精霊の森 "魔王国横断"編(7 / 12)
……さて、当初のイオリテの懸念の通り厄介なことになった。
せめて1日2日でも時間を稼げればと思っていたのだが、エリムによれば中央都市との定時連絡制で炭鉱の管理がされているらしい。
このまま一時的にこの場を立ち去ると、今日中にもここでの事件はバレてしまうようだ。
流石にそれでは精霊の森を優先する時間がなくなってしまう。
「すまんみんな、集合してくれ」
とにかく今は状況の整理と情報の共有からだ。
ジャンヌたちを全員を集めて、エリムから詳しく話を聞くことにする。
──まずはこの国の実態について。
エリムによれば、この第一魔王国は領主であり大将軍を名乗る"オロチ"の主導で分割統治がされているということだった。
「この広い国土を3つの"小国"に分割して、それぞれをオロチの懐刀である幹部たちが治めているんです。基本的に全てその小国ごとに自治されていて、小国同士の横の繋がりは希薄……というよりかは険悪なんです」
「険悪? 小国を治めてるのは全員そのオロチってやつの部下なのにか?」
「部下同士をオロチが競わせているみたいなんです。よく労働中に『このまま北のヤツらに生産量が負けるようならお前らを豚のエサにしてやる』なんて発破をかけられていましたから」
「なるほど……部下同士を競わせて生産性を上げようとしてたってわけか」
「おそらくは」
「……その幹部について詳細は知っているか? 特にここの小国を治める幹部だ。さっきエリムさんの言っていた中央都市にいるのか?」
「えっと、名前と顔は知っています」
エリムは話した。
この小国を治めているのは自らを【モグラ】と名乗る魔族である、と。
その居場所は推測とのことだったが、中央都市にいるのであれば、元公爵家の大きな土地がある場所ではないかということだった。
……なるほどなるほど?
「俺さ、思ったんだけど……今回の定時連絡っていうのは中央都市との間だけで行なってるものなんだろ? ということは、最低限そこだけ潰せば今のここでの事態が明るみに出ることはないんじゃないか?」
「……なるほど、そういうことですか」
俺の言葉に頷いたのはジャンヌだった。
「小国同士が険悪なのであればその間での定期的な連絡はないはず。であれば、ここの小国の指揮系統だけ潰してしまえば、すぐさま他の小国やオロチへと情報が漏れる可能性は低くなる、と」
「な、なんつー乱暴な理屈なのじゃっ。で、まさかそれを実行するというのかっ?」
俺は頷いた。
ここを凌ぐにはもう、現状はそれしかないだろう
「私も同意見です」
ジャンヌもまた頷いた。
「それに、この小国の指揮系統のみを潰すというのであれば……それほどの時間もかからないでしょう。ロジャさんも居ますから」
「みんな……申し訳ない。でも、ありがとう!」
俺の勝手で、かなりの厄介ごとになってしまっている。
頭を下げた。
「第一魔王国に反目するということはもう全員で決めておったことじゃから今さらじゃ。まあ、想定以上に進行が早かったのは本当に予想外じゃったがな」
イオリテは小さくため息を吐きつつ、
「言っておくがな、テツト。相当ハードなスケジュールを覚悟するんじゃぞ? 分かっておるじゃろうな?」
「ああ、分かってる」
俺たちのこれからやることを順位付けすると、
1.この小国の指揮系統破壊(モグラ討伐)
2.精霊の森での戦い
3.第一魔王国との戦い
このようになるだろう。
しかも、ごく短時間で1、2を完了して第一魔王国へと帰って来る必要がある。
「最初の予定通り、1時間だ。まずは1時間で中央都市のモグラ討伐を始めとして、この小国の指揮系統を破壊しに行く」
「1時間とは……大きく出たな。……ただ、ここの炭鉱をそのまま放置することもできまい。まだ少し離れた他の炭鉱にも魔族やモンスターはいるぞ」
「そうだな。だから、役割分担が必要だ。中央都市へ行くのは俺とシバ、そしてロジャの3人だ」
目配せをすると、ロジャとシバは頷いてOKを返してくれる。
「なるほど、妥当な分担です。移動力と戦闘力に優れた3人で、というわけですね」
ジャンヌは得心するように頷き、
「分かりました。こちらの炭鉱群の殲滅は留守番の私たちにお任せを。イオリテさんの偵察能力に、私の浄化スキル、メイスさんの戦闘力があれば問題ないでしょう」
「うん。頼んだ」
それぞれの役割が定まったところで、さっそく行動開始。
時間は待ってくれないからな。
俺とロジャはさっそくシバへと乗せてもらった。
……あとは中央都市に向かうだけだが、問題は正確なその場所か。
なんて考えていたところ、
「──あのっ、私も同行させていただけないでしょうかッ!!!」
シバの下方から、エリムがそう叫んでいた。
「どうか道中の案内を任せていただくことはできませんでしょうかっ!? 土地勘はありますし、モグラの顔も分かりますし、かつて他国のS級冒険者の道案内をしたこともございますっ! 私がいれば、きっとお役立ちできるかとっ」
「おっ、おぉ……それはすごくありがたいけど、でも危ないし……」
「私の身は案じていただかなくて結構、道案内を終えたら盾にするなり放り出すなり何なりとっ! 私は先ほど述べた通り、戦力にはまるでならない木っ端冒険者ですので」
「待て待て、そんな酷いことするつもりは毛頭ないっ! というか、いったいなんでそこまで……」
エリムの目は冗談を言っているような目の色をしていない。
覚悟の火が灯った、本気の目だ。
「私は……元C級冒険者でした。とても無力な冒険者だったんです」
エリムは俯きつつ自虐するように言う。
「他の冒険者が果敢にモグラたち魔族に立ち向かう中、私ときたら、あぶれた弱いモンスターの相手をするので精一杯でした。激しい戦場を私は遠巻きにして見て、仲間が死んでいくのを、ただ見送って……そして国すらも失いました」
「……」
「ここは、私の生まれ育った国だったんです。だから、故郷を取り戻すため、故郷を愛した者としてできることがあるなら全力を尽くしたい。6年前に懸けられなかったこの命を賭してでもっ!」
「……そうか」
モグラという幹部、地面を操るのか。
だいぶ常識外れの強さを持つ幹部らしいな。
おそらく、いや確実に
……にしてもこのエリムさん、パッと見た雰囲気、決して弱そうには見えないんだけど妙に自己評価が低そうだな?
全体的に筋肉は発達していて、上半身は特にそれが著しい。
それはきっと炭鉱で6年も働いていたからだろうけど……
オークやゴブリンなんて目じゃなさそうなんだがな。
……まあ、今はいいか。
今ここで大事なのは、エリムに命を懸けるに足る覚悟の理由、それが確かにあるという事実だ。
なら、俺たちが勝手にその身を案じるのは余計なお世話というやつなのだろう。
とはいえ、
「覚悟は分かった。エリムさん、同行と道案内をお願いできるか?」
「……! ありがとうございます! この命、いかようにもお使いくださいっ」
「ああ。だけど俺は死なせるつもりなんてないよ」
「えっ……」
「エリムさん。俺たちがこの第一魔王国を打ち倒した後は、きっと君みたいな人がこの国には必要だよ。だから死んだらダメだ。生きて勝とうぜ」
「……はっ、はいっ!」
「よし、じゃあ協力に感謝する。ありがとうな、エリムさん。行こう」
「はいっ! もったいないお言葉です……! それと、どうか私のことはエリムと呼び捨てに」
「えっ?」
「命のご恩人からさん付けは、とても畏れ多いですので……どうかっ!」
「わ、わかった……エリム。じゃあシバ、エリムを乗せてあげてくれないか」
シバが屈んでくれたので、俺はエリムを引っ張り上げた。
そうして俺とロジャの前にエリムを乗せ、シバは東へと駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます