第2話

その日、人間たちの国の首都に漆黒の娘が現れた。

幾重にも張られた結界をこぶし1つで破壊して見せたその娘の名は、魔族の国の長・ノアと名乗った。

その娘の姿に見覚えのある町人は多くいた。

町の東側にある孤児院に住んでいたが突如行方不明になった少女・ノアが魔族の長として故郷に戻ってきた瞬間であった……。


****


王城の結界を割り、騎士たちをスライムや触手で動きを封じて亜空間に放り込む。

(亜空間に人間を入れとくと生気が吸えるって聞いてたけどあれホントだったのか……まあ吸いすぎて殺しちゃうと悪いから適当なタイミングで外に放り出しておこう)

この姿は後ろについてる補佐官たちの魔道具を通じて現在の私の支配下地域に中継されている。

時々殺さない程度に風魔法で騎士を吹き飛ばし、事前に調べた城内の様子をもとに王城の間へ向かう。今なら彼女も含めてここに全員がそろっているはずだ。

連れてきた補佐官のひとりが重い扉を開くと同時に触手で女王以外の人の動きを封じ込める。

「魔王ノアである、貴君が女王アイリスであるか」

「……その通りよ。久しぶりね、ノア」

王城の間の最も高くて豪奢な椅子に座る彼女は最後に出会った時と同じ姿をしていた。

私たちはかつて幼馴染であった。

まだ彼女の父母が健在だったころ、彼女は同じ年頃の子供たちと遊ぶためよく孤児院に来ていた。

魔族の取り換え子といじめられていた私に彼女は優しく、連れ去られるまで何度となく遊んだものだった。

かつての私を振り切り、今は魔王を演じなければならない。




「アイリス、私の妻になれ。さもなくばかの地は魔族に蹂躙されるであろう」


その言葉にざわつくのも気にせず私はじっとアイリスの紫の瞳を見つめていた。

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