39話
『死霊のレストラン』ダンジョンをあとにした僕たちは、夕方が近いのもあっていつものボロアパートへと帰ってきた。
もうそろそろ夕食の時間なんだ。焼肉をいっぱい食べたのでお腹は空いてないとはいえ、【大食漢】スキルがあるから食べようと思えば食べられるし平気だ。地味に便利なスキルだね、これ。
「ただいまー」
「ただいまぁ」
「きゃあんっ」
あれ? 来るんじゃないかって一応警戒してたんだけど……サツキ、今日はテレポートしてこない?
「――おかえり。カケル、リサ、ミリル。楽しそうだったな」
「うあっ……!?」
ちょっと間を置いてからサツキが【瞬間移動】してきたので、かなり心臓に悪かった。
「た、楽しかったよ……って、それがわかるってことは、まさかサツキも僕の動画、登録してるの?」
「さあな?」
「あれ、サツキ、なんか怒ってる?」
「そりゃ、カケルがああいうことを書かれてたら怒る。これを見ろ」
端末の画面を近づけてくるサツキ。やっぱり掲示板の連中がまた騒いでたか。どれどれ……?
【底辺専用】第17支部のダンジョンについて語るスレpart1438【荒らし厳禁】
444:名無しのハンター
とうとうカケルのやつ、《死神ちゃん》まで攻略したのかよ。。。
445:名無しのハンター
>>444
あいつ、カエデちゃんやリサちゃんに加えて謎の幼女も従えてたらしいしな。《幼女ハーレム野郎》、マジ羨ましいわ。。。
446:名無しのハンター
俺たちのユメさんを返せ、アオイさんを返せ、リサちゃんを返せ、カエデちゃんを返せ、謎の幼女ちゃんを返せっ!!!
447:カケル氏ね!
もうこうなったら、カケルを呪うために祈祷師のところへ行こうかな?
449:名無しのハンター
もう嫌だ。。。生まれ変わったらカケルになりたい。。。
450:名無しのハンター
>>447 >>449
おい待て、早まるな。
おっさんの俺でよければお前たちの幼女になってやるから。
451:名無しのハンター
お前ら、落ち着けってw
幼女じゃないが、俺たちにはまだ、『炎の電話ボックス』ダンジョンのひよりタンがいるだろ!
452:名無しのハンター
>>451
ありゃ幼女っていうか妖女だなww
ひよりちゃんは可愛いけど、あのダンジョンだけは絶対行きたくないな。
「……うわ……」
僕の称号を弄って騒いでるかと思いきや、それとは真逆の意気消沈ムードだったので驚いた。というか、リサちゃんを返せ、謎の幼女ちゃんを返せって……君たちのものじゃないだろうと。落ち込んでるように見えて、そういう図々しいところは相変わらずだ。
中には珍しい話題も出てて、『炎の電話ボックス』ダンジョンのことを書いてる人がいた。ひよりさんはそこの受付嬢で、美少女なんだけど怪しい空気をこれでもかと放ってるんだ。
ちなみに、そこは呪いのダンジョンとも呼ばれていて、なんでかっていうと、有望なハンターがそこへ行くとすぐ引退してしまうっていうジンクスがあるからなんだそうだ。
実際、掲示板で話題になってた有名ハンターたちがそこへ行ったあと、ほどなくして引退したって話を何度か見たことがある。そのため、怖がって行きたがるハンターも少ないって話で、今では『虚無の館』並みに過疎ってるんだとか。E級ダンジョンだから僕も行こうと思えば行けるけど、そんな話を知ってる以上遠慮しておきたいところ。
「――カケル、聞いてるか?」
「あ、う、うん!」
サツキがさっきから僕の隣で不満そうにブツブツ言ってるのは知ってたけど、掲示板を見るのに夢中で正直聞いてなかった。
「これじゃまるで、カケルが女たらしみたいじゃないか。しかも相手が幼女だということにして侮辱している。特に、カエデとかいうやつなんて、ユメと比べたら変な恰好をしてるだけの女なのに。正直、妙なことを書き込んだやつらの家に【瞬間移動】で乗り込もうかと思ったほどだ」
「はは……」
いや、乗り込むとか怖いって。そんなことを聞くと、サツキと初めて会ったあのときのことを思い出すなあ。
そうだ。『死霊のレストラン』に行ったこともあって、異次元の中がどう変化してるのか気になって【異次元開拓】スキルを使って中に入ると、そこへ繋がるであろう新たな扉があった。
開けてみると、凄く小さい部屋があって物置きかと勘違いするほどで、テーブルも椅子もない。まあまだボスも倒してないしね。ただ、窓はあってそこから別の部屋の様子を見ることができた。発展していけば森を見渡せるお洒落なレストランになりそうだ。
「――きゃううぅ?」
え、あれ!? ミリルが急に宙に浮いて僕の周りをフワフワと飛び始めたので驚く。一体何が起きたんだと思ったら……そうか。
【開眼】で確認したら、それを抱えて飛ぶリサの人影が浮かび上がってきた。やっぱり、《テロリスト》の板城十史郎から《吸収》した《透明》を使って姿を消してるのか。
「ふむ、なんにもない部屋だ。……というか、リサのやつ、また何か変なものを吸ったようだな」
サツキが呆れた様子で笑う。まるで子供を見つめる母親のような優しい眼差しだ。
「つかまえーる!」
「ひえーっ!」
今度は、幼女の姿に変身したミリルがリサを追いかけ始める。っていうか、なんかカタコトだけどいつの間にか言葉も覚えてて凄いと思う。さすがユニークモンスターだ。
「あれがミリルの特殊能力の一つ、《変身》か。別に人数は変わってないのに、さらに賑やかになったみたいだな」
「そうだね。僕とサツキが夫婦で、子供が二人いるみたい?」
「……む、無理をしてそんなことを言うな! まだ私を嫁にするかどうか決めてもいないくせに!」
「ははっ……」
バレてるバレてる。でもサツキはそう言いつつも照れ臭そうにもじもじしてるし満更でもないみたい。
「私のことは当分いいから、カケルは沢山遊んだらいい」
「え……それってサツキの本心?」
「……ほ、本心だ。でも、これだけは忘れるな。ユメといい勝負だが……私が一番お前のことを思っている自信がある」
「サツキ……」
そんなこと言われると、なんだか心が揺れ動いちゃうなあ。
「サツキ、いつも僕のことを支えてくれてありがとうね……」
「ど、どういたしまして、だ……」
なんだろう。凄くいい雰囲気になってきて、ドキドキしてきちゃった。
「「じー……」」
「「はっ……!」」
リサとミリルが傍でじっと見つめてきて、僕たちは全力で目を逸らし合った。
「そ、それじゃー私は買い物があるから、激安セール中の16地区のスーパーまでひとっ飛びしてくる!」
サツキは【瞬間移動】したみたいで、僕が返事をしようとしたときにはもういなくなっていた。僕たちが住んでる17地区じゃなくて16地区って……わざわざそこまで行って調べたのかな? もうすっかり主婦みたいになってる……。
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