40話
――おっかしいなあ。妙だなあ……。
翌朝、リサとミリルを連れてボロアパートを出発した僕はいつものように『虚無の館』へ行って、今隠し部屋にいるんだけど、【セーブ&ロード】を繰り返して、51匹×10セットも倒したっていうのに、魔石が1個も出なかった。
こんなことは珍しい。【フェイク】を使ってコウモリの数を少なく見せてるから、視聴者には当たり前のことのように映るだろうけど。
こうなったら魔石が出るまでもうちょっと繰り返そうかなって思ったけど、面倒だしもういいや。今度は『青き森』に行ってみようと思う。そろそろ中ボスが出る頃だからね。
中ボスが出現した時点で、【開眼】スキルの効果で激レアスキルが獲得できる状態になりそうだし楽しみだなあ。
――あれぇ……?
そういうわけで、早速コンビニ近くの『青き森』に狩りの舞台を移した僕は、リサに《遠吠え》を吸わせるまでもないと思い、ウルフたちを少し集めて倒すってことを繰り返してたんだけど、未だに中ボスは出なかった。
うーん、なんでだろう? まだまだ数が足りないのかな? それに加えて魔石が全然出てないのも気になるところだ。よーし、まだまだ狩るぞ!
「――はあ……。リサ、ミリル。そろそろ帰ろうか?」
「うん、坊やっ」
「きゃんきゃん!」
体力的には【大食漢】スキルがあるから全然問題なかったんだけど、メンタル的なダメージが大きかった。いわゆる精神効率ってやつが最悪なんだ。あれから300匹は狩ったのに、中ボスはおろか魔石が1個も出ないなんて……。でも、こういうアンラッキーな日もたまにはあるよね……?
『カケルさん、今日はついてないですねえ。見てて、眠くなっちゃうくらい運がないです……』
『カケル様があれだけ倒したのに、魔石が一個も出ないなんて……こんなの、絶対おかしいです……』
『まったくの同感であります! カケル氏、これには何か裏があるかと!』
『私もそう思う。妙だな……』
「……だよね」
ここまで運がないことに、いつもの匿名さんを初めとする視聴者たちも奇妙だと思い始めてるみたい。今じゃもう動画の登録者が150人まで膨らんだこともあって、全部読むのは難しいけどね。
『カケル君、何か心当たりは? モテすぎて罰が当たったんじゃ?』
「ちょっ……」
最後のコメントを見て、僕は目が飛び出しそうになるかと思った。モテすぎて罰が当たったって……でも、心当たりについてはあるかもしれない。そういえば、確か今朝、『虚無の館』へ行く途中、誰かとぶつかったんだ。
謝ろうとしたけど、気づいたらいなくなっててモヤモヤしたままダンジョンに行ったのを今でも鮮明に覚えてる。ってことは、そのときに何かされちゃったんだろうか? ってことで、僕は自分のスキルボードを確認してみる。
名前:時田翔(呪われています)
ハンターランク:E★★★
所持スキル:(9/21)
LRスキル【セーブ&ロード】
URスキル【開眼】【殲滅】【異次元開拓】
SSRスキル【神速】【魔物使い】【大食漢】
SRスキル【フェイク】【料理】
称号:《受付嬢ハンター》
別になんでもな――って! いやいや、名前の隣に(呪われています)って……超怖いんだけど……!? 称号がまた変わってるし、受付嬢のファンが僕を呪ったんだろうか?
「ミリルちゃん、こっちおいで!」
「きゃんきゃんっ……!」
「…………」
リサとミリルが楽しそうに追いかけっこしてる間、対照的に血の気が引く思いだった僕は、これはどういうことなのかと思って【開眼】スキルで調べてみる。
『SRスキル【スライムの呪い】の効果がかかっている状態です』
ス、【スライムの呪い】だって……? なんじゃそりゃ。そもそも僕はスライムが出るダンジョンにも行ってないわけで、スライムから呪われるいわれなんてないんだけど! ってか、どうすれば解除できるんだろう?
『【祈祷師】スキルを持った者でなければ、呪いの効果や解除の方法までは不明となります』
「…………」
そういえば、呪い系スキルの効果はそのレア度以上に強力なんだとかで、【鑑定】スキルでも呪いの名前すらわからないらしいし、【開眼】はそれを見抜いた格好だけど、さすがに呪いの深部までは見通せないか……。
でも確か、呪いにかかったハンターを祓う専門の人が【祈祷師】スキルを持ってて、場合によっては呪いを解除してくれるって聞いたことがある。よし、早速その人がいる店へ行ってみよう。
第17地区の中心部から少し北のほうにある商店街の、さらに奥のほうにシャッター通りがあって、その一角にオープンしている店が二軒だけある。一つはダンジョンの入り口にもなってる古本屋で、それに正対する格好で目的地の占いの館がひっそりと佇んでいた。
「――ど、どうも……」
扉を開けると、僕が思っていた蝋燭に照らされた陰気な場所とは全然違ってて驚いた。壁が水玉模様になってて全体的に玩具箱みたいな雰囲気で、とにかくポップな色調の部屋で明るいんだ。
中央にソファと受付のカウンター、右側に小さなブランコやらボールやら、子供の遊び場みたいなのがあって、左側にL字型の通路があるのがわかった。
「はーい。お客さん、左手のほうへどうぞ~。あ、お子様とペット様は、右手のほうで適当に遊ばせてもよろしいですよ~」
「ほぇえ?」
「クゥーン?」
「あはは……」
なるほど、この占い屋は子供やペットを連れた人向けでもあるんだろうね。
「それじゃ、リサとミリルはあそこで適当に遊んでて。すぐ戻るから」
「うん、坊やっ!」
「きゃうん!」
早速遊び場でボール遊びをするリサとミリルを尻目に、僕は受付嬢が指示した通り左側へと向かうと、L字型の細い通路の奥に台座と二つの椅子があり、フードを深く被ったローブ姿の怪しげな人が水晶玉の前に座り込んでいた。
「――お客さん、随分困ってるみたいだねえ」
「あ、はい。なんか、呪われちゃったみたいで……」
あれだけ深くフードを被ってたらこっちの姿が見えないはずなのに、僕が座った途端に話しかけてきた。ミイラみたいな手で声もしわがれてる。こっちはイメージ通りの占い師さんだ。
もちろん、鑑定系のスキルで色々と見通される可能性を考慮して、【フェイク】で呪われている部分以外はちゃんと隠してある。
「で、いつからなんだい?」
「つい最近です」
「ふむふむ……。まずはあんたの名前と生年月日を聞こうか。それから両手の手相を見せてごらん」
「はい。僕の名前は――」
僕が言われた通りにしてると、占い師のおばさんが急にガタガタと震え始めた。ちょっ……!?
「こ、これはっ……。あ、あんた、とんでもない呪いをかけられとるね……」
「と、というと……?」
「【スライムの呪い】ってやつさ。これにかかると、雑魚モンスターをいくら倒しても何もドロップしないし、倒したことにカウントすらされない」
「え、えぇっ……」
ちゃんと言い当ててるし、呪いの効果も納得できるものだった。道理で、いくらモンスターを倒しても魔石も中ボスも出なかったわけだね。
「治す方法とか、あるんですか……?」
「…………」
いや、なんでそこで黙っちゃうんだよ! 占い師も商売だから仕方ない面もあるんだろうけど、不安を煽られて吐き気がしそうだった。
「あ、あの――」
「――あるにはある……」
「そ、それは一体、どんな?」
「……ダンジョンじゃ。占いによれば……この呪いを解除するには、『炎の電話ボックス』ダンジョンへ行き、ボスを倒すしかないと出ておる……」
「……ほ、『炎の電話ボックス』ダンジョンでボスを倒す……?」
そこって、呪われてるって噂のダンジョンじゃないか。そこでボスを倒せば、呪いを呪いで相殺できるってことなのかな……?
でも、低級ハンターがボスを登場させるには雑魚モンスターを沢山倒すしかないはずだけど……って、そうか。確かそこってランクが低くても強いモンスターと戦える仕様があるんだとか。
一体誰がなんの目的で僕に【スライムの呪い】をかけたんだとか、色々と不可解なことはあるけど、とにかく今は『炎の電話ボックス』でボスを倒して呪いを解くしか道はなさそうだね……。
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