24話


「ん、んんっ……。ちゅう、ちゅうぅ……」


「うっ……。リ、リサ、いいよ、その調子だ……」


「も、もう疲れたぁ。坊やの意地悪ぅ……」


 僕は自分の部屋でリサと抱き合っていた。壁の薄いおんぼろアパートってことで、第三者に聞かれたら誤解されちゃいそうだけど、これは決していかがわしい行為じゃなく、れっきとしたなんだ。


 リサの特殊能力の《吸収》はランダムってことになってたけど、僕が指示した通りのものを吸うようになれば使えそうなので、二人で頑張っている途中だった。ここまでやるのも、リサをダンジョンへ連れていこうと思っているからで、この前彼女が家に来たときからずっとやってきたことだった。


 リサの存在を隠蔽しようとすれば、この間掲示板で書かれてた変な噂を肯定することにもなりかねないわけだしね。サツキも言ってたように、今やリサは僕の妹ってことになってるんだから堂々としていればいいんだ。


 名前:時田理沙

 ハンターランク:D★

 所持スキル(1)

【吸収】


 ちなみにこれ、リサのステータスを【フェイク】で弄ったものだ。僕が【開眼】で調べることができるように、鑑定系のスキルを持ってる人が見ても妹だってわかるように小細工しておいたんだ。


 サツキに【鑑定】で見られちゃう可能性はあるけど、そのときは真っ先にどういうことだと聞いてくるだろうから、そういうスキルを持つ知り合いに偽装してもらったと言えばいいし、どうしてもごまかせない場合はロードして【フェイク】を解除すればいいだけだしね。


「――ふう、ふぅ……。くたくたぁ」


「ははっ、リサ、大分頑張ったね。でも、あともうちょっと!」


「ふえぇー……」


 今のところ、彼女は僕が吸ってほしいと頼んだものをちゃんと吸えるようになってきた。三つ《吸収》した時点で一定時間経たないと新たに吸うことはできないようになってるんだ。


 あと再発見したのが、同じ要領で吐き出すこともできるようになったことだ。


 たとえば、マネーカードのお金を吸ってほしいと僕が言うと彼女が吸って現金を手元に出せるし、逆に吐き出してほしいとお願いした場合、マネーカードに現金が《吸収》されて元に戻る感じだ。


 要するに、《吸収》を使い魔のリサだけじゃなく飼い主マスターである僕も使えるようになる感じだね。


 ただ、吸ったものを全部吐き出したとしても、《吸収》自体は終わってるので新たに吸えるようになるまでは一定時間待たないといけない仕様だ。なので、メリットといえば間違って【セーブ&ロード】スキル等、吸っちゃいけないものを吸ったときにやり直せることくらいか。さて、一応セーブしておこう。


「――ねえねえ、坊や、もう疲れたし飽きたからおわろー?」


「まだまだ。さあ、ダンジョンへ行く前にもう一回! 次は体力ね!」


「んもう、坊やったらぁ……。がぶっ。ちゅうちゅう……」


「うっ……!?」


 いきなり目の前が真っ暗になった。眠い……これが、死か……。


「――ねえねえ、坊や、もう疲れたし飽きたからおわろー?」


「……はっ? あははっ……」


 どうやら死に戻りしたみたいだね。たまにこうして、リサは体力じゃなくて間違って命を吸い取っちゃうけど、【セーブ&ロード】がある僕にしてみたらこれもご愛嬌だ。


「坊や、どうしたのぉ?」


「い、いや、なんでもないよ。リサ、この辺でおわろっか?」


「うん! やったぁ!」


「――カケル」


「うわっ!?」


 僕のすぐ背後からサツキの声が聞こえてきたもんだから、心臓が口から飛び出すかと思った。


「朝っぱらから精が出るな」


「……し、心臓に悪いよ、サツキ……」


 ちなみに、ちゃんとサツキには事前にリサとどういう行為をするのかは説明してあるとはいえ、状況が状況なだけにね……。


「むう。そりゃ悪かったが、もう朝飯の時間なのにカケルとリサが中々来ないからだ」


「あ、そ、そうなんだね。すぐ行くよ」


「お嬢ちゃん、あたしも行くーっ!」


 こうして、元ひきこもりの僕、元仕置き人、元ボスモンスターっていう、一風変わった面子による楽しい一家団欒が始まるのだった。


「「――行ってきまーす!」」


「行ってらっしゃい、カケル、リサ」


 そのあと、僕と従魔のリサが二人でダンジョンへとお出かけして、サツキはいつものようにお留守番をすることになった。その際、『お夕飯の献立はなんにしよう……?』とか神妙な顔でブツブツ呟いてたから本当に家庭的だ……。


「坊や、どこ行くのぉー?」


「あ、そうだ。どこにしようかなあ……」


 そういや、訓練に夢中だったもんだから、どこへ行くのか全然決めてなかった。どうしよう? この前行った『虚無の館』はボスが出たばっかりなので、今回は『青き森』のほうへ向かおうかな。


 アオイさんもあそこで僕が戦うのを楽しみにしてるだろうし、青の人の代わりに僕が籠もり続けるのも悪くないね。


「リサ、『青き森』へ行こっか」


「うんっ!」


「よーし、飛ばすよ!」


「わっ……? わあぁー! しゅっ、しゅごおぉいっ♪」


 ルンルン状態のリサと手をつないだあと、僕は【神速】スキルで一気に駆け出した。速すぎて彼女が宙に浮いた状態になっちゃうけど、羽があるから平気みたい……っていうか凄く楽しそうだからちょっと羨ましい。普段はフワッと浮くくらいしかできないみたいだけどね。


「――もう着いたよ、リサ」


「うわー! これ、とってもおっきな木だね、坊や!」


「うんうん」


『青き森』ダンジョンは、その呼称とは裏腹に僕が住む第17地区の中心部、すなわち都心にある。んでその入り口はどこにあるのかっていうと、コンビニエンスストアの横にある、冬にはクリスマスツリーとしても飾られる一本の大樹なんだ。もちろん、恋人たちのデートスポットとしても知られてる。


 そういう事情があり、僕の場合は【ぼっち&ひきこもり】時代が長かったこともあって、この木に関しては色んな意味であまり触れたくないものの一つだったんだ。でも、今は5月だからまだ早いとはいえ、今年のクリスマスこそは誰かが側にいてくれそうな予感……?

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