宇宙商侠伝 ~ユハナス・ユヴェンハザの商人独立日誌~

べいちき

第1部 旅立ちと仲間と

1章 フリーズ・リンケージ・ステーション

1.おじいちゃんそりゃないよ!

 僕は、ある日。

 このカルハマス星系で最も大きい宇宙商船団を持つ、誇り高い僕のおじいちゃんの前で緊張して話を聞いていた。


「ユハナス、よく聞くのだ。私は、お前に船を一つ与える。無論、海上船ではなく宇宙船だ。お前は、今日で15歳になった。という事は我がユヴェンハザ家の男として、独り立ちをしなければならない」


 うっわあ……。僕の家に伝わる、まことしやかな噂。我が家系ユヴェンハザ家の男は、15歳で船を与えられて独り立ちをする。そこから先は、自分で自分の人生を切り開かなければならない、という話は。


 ……まさか本当だったとはなぁ……。


「トイロニおじい様」

「ん? 何かな? ユハナス」

「船一つだけで。宇宙船一つを貰うだけで、人生というものは開けるのですか?」


 僕は思わずそう聞いた。

 すると、おじいちゃんはニコニコ笑って。

 僕の頭にゲンコツをゴスン! と落としてきた!!


「何を腑抜けたことを言っている!! お前は甘さのある実家の生活に脳が腐れたのかユハナス!!」

「え? えー⁈」

「毎日の思考鍛錬。星間貿易で利を上げるには如何にすればよいか!! そう言ったことを常に考え、実行して実利を上げる!! そのような挑戦が無ければ、人生が開けるモノか!!」

「だって僕まだ15歳……、ですよ⁉」

「ばかもーん!! 世の15歳と言えば、もう立派に皆働いておるわぁ!!」

「ど!! ジュニアハイスクールの同級生たちは⁈ みんなハイスクールに進学するって言ってますよう!!」

「ユハナス。お前には実地現実で成長をさせる。お前だけではない!! お前と同い年の儂の直系の孫のアルテムにも、船を与えてもう出立させたわっ!!」

「従兄弟のアルテム君も?」

「無論だ。儂の長男の子のあ奴にはゆくゆくは儂の跡継ぎになってもらう。儂の三男坊の息子で、いわば分家の孫と言っていいお前とは違ってな」

「……おじいちゃん。アルテム君には、船何隻あげたの?」

「十隻だ」

「……本家と分家の格差―――――――!!」

「当たり前だろう。ユハナス、お前はな。稼いだ金を、富を。自分の使いたいように使える権利がある。儂の家を継がなければならないアルテムには、それは許されぬ。その責務と悲壮感。その分の権限が大きくなるのはまあ当然のことだ」

「そりゃないよおじいちゃん!!」

「ええい!! この子供が! 船が十隻もあったら、部下の管理もせねばならんし、運営も大変なのだぞ⁈」

「一隻だけで商船団なんて言えないじゃないかー!! タダの商船だよー!!」

「ユハナス……。聞き分けのない子じゃ。まあ、いいからついてこい。きっと船を見ればお前も納得をする」


 おじいちゃんはそう言うと、本家の屋敷の自分の部屋を後にする。無論、僕を連れて。


 カルハマス星系の第四惑星、アーナム。この星に、おじいちゃんは自分の宇宙港を持っている。おっそろしい額の投資をして、惑星アーナムの政府と財界に認めさせて勝ち取った、おじいちゃんの財産だ。

 そこに入っていくと、警備員や整備員、接客スタッフに作業員がみんなみんな、おじいちゃんに頭を下げる。まあ、おじいちゃんの指揮のもとに仕事をして。みんなそこそこの満足をしているという、この宇宙港の労働環境のアンケート結果もあるそうな。

 だけど、そりゃ。おじいちゃんの実力であって、おじいちゃんの隣にいる僕に頭を下げているわけじゃない。

 そのくらいの分別は、幸いにもつく僕だった。


「キリアン。儂だ。ユハナスの船の準備はできているな?」


 会長室について、中に入ってソファに腰かけると。美人の秘書さんが僕にココアを出してくれた。おじいちゃんは、ヴィジョンコールで部下を呼び出している。


「ユハナスお坊ちゃん。今日、船貰うんだってね? 頑張ってよ、お姉さん応援してるよ!!」


 やったらと美人なおじいちゃんの秘書さんが、ココアをお代わりするかと聞きながら、僕にウインクをしてきたりして。


「ユハナス、ドックに行くぞ。船の準備は万端だそうだ」


 落ち着いて紅茶をティーカップ一杯飲んだ後に、おじいちゃんはそう言って僕を連れて会長室を出る。

 宇宙船舶管理スペースに入ったのか、周囲は装飾性がほとんどなくなり、機能的な鋼製の風景に変わっていく。僕とおじいちゃんが、しばらくそこを歩んでいくと……。


「会長!! まさか御自ら御足労されるとは……」


 広い廊下の向こうから歩いてきた、ダークブラウンのスーツをビシッと着た、短めの髪をオールバックにしてメガネをかけた男がそう言った。


「儂のかわいい孫の出立の時じゃ。儂とて、そうなれば自ら見送るものだよ。キリアン」

「と、いうことは。そちらのお子さんが?」

「そうじゃ。この度出立する、儂の三男の子供、ユハナスだ」


 おじいちゃんがそう言うと、キリアンさんは僕に向かって笑いかけた。


「ユハナス君、よろしく。この港の船舶管理統括役員のキリアンだ。君の船は、もうリファインとブラッシュアップを済ませている。出航用セッティングも万全だよ」

「あ、どうも。お世話をかけます、キリアンさん」

「そうだね。君みたいな子供が、あんないい船の船長になるなんて。しかも、私のような腕のいい船舶管理のスペシャリストを使うなんて。君のおじいさんが会長でなければあり得ないことだよ」


 苦笑いに笑いを変化させながらも、キリアンさんはドック区画のオートドアをカードキーで開錠して開けてくれた。

 そして、そこで僕が目にしたのは……!!


「リジョリア・イデス号。儂がやはり儂のおじいさまから与えられた船だ」


 僕の肩に、おじいちゃんが手を置いてそう言う。

 でも、僕は。

 その目の前に停泊している、巨大で純白の。

『美しい』

 宇宙船に目を吸い寄せられて、夢中で見続けていた!!


「移動時搭載可能重量は、まあ。中型船のモノですが。スペースウェーブライディングシステムによって移動速度は非常に高く、短距離であれば転移移動も可能。更には、宇宙海賊や敵対勢力船団撃退用の武装が凶悪でね。ツイントロン砲72門、マシンパルシーウェーブ発生装置、更にはグラビトンミサイル発射口が6門。まあ、これに乗って負けるとしたら……。戦争時の巨大宇宙戦艦相手にぐらいだろうさ」


 キリアンさんの説明を聞いて、僕は何というか。

 迂闊にも、極上の玩具を与えられた子供のような表情を。


 していたに違いない。

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