46話


『――ブヒイイイィッ!(おう、待ってたぜ! てめえは女か!?)』


「そ、そうぢゃ。女で悪いか!?」


『ブフォオオオォッ!(おっ、元気のいい雌だな! 俺の好みだ!)』


「う、う、うるさい! 我がお前なんぞの好みだなんて、まったくもって汚らわしいのぢゃ!」


『ブヒイイイイィィッ!(みなぎってきたあぁぁぁ! 俺の嫁にする!)』


「な、なんか勝手に興奮しとるぞ、こやつ!?」


「あははっ……」


 クリスに電話させたのは大正解で、ストライクゾーンのど真ん中だったらしくてすぐにボックスが消えて場外乱闘に持ち込むことができた。


『ブッヒイイィィッ……(さあ、俺と盛大な結婚式を挙げよう……)』


「よ、寄るでないっ!」


 おお、なんだこのオーク。王冠をつけてるし、お腹は出てるけど衣装も豪華だと思ったら、どでかい棍棒に加えて花束まで持ってた。クリスの前で巨体を捻らせてもじもじしてる間に、【開眼】スキルでステータスを調べてみよう。


 名前:オークキング

 モンスターランク:A★

 特殊能力:(3)

《威圧》《溜め》《自然の恵み》


 へえ、ランクに星がついてる。そういえば、星があるモンスターはユニークモンスターほどレアじゃないものの、プチユニークでたまにしか遭遇できないんだとか。A+のように、ただ単にAランクより少し強いって意味じゃなくて、同種のモンスターと比較してもある程度の知性や独自性を兼ね備えてるらしい。


『ブヒヒヒヒッ!(さあ、俺と一つになろう!)』


「ひいぃっ! く、来るでないっ!」


 クリスにはちょっと申し訳ないけど、頬を染めたオークキングが彼女を口説いてる間に特殊能力もついでに調べる。


 まず《威圧》については、半径3メートル以内の敵の攻撃力を半減させるものなんだとか。《溜め》は、隙だらけになるけどその間に力を溜めるもので、それを使ってからしばらくはパワーとスピードが3倍になるそう。


 最後の《自然の恵み》は、キノコやら木の枝やら花やら、自分の体力を消耗して動植物か出てくるんだとか。あの花束はそれで出したのかな? やっぱりある意味ユニークモンスターだね……。


 っと、こういう珍しいモンスターが登場したならスキルについてのメッセージが出てるんじゃないかと思ったら、やっぱりあった。


『現在、このダンジョンではSSRスキルが獲得できる状態です。習得条件は、オークキングの欲望を9分間維持させることです』


 欲望の維持かぁ……。確かオークって、短気で飽きっぽいんじゃなかったかな。それがキングとなれば尚更。今はクリスに夢中みたいだからいいけど、それを9分も持たせるとなると難しそうだ。


『ブヒブヒイィィッ!?(だいちゅき! 俺のほっぺにちゅーして?)』


「ひいぃぃっ!」


 オークキングのほっぺに強烈なビンタを食らわせるクリス。ははっ……相変わらずだけど、彼女の態度がずっと変わらないのでそのうち相手の関心が薄くなる恐れもある。【テレパシー】スキルでクリスと交渉してみるか。


『クリス、ツンツンばっかりじゃなくて、たまにはデレてみてっ』


『ぬぁっ!? い、いくら主の頼みであっても、それは……』


『頼むよ、クリス。言うとおりにしてくれたら、魔石をもう1個あげるから。ねっ?』


『……ま、魔石……じゅるりっ。わ、わかったのぢゃ……』


 彼女は渋々といった様子だけど了承してくれた。魔石はモンスターにとっては大好物だからね。


『ブヒイイインッ(本当は俺のことが好きで好きでしょうがないくせにぃっ)』


「な、何を言っておるのかよくわからぬが……き、嫌いぢゃが嫌いぢゃないぞ……」


『ブヒィッ!?(俺の気持ちが遂に伝わった!?)』


 クリスが露骨に避けなくなった影響か、オークキングが目を輝かせてる。いいぞ……って、思ったら、興奮のあまりか両手を広げて彼女に抱きつこうとしてる。これはまずい……!


『ブッヒイイイイイイィィッ!(俺が抱きしめてあげるうぅぅぅっ!)』


「死ぬのぢゃっ!」


『ブギイイイイィッ!(うぎゃあああああっ!)』


 クリスの拳が文字通りオークキングの顔面にめり込んでしまった。


 あーあ、これで怒らせちゃっただろうし、ロードしなきゃなあ……って、あれ? あいつ、鼻血を垂らしながら痛そうに立ち上がったかと思うと、欠けた歯を丸出しにして二カッと笑った。


『ブヒブヒブヒイイィィッ!(しおらしい態度からの、強烈なパンチ、超可愛いっ!)』


「は、ははっ……」


 このオーク……さすが、キングなだけあってとんでもない変態だった。お、早くも9分経過したのか、スキルボックスが落ちた! どれどれ……。


『SSRスキル【強欲】を獲得しました』


【強欲】……!? いかにもオークキングが関係してそうなスキルだけど、どんな効果なんだろう?


『スキルを獲得できる枠が二つ上昇する。また、モンスターを倒したときにアイテムがドロップした場合、二倍になる。これは仲間が倒した場合にも適用される。さらに、【腕力上昇・大】と同等の効果がある』


 うわぁ、さすがダブルスーパーレア! 目移りしちゃうほどに欲張りな効果が並んでる……ん? なんかやたらと殺気がすると思ったら、僕の背後にクリスが隠れるように座り込んでて、オークキングが目の前にいることから色々と察した。


『ブヒイイィッ……!(おい、そこの人間野郎、邪魔だからどけ……!)』


「わわっ……」


 これぞ、オークキングの特殊能力の一つ、範囲系で攻撃力を半減させる《威圧》ってやつだね。結構な迫力だ。


 ただ、今の僕には【腕力上昇・大】の効果もある【強欲】スキルがあるんだ。


 パパッと片付けてトンカツにしちゃうおかなって思ったけど……なんかこいつ憎めないし【魔物使い】スキルでテイムしてやる。まずは【テレパシー】で宣戦布告だ。


『覚悟はいいかな、豚野郎!』


『ブヒイイイッ!(受けて立つぜ、人間野郎!)』


 僕はバトルを楽しむために、あえてオークキングに《溜め》を使わせて戦うことに。お、さすがに爆速といえるくらいのスピードだけど、【神速】スキル持ちの僕には全然及ばないし、棍棒を小剣で受けてみたけど、半減してても【腕力上昇・大】スキルがあるので片手で軽々と受け流すことができた。


《溜め》の効果も切れたみたいだし、そろそろだねってことで、僕は徐々に体力を削るべく、グルグルとオークキングの周囲を回りながら攻撃してやる。


『ブ……ブヒイイイィィッ……!(はぁ、はぁ、この人間野郎、強すぎる……!)』


 大分疲れてきたようなので、セーブして100分の1ガチャにチャレンジだ。今回はどれくらいでテイムできるかなあ?


『――テイムに成功し、オークキングが仲間になりました』


「フ、フゴオォォッ……(ま、負けちまったのか、俺は……)」


 よおぉぉーし、たった12回でいけた! これで僕のボロアパートがより一層賑やかになるぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る