12話
「――え……ええぇっ!?」
襲ってきた少女の口から、なんとも衝撃的な発言が飛び出した。
「君が、ユメさんの姉だって……?」
「そうだ。私の名はサツキといい、ユメの双子の姉なのだ。この顔を見ればわかる……」
おもむろにマスクを外す少女。こ、この顔は……髪形がミディアムヘアなのはともかく、顔は確かにユメさんに瓜二つなんだけど、何か決定的に違うものがあるような。
「あのさ、髪を後ろで束ねて、凄く眠たそうな顔してみて!」
「ん、こうか……?」
「そう、それそれ! うわっ、めっちゃそっくり!」
彼女が僕の言う通りにした途端、目の前に突然ユメさんが【瞬間移動】してきたかのようだった。髪形や目つき一つでこうも劇的に変化するものなのかと驚かされる。
「そ、そりゃ、双子の姉妹だからな……。ただ、ユメは私のことを姉だとは思っていない」
「え……? 姉だと思ってないって、どういうこと? ユメさんと仲が悪いとか……?」
「いや、そういうことではなく、ユメは私のことを一切覚えていないのだ……」
サツキと名乗った少女の顔色が、そのとき明らかに変わるのがわかった。ここからがきっと話の本筋ってやつだね。
「一切覚えてないってことは、記憶がないってこと?」
「……そうだ。妹のユメは、ストーカーからもう少しのところで殺されそうになったショックで、重度の不眠症に陥るだけでなく、記憶を失ってしまったのだ……」
「…………」
なるほど、そういう事情があったのか……。その《ストーカー》の称号がついてる百々山三郎っていうやつ、気絶してるしあとで警察に突き出しておかないとね。てか不眠症って、睡眠導入剤として僕の配信をいつも見てくれる匿名さんみたいだな。
「私としても、もう思い出してほしくはない」
「なんで? 妹が可愛くないの?」
「違う。可愛いからこそ、だ。私のことを思い出すということは、当時のこと、すなわちトラウマを呼び起こすことだからだ」
「……そっか……」
納得のいく説明ではあったけど、なんとも切ないなあ。
「だから、私はユメのことを密かに守ろうと決めた。影からあの子のことを見守るだけで幸せだったから……。さあ、もう全部話したから用済みだろう。さっさと殺せ」
「殺せって……。ユメさんを密かに守るんじゃなかったの?」
「もう、この世に未練などない。それに、私なんかよりお前のほうがずっと強いから、あの子のことを守ってやってくれ」
「ええ?」
彼女の僕に対する呼び方が、貴様からお前に昇格してるのはいいとして、いくらなんでも死にたがりすぎだ。
「お前がストーカーではないということもわかったからな。それに、私は悪いことをやりすぎた」
「悪いこと……?」
「仕置き人とはいえ、多くのストーカーたちを半殺しにして廃人寸前まで追い込んだからな。いくら妹を守るためとはいえ、罪深きことだからその罰は受けないといけない……」
「うーん……。それは逃げかな」
「に、逃げだと? 何故そう思うのだ?」
僕の言葉に対してむっときたのか目を吊り上げるサツキ。こういう反応をする元気があるならまだ大丈夫だ。
「妹のユメさんに悲惨な出来事を思い出させたくないっていう気持ちはわかるけど、それでもいずれは傷が癒えることで思い出す日も来るかもしれない。そのときに姉である君がこの世にもういないって知ったら、当時のトラウマが蘇るのも相俟って、凄く悲しむんじゃないかなって」
「……あ……」
サツキは、我に返ったような表情になったかと思うと、妹に申し訳ないという気持ちが湧いてきたのか目元に涙を浮かべた。
「……わ、私が愚かだった。もう、殺してくれなんて言わない。あの子が自ずと思い出すまで、生きるつもりだ……」
「うん、絶対にそのほうがいいよ。もし君が、罪人だからって居場所がないなんて思ってるんだったら、ここで僕と一緒に暮らしてみる?」
「えっ……い、いいのか?」
「もちろんいいよ。僕の寝首をかかないならね」
「バ、バカなことを言うなっ! 居場所を提供してくれる恩人に、そんな惨いことをするものか!」
「あははっ」
サツキって意外と義理堅い人なんだな。
「そ、それと、私のことはいつでも使っていい」
「え、ど、どういうこと? 毎日エッチしちゃってもいいってこと!?」
「バ、バカッ! そういう意味じゃなくて、使用人のように扱ってもいいということだっ!」
「あ、あはは……」
「ま、まあ、私もそういう気分になったら、受け入れなくも、ないかもしれないが……」
「え、聞こえなかった。もう一回!」
「う、受け入れなくもない。夜に限って……」
「もう一回!」
「も、もう言わない! っていうかだなっ、本当は聞こえててわざと言ってるだろう!」
「ははっ……バレちゃったか」
「こ、こんの……!」
こっちが我慢してることに対して笑われたから、そのお返しで言っただけなんだけど、耳まで真っ赤にしちゃって、サツキって可愛いところあるなあ。
それにしても、まさか掲示板でもやりあった因縁の相手と一緒に住むことになるなんて夢にも思わなかった。っと、照れ臭そうにもじもじしてる彼女のスキルボードを今のうちに【開眼】で覗いてみることにしよう。どれどれ……。
名前:
ハンターランク:D★★★
所持スキル:(3)
SRスキル【瞬間移動】
Rスキル【鑑定】
Nスキル【技術力向上・小】
称号:《仕置き人》
なんていうか、大体思った通りの中身だった。ハンターランクは《仕置き人》をやってるだけあってやっぱり高めだね。殺しの依頼って結構見かけるし。僕の【開眼】もないのにスーパーレアスキルを持ってるところも凄い。それだけ多くのダンジョンで色んなことを経験してきたってことなんだろう。
「これからは、僕のことをカケルって呼んでよ。君のこともサツキって呼ぶからさ」
「わ、わかった……って、なんか口元が緩んでるぞ! さては、カケル。早速いかがわしいことを考えているな!?」
「ん? それもあるけど、今はどっちかっていうとサツキの手料理が食べたいなあって」
「あ、そ、そうなのか。じゃあ、あるもので何か作ってやるとしよう……!」
サツキが気まずそうな顔で立ち上がったかと思うと、台所を物色し始めた。意外と家庭的な子なのかもしれない。【技術力向上・小】があるなら料理にも期待できそうだな。なんだか、これからはもっと日常生活が楽しくなりそうだ。
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