【なろう系はなぜ生まれたのか】
【なろう系はなぜ生まれたのか】
ライトノベルとの相違点を並べた前項を読んで、「だからなろうはダメなんだ」と思った読者も少なくないのではないだろうか。
たしかに、現代社会において、タブーが存在せず、主人公が利己的で、無双する物語が上質な作品とは評価されづらいだろう。
だが、私は前項で両者の区別を明確にしたかっただけであり、優劣を論じたいわけではない。
優れている・劣っている・高尚・低劣。そんな上下の価値観は、この項を読んでいる間はできるだけ忘れて頂きたい。
では、偏見のフィルターを取り除き、虚心坦懐な目で見るとして、なぜなろう系は上記のような特色を持つに至ったのだろうか。
作者の腕が未熟だから?
これにははっきり否と断言したい。確かに投稿サイトは誰でも文章が掲載でき、無料で閲覧できる。出版社から刊行され、編集者とともに推敲し、買値がつく商業的書籍と比べ劣ったものであるとみなしたくなる気持ちは分からないでもない。
だが、膨大な投稿作品のあるサイトにおいて、上位の閲覧数を誇る著者の筆力・感性は商業作家に劣るものでは決してなく、私的な感想を言わせてもらえば、それを凌駕している作家の方が多いように思う。
ならば、読者の感性が未熟だから?
こちらはやや正解にかすっているように思う。
だが、本質的ではない。
ウェブ作品のアクセス数は膨大な量だ。書籍の売上とは桁が二つも三つも違う。
何万、何十万といる、ランキング上位作品の閲覧者の全員が全員、精神的に未熟で、セックスや殺人を悦び、自己中心的で、困難を避けたがる人々ばかり、というのは冷静に考えてありえそうにない。
なろう系も読むが、ラノベも好き、ジャンプコミックスもよく読む、なんていう読者もいるだろう。
そうした読者が多重人格症を抱えているとは思えない。
察するに、小説投稿サイトを訪れ、ランキング上位のなろう系作品を愛好する読者も、おおっぴらにはそれが好きだとは言いづらく、なんとなく気恥ずかしい思いを抱いているのではないだろうか。
何故それを好んで読むのか、自分でも理由がよく分からないからだ。
YouTubeでもTikTokでも、ウェブという、大量のユーザーに対し、大量のコンテンツ供給もある世界で上位を得ようとすれば、能動的にそのコンテンツを視聴しようとするアクティブユーザーに向けて作品を作るだけでは不十分だ。
受動的、無意識的にアクセスする、”なんとなく”、“つい見てしまう”という中毒性も必須である。
ランキング上位の投稿作品を供給している作者の多くは、このコツがよく分かっている。
中には無双系主人公が大好きで大好きでたまらず、自分の書きたいものをただ書いているだけ、という作者もいらっしゃるかもしれないが、多くの作家は意図的に、どうすればランキング上位を狙えるか、ユーザーの無意識的な声なき声に耳を澄ませ、作品を創りあげているのではないだろうか。
つまり、この項での結論は以下の通りである。
「なろう系が上記に挙げた特色を帯びるのは、ウェブユーザーの無意識的欲求に応えようとした結果である」
無意識の欲求というのは、なんとなくバツが悪い。自分でもなんでそれを視聴したのか理由がはっきり言えないから、つい時間をムダにしてしまったと思いがちである。
なろう系がどうにも軽んじられる傾向があるのも、ここに原因があるのではないか。
だが、無意識の欲求を満たす。
これがいかに凄いことであるか、私は次項で力説したい。
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