬいぐるみを肩に乗せたまま器用にそれをかわすと、物陰に潜んでいた人型のゴーレム・・・ いや、というより、日本にいたとき創作物で見たようなロボット達が姿を現し、彼や俺に銃を撃ち続けた。


 「ぼさっとすんな! 死にたくないなら動け!!」


 青年の声にまたハッとなった俺は剣を鞘から抜き、光を弾きながらロボット攻撃した。しかし一、二体倒したところで数が多すぎてとても太刀打ち出来ない。


 「クソッ! これじゃあ・・・」

 「チッ! ワープ場所にミスったか。リズ! 一時引くぞ!!」

 「エッ!?」


 するとまたしても青年は左腕でさっきと同じように動かし、目の前に同じ裂け目を作り出した。


 「リズ! 行くぞ!!」


 しかし青年が肩を見ると、そこにぬいぐるみの姿はない。そのぬいぐるみはいつの間にか俺の側にまで寄ってきていた。


 「君、また・・・」

 「お前! ったく!!・・・」


 するとぬいぐるみは俺のズボンを両手で引っ張る。力がなくて少しつねる程度だったが、これなりの優しさなんだろう。しかし青年の方は違う。そんなぬいぐるみの様子を見て青年は仕方なさそうに一度俺の元まで戻り、服を引っ張ってきた。


 「オラ行くぞ!!」

 「行くって何処に!?」

 「知るか!」


 ぬいぐるみはまた彼の左肩に乗り、俺はそのまま引きずられて全員裂け目の中に入った。


 「アアアアアァァァァァァ!!!!」


 激流の渦の中に飲まれたような感覚が体を襲い、解放されたときにはまた目の前の光景に空があった。今度は意識がある分、吐き気がする。


 「ウプッ!!・・・」


 しかし青年は俺のことはガン無視して周りをキョロキョロと見ている。都市街からは打って変わって今度はどこかの森林の中にいた。


 「さて、ここはどうなんだか・・・」


 全くこちらのことに関心のなさそうな彼に、俺は息切れしながらもどうにか口を開いて質問を飛ばした。


 「オッ!・・・ オイッ!!・・・ お、お前ら! 一体、何なんだよ!?」


 青年は俺の声を聞いて振り返ると、淡々と冷たく言い放ってきた。


 「お前こそ誰だ? 勇者の世界の人間か。」


 俺は息切れを直し、自分の胸を叩いて負けじと言い放つ。


 「俺はコウスケ!! あの世界で魔王と倒す旅をしていた勇者だ!! この通り、俺は自己紹介した。そっちは?・・・ っておい!!」


 俺が前を見ると、聞いて来た青年はシカトをこいてどこかに移動しようとしていた。


 「ちょっと待て!! シカトはないだろ!!」

 「・・・」


 その突っ込みすらも聞き流して彼はスタスタと歩いて行こうとするが、ぬいぐるみが彼の肩から降りてその足を引っ張ったことでようやく止まった。本当に何度もぬいぐるみに救われてしまっている。しかしそこにそこに「ドシン! ドシンッ!!」と重みのある足音が耳に響いてきたことで、それについてはおざなりになった。


 「何の音だ?・・・」

 「これって・・・」

 「この音の感じ。まさか・・・」


 この音には、俺だけでなく、青年やぬいぐるみも何処か不安げな顔をしている。そしてその不安な予想は、本当にイヤな形で当たってしまった。


 すぐに俺達の頭上に森の木とは明らかに違う大きな影に包まれた。その形は、俺にとって博物館や映画などでしか見たことのないものだった。


 ドシンッ!!  ドォシンッ!!!


 俺達が上を向くと、そこには予想通りの物理的な大物が姿を現した。


 「ギィヤアァオオォォォォォーーーーーーーーー!!!!!!」

 「恐竜かよぉーーーーーーーーー!!!」

 「これまたえらいところに飛んできちまったか・・・」


 右も左も分からない森林の中。目の前には本物のティラノサウルス。混乱しきっていた俺は手も足も出なかった。が・・・


 「ま、さっきの大群に比べたらすこぶる楽だな。リズ、降りてろ。」


 言われたとおりリズが青年の肩から降りると、彼はブレスレットについていた小さな緑のクリスタルに触れた。するとブレスレットは光り出し、形を変えて刃のようになりました。


 「俺らを食いにでも来たんだろうが、悪いな。俺らも死ぬつもりは毛頭ない。」


 レンタは一言恐竜に告げると、口を大きく開けてこちらに向かってくる相手にその刃を飛ばした。


 シュパ! スパッ!!


 次の瞬間、巨大な体をした恐竜は彼に口が当たりかけたその場所で制止した。


 「え?」


 俺が一瞬瞬きをすると、その恐竜は細かく輪切りにされて崩れ落ち、地響きが響き渡って周辺にいた鳥たちが飛び出していった。いつの間にかブレスレットも彼の手首に戻っている。


 「フゥ・・・」


 息をついたレンタ。訳が分からないことの続いた俺の精神はもう限界に来ていた。


 「な、何なんだよ・・・ これは・・・」

 「言ったろ、別の世界って。ここじゃお前の強さが通じるのかも分かんねえ。来ちまったんなら、せいぜい死なないようするんだな。」


 ぬいぐるみを持ち上げ、またしてもその場から去ろうとする青年に、また俺は声を上げた。


 「一体何だよ!! 来ちまったならって!? それにあの恐竜は・・・」


 俺のしつこさに面倒くさくなったのか、青年は観念したようにこちらを向き、そうしてようやく青年が自己紹介をした。


 「俺はラン、コイツはリズ。二人で捜し物をしに色んな世界を旅している。」

 「色んな世界? 色・ん・な・?」


 俺はレンタと名乗った青年の言葉に固まった。というより、さっきから薄々感じていたことが、ここに来て口からハッキリ言われたのだ。


 「おい・・・ まさかと思うが、ここは・・・」


 一周回って引きつった笑いを浮かべている俺。そこで青年が言ったのは、俺の想像を軽く超えたものだった。






 














 「ここは、お前がさっきまでいたのとは別の異世界。お前の知っている常識は通じないんだよ。」



















 「別の・・・ 世界?」






 あまりのパワーワードに俺が黙り込んでしまうと、青年ことレンタはニヤついた笑顔で俺に意地悪く告げた。






 「そ、別の世界。なんでお前は、もう元の世界には、戻れない。」






 俺はそれを聞いて膝から崩れ落ち、どうにもならない現実に打ちのめされた。






 「そんな・・・




   じゃあ俺は・・・




    これから一体・・・










     どうすればいいんだよおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」






 向かう宛のない叫び声が、俺に知らない世界の中に響き渡った。

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