第34話
アンヘル皇子の魔王城への養子入り決定から半月、きょう無事にアンヘル皇子とその従者は魔王城に入った。
きょうはアイリスやアンヘル付きとした魔族の従者たちもそろえて魔王城の見学会である。
「ここがアンヘルの部屋になる」
アンヘルに与えたのは魔王の子供に与えられる私室の一つで、今回は青と灰色を主体にシンプルにまとめてある。
「おしゃれですね」
「気に入ってくれたなら良かった、アラクネの一門に褒賞を出さないとな」
本来は服飾の専門家であるアラクネたちに部屋の改装を押し付けたので、どう考えても褒賞必須なのだ。
……ドワーフがアンヘルの部屋の改装嫌がったんだよなあ、アイリスの時はまだ我慢してくれたんだけど。
(この先融和策をどんどん打ち出していかないといけないよな)
部屋を一つ一つ案内し、最後にアンヘルの従者たちに貸し与えられた建物まで連れていく。
このエリアは小さな家が壁のように並ぶ文化住宅と呼ばれる形式をとっており、そのうちの一棟がアンヘルの従者用に貸し与えられる。
「この辺りはすべて魔王城内で働くものたちの家だ。あの青い壁の3階と4階がアンヘルの従者たちに貸し与えられる」
「初めて見たわ」
「間取りは1LDK……リビング・ダイニング・キッチンに部屋が一つ、そこに風呂とトイレがつく。王国の宰相には魔族のほうが王国の従者よりいい部屋に住んでる、と言われたな」
これは初代魔王が前世で憧れていた家をモデルに魔族が暮らしやすいように改良されている。
長い年月を経て魔王領の都市部ではすっかり一般化したが王国・帝国には一切広がらっていない建築様式である。
文化住宅の入り口は一つだけで、入り口には黒い穴が開いている。
「それぞれの部屋には名前がついていて、その名前を口にしながらこの扉を押せば階段を上り下りしたり人目を気にせず部屋に入ることができる。
しかもこの扉が部屋の主を覚えるから1年もすれば声も出さずに出入りができるようになるし、客人も部屋と住人の名前を答えることで出入りができるようになる」
部屋の割り当ては各々で決めてもらうことにして、アンヘルとともにその場を去る。
アイリスが呆れたような困ったような口ぶりで「相変わらずめちゃくちゃな性能よね」呟く。
「これは初代魔王の功績だけどね」
「私が庶民だったら二人であの部屋に住んでたわね」
「ふたりで?」
「だって、私たち二人で慎ましやかに暮らすなら十分じゃない」
「……まあね」
そもそも王国の一般庶民の家に専用の風呂はない、という事実については口をつぐんでおこう。
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