48話

『炎の電話ボックス』ダンジョンの小ボスを倒し、遂に【スライムの呪い】を打破した僕たちが次にやってきたのは、ボロアパートから『虚無の館』ダンジョンへと続く道の途中だ。


 というのも、この辺りで僕が何者かとぶつかったことから例の呪いは始まったわけで、何か手掛かりはないかと思って。


 僕の場合、普段はあまり目立ちたくないのもあって、大通りじゃなくて狭い路地を行くことが多くて、周辺は日中でも薄暗くて複雑に入り組んでいるので好都合なんだ。


 多分、ここら辺で僕にぶつかって【スライムの呪い】をかけてきた人は、それを熟知してて待ち伏せしてたんだと思う。なんせ、ほとんど人を見かけないような場所だしね。


 そういうこともあってかなり用意周到だと感じたし、これは相当に根が深いんじゃないかな。それが僕個人に対する恨みなのかどうかは置いといて、ぶつかった場所はなんとなくわかるので、そこまで来れば僕は何か記憶が蘇るんじゃないかと睨んだんだ。


 あのとき、相手の姿は見えなかったけど、ここに来れば軽く衝突したときの感触とか思い出せないものかと思って。些細な事柄でもそれがヒントになるかもしれないから。


 ……って、リサたちがいつの間にかいないと思って探したら、オグだけそこにいてオロオロと周りを見渡していた。


「オグ、何やってるんだ?」


「ブヒイイイィッ……(あ、親分。実は俺、リサちゃんたちを探そうと思って……)」


「かくれんぼやってたんだ」


「ブヒッ、ブヒヒイイイイィイィッ(へい。でも俺、こういう図体だから狭い路地に入れねえし、だからって強引に入って路地の壁をぶっ壊したら怒られそうなんで)」


「ははっ……」


 仲間にしたことで落ち着いたっていうのもあるんだろうけど、オグってこう見えて意外と几帳面なんだなあ。これじゃ一生見つけられないよ。隠れたリサやクリスの含み笑いが聞こえてきそうだ。なんとなく予想はしてたけど、早くもリサたちに弄られちゃってるね。


 まあ僕の現状と似たようなものかも? 過去へ行けるわけじゃないから、いくら答えを探したってわかるわけないし……って、そうだ! うってつけのスキルがあるじゃないか……。


 僕はそこで、手に入れたばかりのアルティメットレアスキル【ビジョン】を使うことにした。


 お……半透明の宙に浮いた丸い時計が出てきた。


 自分で時計の針を自由自在に動かすことも、見たい時点に自動的に巻き戻ることもできるってことで、僕がこの辺で誰かにぶつかった場面を見たいと願うと、針が一気に逆回転していくのがわかった。


 視界だけが徐々にタイムスリップしていく。どれくらい遡ってるのかは、戻るたびにイベントボードに表示されるので手に取るように理解できる。


 確か、朝の8時くらいだったような……お、針が止まったその瞬間、物凄い速さで僕が走ってきたかと思うと、誰かにぶつかったところで足を止めた。振り返るんだけど相手は既にいなくなってて、不思議そうに首を傾げたあとしばらくしてまた先へと進んでいった。


 こうやって俯瞰して見ることができるからこそ、誰に衝突したのかがよくわかった。フードを被った人が電柱の影に隠れてて、そっと立ち去ったんだ。その動き方が見事で若々しくて無駄がないだけでなく、壁に背をつけた横歩きをやって素早くそこから離脱してるんだ。道理で、【開眼】スキルでも見つけられなかったわけだ。


 でも、【ビジョン】を使った結果、こうして過去が見られた上、フードの人が誰なのか大体予想できた。おそらく、占いの館の人だ。なんとも怪しげな空気を醸し出していたし、館がある方向へと一目散に向かっていたからだ。


 てか、占いの人が僕に一体なんの恨みがあるっていうんだ? まさか、マッチポンプってやつで、呪っておいて呪いを解決してお金を稼ぐ目的? よーし、早速占いの館に乗り込んでやるか。


 そういうわけで、僕は【神速】スキルで猛ダッシュしてシャッター通りまで向かうことに。


 リサとミリルは僕に及ばないものの、《溜め》ダッシュができるオグの背中に乗って追いかけてきてるし、クリスはさすがS級モンスターのドラゴンなだけあって普通に速くて、並走するほどじゃないけど振り返ると3メートルほど後ろまでついてきていた。


 商店街だと通行人が多くてなんだなんだと注目されたけど、シャッター通りになるとほとんど誰の姿もなかったので気楽だった。オグについてどう思われるか不安はあるけど、まあ顔色がちょっと悪い太ったおじさんに見えなくもない。


 僕はあっという間に占いの館まで到着し、リサたちも追いついてきたので、満を持して扉を開けようとしたら、なんと鍵が掛けられていた。しかも、しばらく休業しますって看板まであるし、タイミングわるっ……!


 ただ、居留守という手段を使われてる可能性もある。こっちは呪われた被害者なわけで、サツキみたいに乗り込んでやろうかなと思って【開眼】で店内を調べたら、見事にもぬけの殻だった。もう逃げられちゃったか……。


 そうだ。【ビジョン】でこの扉の周辺を探れば何かわかるかもしれないと思い、過去を覗き見ることに。


 時計の針がガンガン逆回転していったあと、店の扉からリサとミリルを連れた僕が青ざめた顔で出てくるのがわかった。この場面、これから呪われてるって噂のダンジョンへ行かなきゃいけないってことで気分が悪かったのもあるけど、占いの料金が思ったより高くて、2万円もしたのでそれも痛かったんだよね。


 よし……ここから微調整して、少しずつ時計の針を進ませることに。そうすれば扉の中から占い師が出てきて、どこへ向かうのかがわかるはず。


 お、受付嬢が出てきた。あのときとは打って変わって、険しい顔つきでキョロキョロと周囲を見渡して警戒してるみたいだし、あの占い師と共犯っぽいね。さあ、早く出てこい。詐欺師を兼任してる占い師の婆さん……。


 ――よし、出てきた出てきた……って、あ、あれは……!? 僕はその意外すぎる姿を見て、驚きのあまり目玉が飛び出すかと思った。これは、予想の斜め上を行くとんでもないだ……。

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