第16話

王城の中庭に着陸すると騎士団長ははよろよろと立ち上がり「出迎えご苦労様」と城の人たちに声をかけていた。

よろよろ歩きだったり失神してる人までいて「加減間違えてた?」とアイリスに聞いてしまう。

「ノア、あなたいつも空飛んでるから慣れてるんでしょうけど普通の人は慣れてないのよああいうの……」

アイリスもどことなくぐったりした感じになっており、もう少し考えた方がいいかもな、と反省する。

(あんまりスピード落とすと飛んでる意味なくなるし次からは風除けでも張るかな?)

「お疲れ様です魔王様、魔王妃さま」

留守番役を任せていた補佐官の1人が駆け出して跪くので「ご苦労」と返す。

「勇者オーウェンのパーティが4日前に帝都を出て、今日の午後にも王都に入るようなのですがいかがなさいますか?」

聞き覚えの無い話に思わず目を見開いて顔をのぞき込む。

「……なんでそれを報告しなかった?」

「メフィスト補佐官に報告したところ、サプライズとして後にしておいた方が喜ばれるだろうと」

補佐官の方を向くと愉快そうにピースしてきた。


「そういうサプライズは要らないんだよ!!!!!!!!」


***


勇者オーウェンは帝国の4番目の皇子で、生まれながらにして勇者の紋章を持つドラゴンスレイヤーで、いまは皇帝の命で聖女や賢者と共に魔王ノアからアイリスを救わんと王国に向かっているらしい。あと、アイリスの有力な婚約者候補(※婚約はしてない)でもある。

「わざわざ勇者を出してくるってことは私たちの関係を完全に誤解してるし、帝国にもやっぱりちゃんと結婚式の映像流すべきだったかな?」

機材や人手の問題から帝国のほうまで映像を流す余裕がなくてスルーしたのが災いしたんだろうか。

そんなことを考えているとアイリスがため息交じりに口を挟んだ。

「たぶん流しても意味ないと思うわよ、相手は不潔脳筋ゴリラだもの」

「……そんなにヤバいの?」

「いくらドラゴンスレイヤーでも、婚約前提の顔合わせに特に急ぎの用があった訳でもないのに1ヶ月間風呂に入ってない状態で現れて戦以外の話が全くできない男と結婚したくないから婚約者候補止まりだったのよ?」

アイリスの目は滅多に見ないほどの嫌悪に満ちていて、よっぽど相性が悪かったのだなぁと察した。

というか一か月間風呂入ってないのはヤバいな……。

「いくら政略結婚でも私にまともな相手を選ぶ権利はあると思わない?」

それはなんとなくわかる。明らかに結婚したらヤバそうな相手ならそら何が何でも回避しようと悪戦苦闘するだろう。

とにかく来たら一度交渉か何かして穏便に済ませられないか、試した方がいいかもしれない。

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