第35話

その日の夜、アイリスとの甘い時間を終えてまどろんでいた時の事である。

「夜分遅くに申し訳ありません、アンヘルですがよろしいですか?」

「こんな夜更けにどうしたのかしら?」

「おおかた暗殺者でしょ」

「……そういうノリなの?」

「私の事嫌いな奴は多いからね」

適当な羽織ものをかぶって部屋を出ると、案の定アンヘルの後ろには見覚えのある女暗殺者が1人跪いていていた。

「なんかいきなり結婚申し込まれたんですけどこの人たち何ですか?」

「デュラハン族が長の娘・セルティス・ベルシラックと申します!アンヘル皇子に一目惚れしました!息子さんを私にください!」

デュラハン族というと魔王領随一の剣の腕を持つ剣士の一族で、首なし騎士の呪いによって人間界で暮らすことを許されなかったので魔王の庇護下に入ったちょっと特殊な一族である。

ごん!と音を立てて土下座すると首がゴロゴロ転げ落ち、私の足元に転がってきたので拾い上げてみると純粋に輝く瞳があった。

とりあえずくっつけ直してやろう。

「一目惚れした、というのはいつだ?」

「……あるお人の依頼を受け、死の予言に参りましたところ大変麗しい皇子がいらっしゃいましたので」

「あるお人、と言うのが誰なのかは?」

「申し訳ありません」

そこは口をつぐんだということはベルシラックの寄り親に当たる貴族だろう、と大方のめどはつくので深くは掘り下げない。あそこ一族内で対立してるしほっといても自滅しそうだ。

「アンヘルに婚約者を作るの?」

そう口を開いてきたのはアイリスだ。

「先に寝てもよかったのに」

「養子と言えど私たちの子だもの、気になるわよ」

「まださせないよ。セルティス、まだアンヘルは5歳と幼いゆえ婚約はもう少し成長してからになるだろう」

アンヘルの年齢を口にすると「うっ」とうめいた。

どう見ても20歳を過ぎてるセルティスとまだ5歳のアンヘルでは差があり過ぎる……いや、アンヘルは前世の記憶があるので気にならないだろうが、他から見ると異常である。

「アンヘルはどうしたい?」

「俺おねショタよりおねロリのほうが好きなのでお断りしていいですか」

「おねしょ?」

「えっと、婚約はちょっとお断りしたいです」

「そんな……」

ガックシとうなだれたセルティスの首がコロコロ転げ落ちると、偶然通りがかったニーソスの足元へ転がっていく。


「うわああああああああああああ!!!!!!!!!」


夜の城にニーソスの悲鳴が響き渡るのを止められるものは、いなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る