26話


『ウー、きゃんきゃんッ!』


「え、これって……」


「わー、ちっちゃいワンちゃんだぁ! きゃわわっ♪」


 リサが目を輝かせるのもわかる。僕たちの目の前には、チワワみたいに小さいけど、ただのウルフとは明らかに違う、大物の風格がある狼のようなモンスターがいたんだ。


 なので、中ボスかなって思ったんだけど……確かにウルフを大量に倒したから出現してもおかしくないとはいえ、まだもうちょっとかかる気がするんだよね。


 そういえば、モンスターを倒してると稀に突然変異かなんかが起きて、【ユニークモンスター】っていう特殊なモンスターが発生することもあるって話を掲示板で見たことがあるけど、その可能性もある。


 ただ、数をこなせば出るってわけじゃないので、ボスよりも遭遇するのは難しいって言われてるんだ。


「リサ、抱きしめちゃだめだよ?」


「うー……」


 リサが残念そうに発した唸り声、このちっこい狼の鳴き声にかなり似てたな……。とにかく、モンスターが僕たちを威嚇してる間に【開眼】スキルでステータスチェックだ。


 名前:ミニフェンリル(ユニークモンスター)

 モンスターランク:B

 特殊能力:(3)

《巨大化》《変身》《咆哮》


「……や、やっぱりユニークモンスターなのか……」


 思わず声を発しちゃったけど、囁く程度の小さな声なのでリサにしか聞こえてないはず。


「坊や、それってなぁに?」


「ボスのリサよりも珍しいモンスターのこと……」


「ふえぇっ?」


 僕の小声に対し、リサはなんのことかよくわからない様子できょとんとしていた。まあ彼女はボスといっても、もう元小ボスだからね。


 小さな狼の特殊能力を三つ調べてみると、《巨大化》は素早さがほとんどなくなる代わりに自身の体をしばらく大きくさせるもので、《変身》は見たものを真似て自分の体を変化させる効果、《咆哮》は2メートル以内のターゲットを金縛りで動けなくさせるんだとか。


『ちょっ、カケルおまっ、幼女だけじゃなくて子犬まで連れてきてんのかww』


『わー、超かわいー!』


『もふもふっ!』


『こんな可愛いワンちゃん、見たことないです!ねえカケルさん、これなんていう犬種なんですか!?』


『これ絶対欲しい!!私に譲って!!』


 イベントボードもコメントでザワザワしちゃってる。やっぱりこういう可愛らしい動物が出てくるとそうなっちゃうよね。譲るもなんも、ユニークモンスターだし僕のペットじゃないんだけど……って、そうだ!【魔物使い】スキルでこの子をペットにできないかな? できるなら是非チャレンジしたいね。


 まずはその前に、レアスキルが習得できるっていうメッセージがコメント群に流されてそうだと思って、手でスクロールしてログを調べたら……やっぱりあった!


『現在、このダンジョンではURスキルが獲得できる状態です』


 おお、危うく見逃すところだった。しかもアルティメットレア! 僕の称号が《アルティメットシスコン》なのが効いたかな? それはさすがに関係ないか。どうすれば獲得できるんだろう?


『ユニークモンスター、ミニフェンリルの攻撃によって、木々を100本倒すことが習得条件です』


 うわ、こりゃ結構大変だ。LRスキル【セーブ&ロード】の取得条件よりよっぽど厳しいんんじゃ? って思ったけど、よく考えたら隠し部屋でコウモリたちが大量に襲ってくる中で一分間瞑想なんてのは誰も思いつかないよね。


 というか、ミニフェンリルってこんなに小さな体なのにそれだけパワーがあるってこと? とりあえず襲ってくるように仕向けるため、僕は《咆哮》の効果範囲内の2メートル以内に入らないように、慎重に近づく。


『――ウーッ!』


 するとフェンリルが唸り声をあげ、低い体勢から飛び掛かってきた。【神速】のおかげで回避するのは余裕だったものの、近くにあった木に爪痕がついたかと思うと倒れてきたので驚いた。


 す、凄まじいまでの破壊力だ……。探知効果のある【開眼】スキルがなかったら、気付かずに当たってたかもしれなかった。


「リサ、気をつけて」


「うん、坊や。あたしならだいじょぶ! うししっ」


 ……リサ、いつの間にか高々と宙に浮いてたんだな。まさに高みの見物ってところだけど、これなら安全で心配無用だから僕は目の前のことに集中できる。


 ただ、リサが浮いてるので不審に思われないかってことでコメントのほうを見ると、僕の妹が【浮遊】スキルかレアアイテムを持ってるってことにされてたので安心した。


『――きゃんきゃんッ!』


 子犬のように鳴きつつも、木々をどんどんなぎ倒していくミニフェンリル。あんな小柄な体のどこにそんなパワーが秘められてるんだか……。


『なあカケル、なんで木を倒してるんだ?』


『幼女か子犬に当たるかもしれないから危ないじゃん』


『そうだよ!やめてあげて!』


「ちょっ……」


 視聴者たちには、僕が木を倒してるように見えるらしい。まあ想像を絶する速さで剣を振ってるってことにされてるからね、仕方ないね……。このままじゃ《きこり)っていう称号がつきそうだけど、全然汚名じゃないしむしろまともだからいっか。


 やがて、森の中で空き地ができたかと思うくらい木々が倒れた。すっかり平地と化しそうだけど、木々は倒されてもしばらくすると消えて元に戻る仕様なので問題ないんだ。てか、そろそろ100本いくかな?


 その直後だった。また一本の木が倒されたかと思うと、半透明のスキルボックスがドロップするのが見えた。やった、遂に獲得だ! この瞬間がたまらないんだってことで早速開封する。


『URスキル【異次元開拓】を獲得しました』


 おおおっ、なんか字面を見ただけでも凄いのがわかるスキルだ。さすが今確認されてる中で最高峰のレジェンドに次ぐアルティメットレア! 僕はなおも攻撃してくるフェンリルからかわしつつ、【開眼】スキルで効果を調べることに。


『異次元の空間へと続く扉を出現させ、そこにアイテム等を転送できる。また、現在のダンジョンの攻略度合いによって異次元空間を開拓することが可能になる』


「へええ、いいなあ、これ……」


 こういうのが欲しかったし、今の自分にはピッタリなスキルじゃないか。倉庫代わりになるだけじゃなくて開拓もできるとか、【アイテムボックス】の強化版みたいな感じだからアルティメットレアっていうのもうなずける。


『カケル、さっきから何ブツブツ言ってんだ?』


『独り言が多いタイプなの? 疲れてない?』


『つーか、いくらF級ダンジョンとはいえさ、ペットや妹と遊ぶとか余裕ありすぎ!』


『それな』


「ははっ……」


 視聴者の突っ込みに対して僕は笑ってごまかしたものの、まあ余裕なことには変わりないんだけどね、それでも何が起きるかわからないので気持ちは引き締めておかなきゃ。

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