第二話 演説
どこぞのメーカーより発売されたSFゲーム、「スペース・アーティア」。
それについて俺が持っている情報はあまりに少ない。というより某SNSアプリで流れてきた30秒程度のショート動画くらいでしか知らなかった。
ゲームのあらすじとしては「異星人国家の侵略を受けてボロボロになった地球人たちが、新兵器を開発して反撃に出る」とかそんな感じだったはず。
動画のタイトルは「悪逆皇女ローゼ・ジンケヴィッツの華麗なる活躍」。
肝心の内容は確か……
・ローゼが皇帝にテラージュ征服を命じられる場面(さっきのやつだ)
・逃げようとしたところを誰かに刺され、基地ごと爆散するムービー
の二つ。
コメント欄では、最初に見せた強キャラ感と「ぷぎゃら」と特徴的な断末魔のギャップも相まって「即オチ二コマじゃんw」とか、「ぷぎゃら姫堂々退場!!!」とか散々ネタにされていた。
つまり、このまま進めば間違いなくその破滅ルート一直線だ。
しかもゲーム内イベントの知識がないから何が破滅に繋がるかも分からない。ついでに顔が隠されていた犯人含め、主人公はおろか彼女以外の登場人物を誰一人知らない状態。
ほんと、これでどうしろっていうんだよ……。
脳髄に染みわたる絶望感。
けれど、そんな俺でも察せられる破滅フラグがたった一つだけあった。それは彼女の目的ーー「地球侵攻」だ。
だいたいこういうのは、どれだけ追いつめても何故か宇宙人側の兵器に致命的な不備があってそこをつかれたり、突然生えてきた地球人側の超技術によって全部台無しにされると相場が決まっているのだ(偏見)。
だから地球と絶対に対立しなければいい。
さっきのあれが本編と全然関係ないやつで、テラージュとやらが地球じゃないんだとしたらまだ希望はーー
「……はっ。自分たちはエルドラーデ大銀河帝国軍に所属する軍人であります。
本作戦の目的はテラージュ、原住民には
偉大なる御身、そして
最前列にいた男性の言葉にともに、軍人さんたちがぴしりと敬礼する。
さりとて彼らの多くが覚悟なんてしてなさそうな、苦々しい表情を浮かべていた。
はい、アウト―。
地球侵攻の司令官かつ、人望ゼロとかフラグ立ちまくりやないか。
しかもあんな風に
あー、あー、マジふざけんなや。
……まあ、でも方法がないわけじゃないか。
最初の方は周りに合わせて地球を攻めるそぶりを見せて、近づいたら向こうに寝返えればいいのだ。
目指すは絶対的強者なのに何故か味方してくれる美少女宇宙人。
こっちの情報を流せば無下にはしないだろうし、この身分(多分皇女のはず)を考えれば交渉くらいには持ち込めるはずだ。
それまでに気を付けなきゃいけないのは、味方に裏切られないことーーつまり、良き君主であらねばなるまい。
そのためにまずは……そうだな。
乾いた唇をなめ、未だ敬礼を続ける彼らを見渡す。
鋭い視線を向けてくる、黒色や茶色など多種多様の肌色をした男たち。
……そーいやここに来て初めて白人っぽくない人を見た気がするな。俺もメイドさんもみんな肌が白いし。この世界の人種問題とかって、どうなってるんだろ?
って今はそんなことより、だ。
彼らの警戒を解けるよう、出来るだけ優しい声音で話し始める。
「そうか。では私からお前たちに与える命令は一つだ。
同じエルドラーデ人として、勝手に死ぬことは許さん。こんな些細な作戦さっさと終わらせて、全員で生きて帰ってこようじゃないか。以上だ」
(説明ありがとうございます。それではみんなにお願いすることはたった一つです。
同じ人間として、自分の命を大事にすること。こんな作戦さっさと終わらせて、全員で生き返って来ましょう。以上です)
ぼろを出さないために出来るだけ早く切り上げ、壇上中央の(多分俺のために設けられた)豪華な椅子に腰かける。
うう。全員で、とか騙しているようで気が引けるぜ。
……ってか、さっき俺のセリフ、めちゃくちゃ改変されてなかった?
これはあれか。キャラに口調まで引っ張られるやつかあ。
何やら戸惑った雰囲気の中、心の中で大きなため息をついた。
「しっかし、まさか姫様が俺たちのことを同じエルドラーデ人と呼ぶとは思いませんでしたね。
皇女ともなればバリバリの英才教育を受けているでしょうに……」
発足式も終わり、将官級のみが集められる会議へと向かう道中。
同郷の部下、ジェフ・ビットが軽い調子で聞いてきた。
それにエルドラーデ帝国軍准将、地球攻略艦隊副官のローガー・モルトはわずかに顎を下げて、同意する。
彼らが属するエルドラーデ大銀河帝国は、母星エルドラーデに始まり、他惑星への侵攻と植民地化を繰り返すことによって巨大になっていった国家だ。
その成立過程ゆえに母星出身の一等国民とモーガンたち植民惑星出身の二等国民には明確な身分差があり、二等臣民などただの自分たちにとって都合がいい駒でしかない、というのが彼ら一等国民の認識だった。
軍で出世するなど、身分差をひっくり返す方法はいくつか存在するものの、それでも準一等国民にしかなりえず、階級も准将より上には絶対に上がれない。
そんな状況にあって尚、ローゼ殿下は同じエルドラーデ人と確かにそう言ったのだ。
国の中枢にいて、彼らの選民思想を浴びてきたであろう彼女が、だ。
「……暫く様子を見ましょうか。
今まで会ってきた彼らとは何かが違うかもしれません」
「りょうかいです」
ジェフの雑な敬礼を横目に、早足で進む。
エルドラーデ帝国第十三皇女 ローゼ・ジンケヴィッツ殿下。
聞いた話では能力がないのにプライドだけは高いお嬢様、ということでしたけど……そうは見えませんでしたね。はたして何が本当なのやら。
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