2.それではとりあえずはじめまして
「それではとりあえずはじめまして。私は、このリジョリア・イデス号の中枢AIの発信するデータを受けとって動くアナザーボディであり、貴方の助手です」
僕が、キリアンさんとおじいさまに背中を押されてリジョリア・イデス号のブリッジに乗り込むと……。ストレートの長い白い髪の毛を生やしてぱっつんにした、黒づくめのゴスロリファッションに身を包んだ少女がいた。
「……えーと?」
「知らないのですか? 凡そ200年前。AIが肉体を持てるようになったことと同時に、大型船舶には必ず私のような『ナビゲーションドール』が置かれ、操船の手助けなどをするようになったことを」
「あー。聞いたな、ジュニアハイスクールの授業で。それでこの船のそれが君?」
「はい。船の名前の末尾をいただいて、名をイデスと言います」
「ふむ。イデスちゃんか。僕はユハナス。よろしくね」
「あなた……。トイロニ様の……、お孫さんですか?」
「うん。そうだよ。ちゃんと血が繋がってるけど、僕の父さんはトイロニおじいちゃんの三男だから、僕は本家直系の子じゃないんだ」
「ふーむ……」
何やら、顎に人差し指を当てて考え込むイデスちゃん。何を考えているのだろうか?
「まあ、いいですわ。今日から、貴方が私のキャプテンです。炊事洗濯掃除経理操船! 何一つとしてこのイデスにできない事はありませんのよ。貴方はただ寛いで、私にアイデアと方針と指示を与えて下さればいいのです」
「ん? そんな楽していいの?」
「ん? 何すっとぼけたこと言ってるんです? アイデアと方針と指示を出すことが如何に大変か。舐めていはしませんの?」
ドスの利いた視線で、僕の瞳に圧をかけてくるイデスちゃん。この子怖い。
「で。どういたしますの? キャプテン? 出航の命令をまだいただいていませんが?」
「う、うん。そうだね、とりあえずは宇宙空間に出よう」
「了解いたしました、キャプテン!!」
僕に指示を出させて、それを受け取ると。イデスちゃんは立ったままで手を組んで、目を瞑る。
『リジョリア・イデス号中枢AIに命令発信。これより本船は惑星アーナムの宇宙港を離れ、宇宙の海に進宙を始めます。ペア・アニヒレーションエンジン発動開始!! 対加速度姿勢制御システム発動開始!! 発進します!!』
そして、このように凄い早口でまくし立てた!!
途端に、おじいちゃんの宇宙港に留まっていた、僕のイジョリア・イデス号が動き始め、ゲートオープンして進めるようになった滑走路を突っ走り!!
そのまま浮上し、後はすさまじい急加速で、爆音を立てて音速を超え。
更には重力のくびきを振り払って一気に成層圏まで昇ってしまった。
僕はその間、ブリッジの床に立ったままだったんだけど、転びもしなかった。
この船の機能性。事に、対加速度姿勢制御システムの優秀性を思い知らされたんだ。
「さて、宇宙に出ましたよ、キャプテン」
くるりと回って、お洒落な表情でこっちを見るイデスちゃん。
「あ、ありがと……。それから、教えてもらえないかな?」
「んん? 何をです?」
僕があることを聞きたがると、イデスちゃんがこちらに耳を傾ける。
「チュートリアルって言うのかな? 宇宙で活動するにあたっての、ノウハウやらハウトゥーを教えて欲しいんだ。僕は産まれて初めて、自分の船を持ったし。それで宇宙に出たんだから」
「ん! 待ってましたわ、キャプテン! その喰いつきっぷりは、大変高評価です! では、お教えします!」
なんだろう? なんでこのイデスちゃん。
こんなに嬉しそうなんだろうか?
* * *
「で、まずはですね。宇宙空間で船に乗って生きるにあたって必要とされるのは。燃料と、食料。この二つになります」
「うん」
ブリッジのすぐ下階にある、リラックスルームで。
イデスちゃんが、教鞭を握って、ホワイトボードにペンでいろいろ書く。
「燃料は、宇宙空間中に存在する真空のエネルギーを、時間を止めて集めることにより。それの時間凍結を解くことによって動く、ペア・アニヒレーションエンジンを働かせることができますが……」
「そう言うのややこしくない?」
「貴方は知らなくても動くからこれはいいのです」
「うむー……」
「問題は食料です」
「うん。確か最近の宇宙船って、原子から食べ物作れるフードメイカーとか搭載しているんだよね?」
「はい、ご尤もですが……。あのアトミックフードメイカーは、動かすのに霊力を必要とします」
はあ? 何を言い出したんだ、イデスちゃんは? 霊力?
「霊力って、フードメーカーはオカルトで動いているの?」
「オカルトじゃありませんです。有機物の組成は分子によって成りますが、分子の結合は原子が無ければ成りません。これはわかりますね?」
「それはわかる。分子の元は原子で、フードメイカーはその元の原子を使って食べ物を作る機械だってことは」
「では、原子を操作するために必要なものは何かわかりますか?」
「粒子? 陽子とか中性子とか電子? クオークとかも?」
「はい。正解なのですが、それはいわば材料で。分解すればそれになりますが、結合させる力はどこにもないのです」
「ってことは?」
「要するにです。原子が素材で、霊力が接合剤のようなものなのです」
「あー……。なんかわかってきた」
「それで、なんですが」
「ん?」
イデスちゃんは、そこで。
僕の度胸を量るような表情を浮かべた。
「宇宙に存在する、悪霊を退治して。その霊力をストックして食料変化用に用いるのです」
えげ? そういうこと?
宇宙に幽霊というか、悪霊がいることは。
僕らの星系では常識ではあるんだけど……。
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