story 14 修練の日々

神器を手に入れ装備も整った、燈威、美帆、中鳥、遊田、アイリスは各々で素振りをしたり自分の手に終える限界の敵を1人で倒したりとひたすら修練をしていた。

その中でも一際正義感が強い遊田は、夜みんなが寝静まった今も素振りやマネキン相手の攻撃練習をしていた。

短剣を振り回し、加護により鉄製マネキンを切りつける。

訓練場には金属が当たる音と遊田の足音だけが響く。


遊田の持つ力は強い。その気になれば自分より高いレベルの敵すら簡単に倒せるであろう。

楓華を失った件の戦いでも遊田ロードの側近を討ち、戦況を有利な方へと傾けた。

しかしそれは「西園寺・ローズベルク・楓華」という強力で信頼のおける存在がそばにいたからこそ、自身も勇気を持って戦うことが出来た。

今の状態のパーティーで周りが信じられないとは言わないが、それでも敵を簡単に一掃するような強大な存在が意図も容易くどこかへと飛ばされたのだ。それそれはトラウマもあるだろう。しかしそのトラウマもみんなで協力して乗り越えようとしている。つまり、みんながひとつの目的のために動いている。

だからみんな足を引っ張ったりしないように誰も見てないようなところでこっそり修練している。遊田も今は全力で修練に励んでいる。


しかし集中は続かないし、5回に一回は的を外すしてから短剣が滑って飛んでいったこともしばしば。このままでは修練など無駄。ただ寝る時間を捨てているに過ぎない。そして彼の修練にはほかのメンバーと違い問題がある。ほかのメンバーは対戦の相手を見つけ共に強くなろうと努力しているのだが、彼はそれをしないのだ。

地球にいた頃入っていた部活では多くの人間と共に練習をしていたのに、だ。


悩みを打ち明けることも出来ずただひとりで剣を振るのみ。


もちろんそれでも少しは足しになるだろう。しかしそれだけではダメだ。型だけではなく実戦イメージバトルをせねばそれこそ手に入れた型を用いることは不可能。

練習で用いるのが固定された的なのに、実戦に赴き、思考して動く的とどんな戦いが出来ると思う?無理だ。はっきりいって不可能。

それを頭で繰り返し自問自答して、それでも自分がわからなくなってしまった彼に今は何も出来ない。


「こんなんじゃ強くなれないよな…でも、俺ってなんなんだ?ある日強力な力が手に入った。しかし突然の出来事にまだ飲み込めていないんだこの現状を!なぜみんな順応できる!何故!生まれ持った力でないのになぜそうも何食わぬ顔で力を使える‼️クソが!」

遊田はそばにあった木箱を蹴り飛ばし粉々に粉砕した。しかしそれでも困惑と怒りは収まらず、怒りのパワーを乗せてずっと相対していたマネキンに対して全力で切り付ける。

しかし型がままならぬ力だけの攻撃はマネキンのシャープな外面に弾かれ手が痛む。

しかしそれも気にせずひたすら切りつける。


正しい剣の使い方なんて知らない‼️でも強くならなきゃ楓華みたいにまた誰かいなくなるかもしれないじゃないか‼️この先がわからなくて辛い気持ちも打ち明けられない苦しみも悲しみも寂しさも何もかもこの剣に乗せて壁を壊してやる!


刃が鉄製マネキンのボディにあたる度火花が散る。

遊田は治まるところを知らぬ怒りのパワーから次第にスピードをあげ、残像を残す速さでマネキンを切りつける。だんだんと火花も数を増やし、我も忘れて切りつけ続けて10分が経過した頃にはそこには鉄と鉄がぶつかり生まれる大きな金属音と速すぎて最早光のたまになった火花が遊田と傷が増え耐久値が低くなってきたマネキンを包んみ、その場所を中心にクレーターができている。

遊田自身も己の体力とスピードの限界を知り始めているが、それでも攻撃の手を止めない。剣を握る手の血豆が次々と破れ剣は血で染まっている。


と、その時空から声がした。


「ん?なんかやかましいと思ったら神速の遊田だったのね。」

「やや、その声はクラスメイトのyo—」

「おおっとその名で呼ぶのはやめてくれ、こっちに来てから名前を〈Re2〉に変えたんだ、今からRe2と読んでくれよな。」

「おう…」

「ところで…大声出しながら夜中に訓練場で1人でマネキン相手に戦ってるってことはなにか悩んでるん?なんなら私の対戦せん?遊田。」

「…フゥ。御言葉に甘えて1戦申し込もう。」

Re2が訓練場に降り立ち、これまでに集めていた常に形が変わる血液の塊からロングソードをだした。

「さぁ、始めましょうか。」

Re2が遊田の懐めがけて突進し、遊田のアキレス腱を深々と断ち切った。

「グガァァァァ!!」

「クソ!ヒール‼️」

遊田は即座に中級回復魔法を発動し安静にしていれば大丈夫なほどまで回復した。

そしてRe2へと向き直り、痛みもそっちのけで加護の力を使いRe2へと斬りかかった。


そのスピードはRe2の許容範囲を少し超えるスピードであり、その場にもし別の人間がいても2人の戦いの様子を目で追うことはできないはずだ。


2人は常に残像を残し見る人が見れば残像のせいでその場に遊田とRe2が何百人もいるように見えるだろう。それほどのスピードなのだ。


2人の攻撃は止むことを知らず少しずつスピードを上げさらに残像を産む。

そして両者は粘り続け遂には1時間も切りあっていた。


しかしそこでRe2の疲労が遊田より先に限界を迎え攻撃が止み、そのまま遊田の勝利となった。


「ハァハァハァ、遊田、お前強いなぁ。正直見くびってたわ。速いだけのボンクラだろうってさ。」


「酷いこと言ってくれるじゃねえかRe2。ハァハァハァいい試合になったぜ。」


そして長期間の模擬戦は終わりを迎えた。


直後何故か周りから声が上がり2人は歓声と拍手の嵐に包まれた。

2人が戦っている間に気がつけば朝になっており、2人の剣戟を聞きつけた城中の人間が2人の戦いを途中から見ていたのだ。


「あんたら2人すげえな‼️」「さすがは救世主様だ!」「す、すげえ…」「やばすぎやろ」


様々な声が上がる。

「俺、今まで自分がわからなくて悩んでたけど、少なくとも戦いに関しては自信がついたよ。自分でも想像できないぐらいのスピードで武器を振るい気がつけば1時間も戦ってたんだもんな」

「まさか私とここまで戦えるとは思ってなかったわ。すごく疲れたし、悪いけど少し寝るわね。また戦おう。」

「ああ。」


この戦いを終え、遊田は自信を取り直しこれからもさらに精進しようと覚悟を決めたのであった。


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