正義の味方をやっているんだが、同学年の超絶美少女に正体がバレた上なぜか告白された

どうも勇者です

[露見]

 城西学園、そこは由緒正しきお嬢様学校……だったはずの場所だ。


 近年の男女平等・LGBTQの問題もあり時流に合わせた経営陣が共学化するに伴って、男子にもその門戸が開かれるようになった。


 しかし、実態はほとんど女子校と言ってもいい。

 

 まず男子の数が少ない上に長年女性グループで培われてきた土壌はそう簡単に男子という生き物を受け入れはしなかった。


「くうぅ、今日も学校かぁ」

「だりいよな」

「バッカ、お前。あの女子たちのご尊顔を拝めるんだぞ、あの女子たちの!」


 俺の隣で熱弁するのは友人の田辺照史たなべあきと

 城西学園に女の子目当てで難関と言われるテストを突破してわざわざ入ってきた変わり者だ。


 ちなみに、俺の志望理由は家が近かったから。これを話すと男女共に嘘つけという顔をされる。なぜだ、解せぬ。


「あっ、すいません!」


 バスに乗っていると、車内が揺れて体が後ろの人に当たってしまう。


「いえ、大丈夫よ」

「はわわわわ、貴方様は……!」

「……知り合いか?」


 田辺に聞くと、あいつは耳元を寄せて本人に聞こえないような小声で話し始めた。


「知らないのか!?」

「全然」

「くーっ、これだから志望理由家が近かったからですの人は!」

「それは今関係ないだろ」

「いーや、関係あるね」


 田辺は一本の指を立てる。


綾無千世あやなしちせ、日本でも屈指の才媛才女が集まる城西学園で一番に可愛いとされる女子生徒だぞ。見ろ! あの凛々しい佇まいを……何と神々しいのか」

「そこまで言うか……」


 まあ、確かに可愛いと思わなくもない。


 170cmほどの身長にモデルのようなスタイル。

 

 硝子のように艶を帯びた濡れ羽色の長髪に凛々しい顔立ち。


 目元なんかは切れ長で芸能人のあの人を思い出す。えっと……誰だったか。


 とにかく、とても美人ということだけは分かる。


「親の片方はスコットランド人のハーフで、瞳の色はヘーゼル! あの美目に見つめられたいと別のファンクラブが出来たほどなんだぞ!」

「待った。別の?」

「ああ、既にファンクラブはできている。その上で『綾無千世様に見つめられたいの会』が発足したんだ」

「バカじゃねえの……」

「バカなのはお前だ。それほど凄い方なんだよ」

「はぁ〜」


 そう言われてみれば今英単語帳片手に勉強している姿も『芍薬』然とした感がある。これが才媛の雰囲気というやつか。


「その上勉強もできる正真正銘のお嬢様、親も金融関係の仕事をしていて、中学生の頃には芸能界からオファーがあったんだぞ」

「待て。何だか詳しすぎないか? 一体どうやって集めたんだ、そんな情報」

「城西学園にいたらい・や・で・も耳に入ってくるだろうが!」


 全然身に覚えがないぞ、そんな話。


 だが、とにかく俺達が凄い人物と出会したことは分かった。


 だから、なんだというわけでもないが……


「分かった分かった。要するに凄いんだろ」

「お前……この学園にいて女子に興味薄すぎだろ」


 すると、バスが不自然に揺れる。


 不審に思っていると、またバスが揺れた。


「何だ……?」

「どうした?」


 次の瞬間、頭上からくぐもった声が聞こえてくる。


「きしゃーしゃーしゃ、このバスはおいが乗っ取ったズラ。観念するズラ!」


「何?」

「何の声?」


 乗客達が騒ぎ始める。まさか……!?


「このバスは吾輩『たい焼きマン』が乗っ取ったズラ。いい加減ドアを開けるズラ」

「きゃー、怪人よー!」


 乗客の一人が思わず叫んでしまう。その声を皮切りにバスは阿鼻叫喚の渦に巻き込まれてしまった。


「いやぁあああああ」

「出せ、ここから出せ」

「お客様、どうか落ち着いてください!」

「いいから開けろ車掌!」


 サラリーマンが怒号を上げる。OLの人は座席でうずくまり、すぐにバスが停車された。


「きゃっ」

「っと、大丈夫か?」

「え、ええ……」


 停車の勢いで前のめりに倒れそうだった綾無を抱き止める。


「俺たちはもう行くから、綾無さんも早く避難した方がいいよ」

「ええ、分かってるわ」

「それじゃ。おい、照史。行くぞ!」

「ん、ああ!」


 バスのドアが開き客が雪崩のように外を目指す。俺たちもすぐに外に出た。


「あれえ、客がいなくなったズラ。これじゃ困るズラね。それじゃ車掌を人質に……」

「ひいっ……!」


 不味い!


「照史っ、お前は先に学校に向かえ!」

「えっ、鳴橋は!?」

「俺はトイレだ!」


 すぐに路地裏に駆け込んで変身の暗号を詠み誦じる。


「止まれ止まれ止まれ止まれ、繰り返す度に四度閉じる。

 歌え歌え歌え歌え、繰り返すたびに五度開く。

 開けよ閉じよ開けよ閉じよ、北の門は西に、東の門は北に」


 詠唱の最中、いつものように下半身からぐっと力が湧き出てくる。


「星上牡丹の時雨の庭、暁月に照らせ!」


 


「きしっしし。こいつを使って次は銀行強盗でもしてやるズラ」

「待てっ!」

「むむ、その声は!」


 怪人が振り向く。


「この声は!」


 誰かが言った。


「星から星に、泣く人の、涙背負って雁字搦め……懲役戦士ブラック、参上!」

「ブラック、貴様かああああ!」


 たい焼きマンは怨嗟の声をあげる。ブラックが距離を縮めようとすると、たい焼きマンはすぐに待ったの声を上げた。


「近づくんじゃねえズラ! こいつがどうなってもいいのかズラ?」


 たい焼きマンの手は大きなカニのハサミになっている。それが人質にとっていた車掌に突きつけられた。


「ひいっ! た、助けて!」

「余計なことを喋るんじゃねえずら!」

「おいおい、人質かぁ? 随分と盛り下がることしてくれるじゃねえか。臆病風にでも吹かれたか?」

「五月蝿い! おいらはこいつを使って銀行強盗でたんまり金をもらって、母ちゃんにいいもん食わすんだ!」

「怪人には母親いねえだろうが」


 ブラックと呼ばれた男は一歩たい焼きマンに近づく。


「な、何近づいてるずら! こっちに近寄るなずら! この人質がどうなっても……」

「人質が何だって?」

「なっ」


 たい焼きマンが懐を見ると、そこには既に人質の姿がなかった。


「あ、ありがとうございます!」

「ちょっと待ってな。すぐにバスも使えるようにしてやるから」

「は、はい!」


 たい焼きマンは自慢のたい焼き部分の頭を真っ赤にして怒りを表現する。


「ブラックめ、卑怯な真似を!」

「卑怯なのはどっちだよ……だが、これでもう終わりだなぁ」

「ひいぃ、待ってくれ。おいらには秋田に置いてきた父ちゃんと母ちゃんが──」

「だから、怪人に両親なんていねえんだよ!」


 ブラックは体勢に入り大きく跳躍する。


 そして、稼いだ位置エネルギーを再び運動エネルギーに変換。そして、懲役戦士の超パワーでさらに加速していった。


「喰らえ、シャドウキーック!」

「ぐわぁあああああああ!」


 たい焼きマンが爆散する。その光景を見ていた観衆からは熱烈な喝采が贈られた。


「ありがとう、ブラック。街の平和のために!」

「ありがとう、ありがとう」

「おう! ……っと、いけね。そろそろ授業の時間だ」


 ブラックは自身の能力を発動し路地裏に駆け込むと影と一体になる。


 そして、周囲に誰もいないことを確認してから能力を解除した。


「ふー、大変だったな。やべ、そろそろ行かないと遅刻だ」


 そう言ってブラックは、鳴橋拓人という青年に早変わりする。


 そう、今作の主人公鳴橋拓人こそが正義の味方ブラックだったのだ。


「ブラッ……ク?」

「なっ」


 周囲に誰もいないことは確認したはずだ。そう言いたくなった鳴橋だが、しかし。


「……鳴橋、くん?」

「……綾無!」


 無常にもそこには、スマホ片手にこちらを伺う綾無千世の姿があった。









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