第3話
「アイリス殿下が魔王の妻になどなるものか!」
そう声を上げたのは若い男の貴族で、反射的に触手の締めあげをきつくする。
補佐官たちには事前に大人しくしておくよう言っておいたが、何もしてこなくて助かる。ここで下手に人を殺されると話がこじれかねない。
「魔王ノア、あなたが私を妻にもらったところで子供は産めませんよ」
「目的は貴殿の隣の椅子だ」
彼女の座る席の隣はからっぽの国王の席であった。
早くに前国王夫妻が事故死し臨時として彼女が王位を継いだが、彼女と結婚してこの国の実権を狙うものが多くいるのは知っていた。そこに私が横やりを突っ込んでこの国の実権を握るのが今回の目的だった。
ここで断れても跳ねっ返りたちが人間の国へ攻め込む言い分になるからガス抜きになる。
「……すこしふたりで話したいわ、ノア」
その口調はかつて友達だった時の言葉遣いだった。
私は亜空間から捕虜にしていた人たちを出し、誰も付いてこないように固く命じてから彼女の私室に向かった。
***
豪奢な私室の椅子に腰を下ろした彼女はストレートにこう聞いてきた。
「で、本心は?」
「この国の実権を握ることで国内の跳ねっ返りに魔王としての力を見せること、断られても国内のガス抜きになるし……」
「そういうことじゃなくて」
彼女の紫水晶の瞳が私をのぞき込む。
「『15歳の誕生日が来たら話したいことがある』っていうのがこれだったの?」
最後に会った日の言葉を一言一句正しく言い放ってきた。
私はこの国で成人の認められる15歳の誕生日に彼女に告白するつもりだった。
王族と孤児の恋でしかも女同士、将来性のない恋をあきらめるために告白するつもりでいたのだ。だから就職先も王都の外にするつもりだったわけだし……。
3年間会えずにいたけれど相変わらず彼女は芯の通った美しい人で、私の好きな彼女だった。
(でもここで言っていいの?私完全に彼女を利用する側なのに?)
ぐるぐると悩んでいると彼女は私の顔に唇を寄せて、ちゅっと小さく口づけをした。
「15歳の誕生日に話したいこと、これでよかったのよね?」
「えっ」
「ずっと分かってたわよ、ノアが私のこと好きだって。好きだって言ってくれるなら王城の私専属メイドにして名実ともに私のものにするつもりだった」
彼女はいたずらっぽく笑って私の目を見ていた。
(全部わかってたのか……)
そう理解した瞬間にへなへなと力が抜けて、地面にへたり込む。
「最初から両思いだったのよ、私たち」
「……うん」
「でもこれでいろいろ都合がよくなったわ」
そう言って彼女の白魚の手が私の手と重ねられた。
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