第56話 剣技の習得
「試練の内容は、こうだ。山を越えたあたりに、モンスターの巣、つまりはダンジョンがある。そこへ、あんたが一人で向かってもらう。もちろん、ふんどし一丁なんかで行けば、生きては帰ってこれないだろう。キチンと装備をしたうえで、向かってもらうぞい。
目標は、ダンジョンの攻略。最奥地で眠るダンジョンボスを討伐すれば、自動的にダンジョンを攻略されたとみなされる。ワシのスキルで、その者が踏破したダンジョン一覧を確認することができるから、誤魔化しはきかないぞ。なにか質問はあるか?」
正一爺は、和室のちゃぶ台越しに、淡々と次の訓練の内容を説明する。俺は、正座で痺れた脚を崩すと、横にベッタリとくっ付くもふもふを撫でた。
もふもふは、俺の不安を感じ取ったのか、『クウン』と細い甲高い声を上げた。
「その……ダンジョンには、どんな敵がいるんでしょうか」
「そうだなあ。随分と古くから踏破されているダンジョンだから、旨みのある、つまりは高い経験値を有するモンスターは、絶滅するまで狩り尽くされているだろうから、残っているのは、まあ、ゴブリンやチビドラゴンなんかの下級モンスターがせいぜいだろう。昔からあるダンジョンは、何人もの挑戦者たちによって、既に探索され尽くしているものだ。今さら行っても、特に目新しいアイテムが落ちていることもないだろう」
……ゴブリン。その単語を聞くや否や、嫌でも、あの緑の醜い生物の姿が俺の脳裏に浮かんでくる。
渓流で出会ったあの時は、あの手この手で、なんとか奴らから尻尾を巻いて逃げていたが、ついに正々堂々と、奴らと戦闘する時が来たのだ。
「あと、勇者の装備には、勇者の大剣は含まれているんですか?」
「あったりまえだろっ。ダンジョンモンスター相手に、素手でポカスカ殴り合ったって、あんたに勝機は決してない。これっぽっちもだ。カンフーかカラテの技術を達人レベルに鍛え上げて、渾身のアチョーでも喰らわせない限り、奴らは倒せんぞ」
「でも、勇者の大剣をまともに振ったこともないのに、いきなりダンジョンへ飛び込むなんて、まるで、頭の狂ったキチガイが死にたがっているみたいじゃないですか」
正一爺は、眠ったみたいにしばらく黙って考え込むと、やがて、吐き出すようにポツリと呟いた。
「わかった。今回だけは特別に、ワシがすこしだけ剣技を教えてやる。ただし、ほんとうにすこぉしだけだぞ。なにせ……剣技はワシの専門分野。あまりにワシの教え方が上手すぎて、元勇者の神業でも習得しちまったら、この試練は途端ぬるゲーと化して、意味を成さなくなってしまうからなっ」
そうして、俺と正一爺は、ふたたび訓練場へ向かうことになったのだった。
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