精霊の森 "魔王国横断"編(4 / 12)

その日の昼、第一魔王国リュウノスミカ、その西に位置する炭鉱群にて。

とある1つの炭鉱で働いていた数百人の人々はみな外に出され、整列させられていた。

表情はみな一様に青い。

それは多くの強力な魔族・モンスターたちに辺りを囲まれているから……

ではなかった。


「おいおい、なんてぇことだよ……」


人々は耐えるように口を押え、一様にして天を見上げていた。

それもそのはず。

整列したその正面に用意されていたのは高いはりつけ台。

そして、そこに縛られているのはエリムだった。

その炭鉱で働く者で、たびたび冒険者の話を聞かせてくれる彼女の顔を知らぬ者はいなかった。


「──エリム・フルワーズ、昨日、この者が国家反逆を企てたことが判明した……つまり偉大なる天下の大将軍殿への許されざる不敬を働いた大罪人である。よって、今日この場での公開処刑とする」


炭鉱の管理官であるそのカナリアの頭を持つその魔族は磔台の隣に立ち、魔力によって拡大した声で朗々と言い放つ。


「おっ、おいっ! さすがにヒデぇじゃねーかっ! その子は今日まで人一倍働いてきた──」


「ほう、口答えか」


管理官の手にどこからともなく黒い槍が生み出され──

それは一直線に飛んだ。


「ヒッ……」


中年の男のひとりがその場に座り込んだ。

腕からは出血。

槍は中年の肩を掠めて、その後ろの地面に突き刺さっていた。

辺りはシンと静まり返る。


「いいか人間どもッ! この光景をよく脳裏に焼き付けておくことだ! 反逆を働けばどうなるかを、そして改めて噛み締めろ……人間の無力さをなッ! お前もだ、エリム・フルワーズ」


管理官は鳥の眼をニヤリと細めた。


「いい加減認めたらどうだ? 他のA級やS級の冒険者たち、そして人類最強とまで謳われた国王らと共に肩を並べて戦うことすらできなかった無力な元冒険者よ。貴様の戦いはとっくの昔に終わってるんだよ。オロチ大将軍殿が全てを蹂躙なさったのさ」


「……ッ!!!」


「最期の言葉としてこう叫べ。『オロチ大将軍様のお慈悲・御赦しを賜りたく存じます。この身・この魂の全てを大将軍様へと献上つかまつり、死後ますますの忠誠を捧げることをここに固く誓います』とな。そうすれば一撃で楽に殺してやる。でなければ……」


管理官は両手に2本の黒槍を出現させた。


「七日八晩を徹して貴様に槍を突き刺し続けてやる。案ずるな、八晩経たずに死ぬことはない。やり慣れているからなぁ」


エリムは歯を食いしばった。


……私の戦いがとうに終わっている……? そんなの、言われなくても知っていた。


エリムは気づいていた。

労働者たちを勇気づけるような話を続けていたのは、全て自分の無力さから気を逸らすためのその場しのぎだと。

希望はあると、自分よりもいっそう無力な人々へと語り掛け慰めることで自己満足をしているに過ぎなかった。

そうして自分はまだ戦っているのだと自らにうそぶいて……自分の冒険者としての小さな"誇り"を保っていたのだ、と


そしてそれもまた、最後に粉々に砕かれそうになっている。

やはり自分の無力さゆえに。


……ふざけるな。


またしても"無力"、それが目の前に立ちはだかるのか。

そんなの……到底受け入れられない。

せめて、最期までこの小さな誇りだけは。


「私は……クソ将軍オロチ殿に物申すッ!!! テメェん家の枯山水なんざ私らの糞尿で作った肥溜めで充分だッ!!! 中庭のソコに顔突っ込んで溺死しろボケカスがぁぁぁぁぁぁッ!!!」


思いついた罵詈雑言。

私は感情のままに吐き出した。


「貴様ぁぁぁぁぁッ!!!」


「グぁッ!?」


管理官の手が伸びて、私の首を掴んだ。


「どうやら殺されたいらしいなッ、エリム・フルワーズ!」


「ぐっ……八晩は殺さないんじゃあなかったっけ?」


「……! 地獄を見せてやる……!」


「お好きにどうぞ、なら地獄の準備が整うまでは好きにやらせてもらう!」


エリムは押さえつけられた喉を精一杯拡張して、


「みんなッ! この際だから言っておく! いつか必ず私たちは勝利する!」


大声を轟かせる。


「人類は強いッ! その強さは私がこの目で見てきたから、それを最期まで信じて死んだ私を、どうかみんなも信じて、生きる希望としてほしいッ! いつかきっと、"救世主"が現れるッ!」


「いい加減に黙れッ!!! 拷問時に叫び声を聞けなくなるのは残念だが、まずはその喉を食い千切ってやる……!」


管理官の、カナリアのその頭が近づいた。

喉にその先端が僅かに刺さる感触。

エリムは覚悟を決めた。


……ああ、終わった。終わったんだ。


結局、叫ぶこと以外はなにもできなかった。

でも最期まで小さな小さな、そんな"誇り"だけは守り抜いてみせたんだ、と。

そうして強く目を瞑った……

次の瞬間だった。


ビュオンとエリムの横を通り抜ける一陣の風、

そのまぶたの裏を通り過ぎる輝かしい黄金の光、

それとともに、エリムは自分の体がフワリと浮き上がるのが分かった。


……いや、違う。抱きかかえられている……?


恐る恐る目を開く。

エリムの視界に映ったのは、黄金の剣を背中に差し、体に光の粒子を纏った同じ年代くらいの男の姿。

磔にされていたはずのエリムは、いつの間にかその男に"お姫様抱っこ"をされて宙を飛んでいた。


「……っ!?」


あまりの突拍子の無い展開にエリムは声が出ない。

慌てて辺りを見渡す。

カナリアの頭が、だらしなく舌を出しっ放しにして宙を舞っていた。

それと同時、眼下では、


大剣を担いだ女が、

大きな狼とそれに跨るエルフが、

際どいスリット入りドレスの少女が、

魔法杖を持ち空を飛ぶ幼女が、


磔台を中心に辺りを囲むようにしていたモンスター・魔族たちを瞬く間に蹴散らし始めていた。

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