33話
さあ、次は一体何が飛び出すんだろう? 僕は水を少し飲んで口の乾きを癒したあと、念のためにセーブしつつ、期待で胸を膨らませながら次の料理――モンスターを待つ。
「ん?」
なんか今、水滴みたいなのが落ちてきたような……。なんか気配も感じると思って恐る恐る頭上を見やると、ビッグサイズのスライムが大口を開けて落下する最中だった。
「ちょっ……!?」
もうその時点で目睫付近まで迫っていたので避ける暇もなく、僕たちはあっという間にジャイアントスライムに飲み込まれてしまった。
確かこれ、一層で構成された洞窟型のE級ダンジョン『戦慄の洞穴』にいるやつで、普通のスライムよりずっと強いことで知られてて、粘着性が異様に高いからなるべく離れて戦うことを推奨されてるモンスターなんだ。
息もできないし、食べられると強烈な酸で生きたまま溶かされるってことで、即座に【殲滅】を使った。もちろん、小剣で突く動作をやりつつ。実際はくっつかれると粘々してて身動きがほとんどできなくなるから、内部からダメージを与えるのは至難の業だ。
『さすがカケル!!いつものクリティカルヒットが決まった!!』
『あぶな。スライムに消化される残酷ショーが始まるかと・・・』
『あいつにくっつかれたらマジで動けんのに、一体どうやったんだ?』
まあ実際は【殲滅】を使った直後に【神速】でズバッと宙を突いただけなんだけどね。
それからほどなくして、僕たちの皿にかき氷が盛り付けられた。どうやらさっきのスライムを凍らせたものらしい。
真っ赤なシロップがかけられてて、スプーンで掬って口に入れると、なんともいえない冷たさとザクロの甘さが染み渡ってきた。しかもかき氷なのにドロッとした食感もあって、これがまた絶妙な深みとコクを引き出してる。
「つ、つめひゃい……れも、おいちー!」
「ひゃんっ……!」
リサとミリルも夢中な様子……って、あれ? ミリルがいなくなって、その代わり癖毛の幼女がかき氷を食べてるので、誰なのかと思ったら……そうか、特殊能力の一つ、《変身》を使って人間に化けたのか。多分、狼の姿のままだと食べにくいと思ったんだろうね……。
当然服なんて着てないから真っ裸なんだけど、大事なところはナプキンで隠れてるのでセーフだった。というか、ミリルが人間の姿になったっていうのに、隣にいるリサが違和感を全然覚えてないっぽいのは、同じ元モンスター同士通じ合うものがあるからだろうか。
『幼女のおかわりキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!?』
『ってか、あの子誰!?』
『ウルフヘアの子、かわいー!』
『それより、子犬さんどこなのぉ?』
「あっ……」
そうだった。今は配信中なわけだし、これじゃ視聴者たちが挙って不思議がるのも当然だ。なんて言い訳しよう? うーん……そうだ、あの手があった。
「あの子ならリサの友達だよ。遅れて来たみたいだね。犬はリュックの中でお休み中」
僕の説明で納得したらしく、みんなそれ以上は突っ込んでこなかった。よかった……って、それどころじゃない。死霊の店員さんから片づけられたのか、ほとんど食べ終わってたとはいえ、食べ残しのかき氷がフッと消えたし、もうそろそろ四匹目のモンスターが来る頃だ。次はどんな化け物が出現するのやら……。
『……ピヨピヨ……』
あれ、今何か鳥の鳴き声みたいなのが聞こえてきたような? でも、探知効果のある【開眼】でも、どこにいるのか皆目見当もつかない。これは一体どういうこと……?
「――はっ……」
そうか、もしかしたら死霊のレストランなだけあって、亡霊系のモンスターだからどうしたって不可視の存在かもしれないと思い、僕は声がした方向に【殲滅】スキルを使った。危ない。それでも多分5秒内だったとは思うし、ロードしなくても大丈夫だろうけど。
すると、それから少し経って皿にとても大きなオムライスが乗せられることに。鳴き声といい、出された料理は卵が素材といい、ゴーストはゴーストでもバード系のモンスターだったんだろうか?
「……と、とろけひゃう……」
「……ひゃうん……」
リサとミリルが一口食べたあと、感激した様子で抱き合っていた。そんなに凄いのかと思って僕も食べてみることに。う、うわ……スプーンをオムライスの中に入れたのに、感触を全然感じないほどに柔らかい。
「……なっ、何これ……?」
そこからもう期待感が普通の料理とは比べ物にならなくて、口に入れた途端、文字通り色んな意味で溶けてしまった。なのでどんどん夢中になって食べ進んでしまうんだけど、最初から何もなかったんじゃないかって錯覚するくらい、目には見えない霊的な力を思わせる味だった……。
いやもう、サツキの作ったのも美味しいけど、これに関しては旨いとか美味とかでは表現できないような。こんな極上のオムライスは初めて食べた。この時点で1000円分、充分元は取れてるって。闇鍋、恐るべし……。
『ちょっ、カケル、おまっ……めっちゃ旨そうに食うし、いくらなんでも飯テロすぎるぞ!』
『なあ、聞いてくれ。幼女たちに見惚れていたと思ったら、俺はいつの間にかカケルに見惚れていて、しかも涎まで出ていた。正直、何が起きたのかさっぱりわけがわからなかった・・・』
『闇鍋、僕も今度頼もうっと!w』
『超おいしそーだけど、私は闇鍋だけは勘弁したいわね。なんか怖いし。。。』
「ははっ……」
こうしてコメントを眺めてみると、本当に色んな人たちがいるもんだなあ。あと、そろそろ自分の称号も《ムシゴロウ》から違うのに変わりそうな空気だと感じた。
さて、闇鍋もいよいよ残りあと一つだ。最後にどんな究極の料理を味わえるのか、ここまで来ると本当に楽しみしかなくなってきた……。
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