ユニークスキルで最高効率レベリング~外れスキル【仮眠】が真価を発揮、スキルでスタミナ値を全回復し、俺だけがダンジョンに何回も挑戦できるようになった~

トホコウ@マンガ原作

第1話、俺VSスライム


 ――プロローグ――



『ダンジョン』と呼ばれる特異な地下空間が出現した現代。

 このダンジョンは人類社会に様々な恩恵をもたらした。


 口に含めば難病の治癒や異能の行使など多種多様な作用をもたらす『魔香水』。

 希少かつ貴重な効果を持つ多様な鉱物『魔鉱石』。

 人体に蓄積し、半永久的に特殊な力を与え続ける『魔素』。

 これらの恩恵により人類の生活水準は新たな高みに至りつつあった。


 一方で、ダンジョンは世界秩序に混沌をもたらした。

 世界中がこのダンジョン資源を巡って争っていたのだ。


 そんな中、一つの職業が脚光を浴びていた。

『スキル』という名の異能を武器に、モンスター蔓延るダンジョン内を探索して資源を手に入れる。

 そんな彼らの名を『ダンジョン探索者シーカー』といった。




 ―――――――――――




 俺の夢はダンジョン探索者シーカーだった。

 どうして目指すようになったのかは、よく覚えていない。

 ただ、テレビで有名な探索者のヘンリーウォルターを見た時のことは鮮明に覚えている。

 彼は大勢の人たちの前で自分のしてきた探索を語っていた。

 すごかった。

 かつてアメリカのスラム街に住んでいた彼。

 そんな彼が5大陸の最高難易度、世界7大ダンジョン最深部単独到達(装備持ち込み無し)を成し遂げたんだ。

 その偉業によって彼は世界ランキング1位の探索者となり、富や名声や自由といったありとあらゆるものを手に入れた。

 憧れだった。

 俺もヘンリーウォルターみたいに世界一の探索者になりたい!


 そう思って俺は体を鍛えるようになった。

 日本の法律では、ダンジョンに潜ることができるのは一部例外を除いて15歳から。

 だから俺は15になるまでずっと体を鍛え続けてきた。

 毎日どんなに辛くても腕立てと腹筋、スクワット100回とランニング10キロのトレーニングメニューをこなしてきたんだ。


 そして15歳の今、俺は新人探索者としてダンジョンの中に居る。

 東京都内、吉祥寺は井の頭公園内にある『むさしの』ダンジョン。

 日本で最も攻略が易しいとされるこのダンジョンの最下層。

 そこで俺は苦戦していた。


「くそ……っ!?」


 今俺が戦っている相手はグリーンスライム。

 ゼリー状の体を持つモンスターだ。

 そいつが俺の3メートルぐらい先でウサギみたいにピョンピョン跳ねている。

 全世界津々浦々、どこのダンジョンでも浅い階層でよく出現し、史上最弱のモンスターとウィキに載っているザコモンスター。

 なんと5歳児が討伐したなんて記録すらある。

 それを相手に全く勝てない。

 スライムに体当たりされた場所が黒ずんでいるし、溶かされた皮膚の一部から出血もしている。

 このままだと俺は死ぬかもしれない。


 どうして俺はこんなに弱いんだ……!?


「……!」


 嘆いているヒマはない。

 このままじゃ本当に殺される。

 どうして今苦戦しているのか、考えるんだ……!

 俺が苦戦している理由は、グリーンスライムの動きが速くて攻撃が当たらないせいだ。

 グリーンスライムは『体力』が少ないから、ちゃんと攻撃さえ当たれば倒せるはず……!

 それなら!


「はあああああっ!!!」


 俺は装備していた鉄の短剣を腰の鞘に納めると、スライムに向かって突進した。

 そのまま殴りかかる。


「シュアアッ!」


 すると、スライムが俺の拳に飛びついてきた。

 スライムの体は基本的に、ゼリー状の軟体部分と内部の消化液によって構成されている。

 俺の手を内部に取り込んで溶かすつもりなのだ。

 まるで焼肉屋で肉を焼いた時のような、ジュウジュウという焦げる音がし始める。

 痛いし焦げ臭い。

 だがスライムの動きが止まった。

 僕の手を消化することに集中しているのだ。

 消化中ならこいつは動けない。


『ここだ!!』


 僕は左手で短剣を抜いた。

 そしてスライムのゼリー状の表面部分を斬りつける。

 スライムを初めとするモンスターの弱点は『力核コア』だ。

 コアと呼ばれる『魔素』が集中している部分を破壊する事で、かなりのダメージを与えることができる。

 スライムみたいなレベルが低いモンスターの場合、コアはとても小さい。

 ビー玉ぐらいのサイズだ。

 その核を剣の柄で何度も何度も叩きつけるうち、ようやくスライムが動かなくなった。

 その体が水の入ったビニール袋が破れたみたいに地面に染みて、やがて消える。

 後には砂粒のようなコアの欠片だけが残った。

 俺が勝利したのだ。


 やった!

 グリーンスライムを倒したぞ!


 俺はその場に大の字になった。

 焼けた拳がめちゃくちゃに痛い。

 余りの痛みに涙が溢れてくる。

 肺が呼吸に追いついていない。

 息するたびに胸が焼けたように痛くなる。


「ハアッ……ハアッ……!」


 ダメだ……!

 痛すぎて起き上がれない……!

 スライム一匹狩るのにこんなザマじゃ、ヘンリーウォルターなんて目指せないぞ……!


「ザッコ。スライム倒すのに何分かかってるの?」


 そんな風に俺が息をゼーハー吐いていると、女の子の嘲るような声がした。

 視界の端っこに、金髪で切れ長の碧眼をしたモデルみたいにスタイル抜群な女の子が立っている。

 彼女の名前は西麻布にしあざぶ礼奈れなさん。

 俺のクラスメート。

 その足元にはゴブリンの死体が転がっている。

 1匹や2匹ではない。

 ざっと見て、4……50匹はいるだろうか。

 ゴブリンからすればまさに阿鼻叫喚の光景だろう。

 全て俺がスライムを1匹倒す間に彼女が斬り殺した。

 それなのに彼女は返り血すら浴びていない。


 それもそのはず。

 彼女は日本一の女子高生探索者。

『細剣マスタリー』や『回復魔法』『気配察知』や『アイテム収納』といった超有能なスキルを全部で6つも所持している。

 6つもスキルを持っている人は、日本では彼女の他にもう1人居るだけだった。

 ちなみに俺のスキルはたった1つ。

 しかも彼女とは違って、戦闘には全く使えない無能なスキルだった。


「幼馴染のアナタがどうしてもって頼むから特別についてきてあげたけれど、これじゃ時間の無駄ね」


 西麻布さんがシルクのような長髪を掻き上げて言った。

『俺ごときに時間を使うのはもったいない』

 そんな風に聞こえる。


「す……すいません、西麻布さん……! 大変待たせてしまって……!」


 溶解した手になけなしの液体ポーションを振りかけ、俺はなんとか立ち上がり言った。


 西麻布さんが怒っている。

 それを肌で感じたからこそ、俺は焦っていた。

 俺は余りにも弱いから、パーティを組んでくれる人が誰もいない。

 頼れる人全員に聞いて、最後に残ったのが西麻布さんだったのだ。

 その彼女に捨てられたら、俺はもうどうしようもない。


 西麻布さんがついてきてくれてる今が一世一代のチャンスなんだ!


「西麻布さん……! その、ダンジョン報酬やドロップしたアイテムは全部持っていって頂いて結構ですので……!」


 俺が欲しいのは敵を倒した事で得られる経験値。

 なんとかスライムぐらいは安定して倒せるようになりたい。

 そうすれば後は自力で強くなれる。

 なってみせる!


「当たり前よ。

 もっとも、Fランクダンジョンの報酬なんて貰ってもしょうがないんだけどね。

 アンタ私の自給知ってる?

 1か月に20日、1日2時間働くだけで年に5000万以上稼いでるの。

 だから時給にすると10万ね」


 じ、時給10万……!?

 高校生で時給10万とか頭おかしいだろ……!


 聞いたこともない時給の額に俺が驚いていると、ズイ、と西麻布さんが迫ってきた。

 そのナイフみたいに鋭い両目で俺を睨みつける。


「そんな私の時間を浪費させてるって自覚、アンタある?」


「え……?」


「私、無駄なことって大嫌いなの。無能な人間はもっと嫌い」


 西麻布さんが冷たく言い放つ。

 そして、ローファーの踵をコツコツと鳴らして歩いていった。

 向かっている先はダンジョンの奥ではなく入口。

 マズい。

 きっと俺の余りの無能っぷりに呆れ果てたのだろう。

 このまま帰るつもりなのだ!


「あ、ああ……!?

 すいません西麻布さん!

 俺、もっと役に立ちますから!」


 俺はその背に追いすがって叫ぶ。


 無能扱いされたって構わない。

 同い年を相手にこんなに媚びてるのは正直自分でも情けないと思うけれど、これが今の俺の限界なのだから仕方がなかった。

 それよりも今西麻布さんに捨てられることの方がマズい。

 ここで彼女に捨てられたら、俺はもう探索者として生きられなくなる。

 そうなれば、ヘンリーウォルターになりたいって、俺の夢も潰えてしまう。


 そうなれば俺はもう二度と立ち上がれないだろう。

 人生の敗北者として、やりたくもない仕事をしながら一生を終えることになる。

 新星のように現れる、有能な探索者たちの活躍を恨めしそうに眺めて。

 俺もあんな風になりたかったなんて、酒を飲みながら孤独に呟くんだ。

 そんな負け犬みたいな人生だけは嫌だ!

 終わりたくない!


 そんな思いで俺は西麻布さんの前に立った。

 そして俺は彼女の足元に跪く。

 更には額を地面に擦り付け土下座した。


 ここがラストチャンス!


「お願いします!

 どうか俺と一緒にダンジョンに潜ってください!

 西麻布さんが最後なんです!

 探索者学校のみんなは、もう誰も俺とは潜ってくれなくて!」


「は? どうして私が赤の他人の心配しなくちゃいけないの?」


 西麻布さんは冷たく言い放つ。

 そんな彼女に向かって俺は、


「お……俺のこと気にかけてくれてたんじゃなかったんですか!?」


 つい大声で尋ねてしまった。

 だって正直、西麻布さんが来てくれるとは思わなかったのだ。

 彼女は日本一の女子高生探索者。

 万年Fランクの俺なんかと一緒に潜る理由が無い。

 それでも来てくれたのは、きっと彼女なりに俺のことを気にかけてくれてるからだと思っていた。

 じゃなければ、そもそもなんで一緒に来てくれたのか説明が付かない。

 だから俺は、自分が強くなりたいという気持ちも当然あったけれど、それ以上にそんな西麻布さんの気持ちに応えたいと思って一生懸命に頑張ったんだ。

 だが、そんな俺の言葉に西麻布さんは、


「気にかける?

 私がアナタを?

 アッハハハハハハハ!」


 くびれたお腹を押さえて、また高笑いをし出した。

 明らかに俺をバカにしている。


「それじゃ、なんで……!?」


「そんなの決まってるわ。

 無能な人間がブザマに足掻いている様を拝むためよ。

 だってスライムにすら勝てない男子高校生とか超エンタメじゃない。

 そして、その横で颯爽と細剣を振るってゴブリンどもを蹴散らしてしまうこの私。

 アンタと私は同い年なのに、これほどの差があるの。

 それって気持ちいいじゃない!

 格差って、自分が上である限りは最高のエンタメになるんだわ!

 だって世の中こんなゴミが蠢いてるって思えて安心するし、見下せるものね!

 10万円ぐらい払っても悪くないわ」


 こ、こいつ……!?

 親切で来てくれたんじゃなかったのか!?


「ま、せいぜい頑張りなさい。この先ずっと1人で」


 言って、また歩き出そうとした。

 俺はショックでその場に立ち尽くしてしまいそうになる。

 だが、それでも俺は、


「待ってください!」


 彼女の背に追いすがった。


 今の話で、こいつが嫌な奴だってことは充分すぎるほど分かった。

 だが俺は、それでも夢を諦めたくない!

 俺が強くなるためには、なんとしてもこいつの力が必要なんだ。

 バカにされたって構わない。

 強くさえなれれば!


「レベルを上げるまでで構わないんです!!

 それまでの報酬は全部西麻布さんに差し上げますし、なんなら俺が将来稼いだお金だって、生活費以外なら差し上げられます!

 俺は世界一になる男です!

 決して西麻布さんに損はさせません!

 だから……!!」


 俺はダンジョン中に響き渡るような声で吼えた。

 西麻布さんは黙って俺の言葉に耳を傾けている。


「俺、ヘンリーウォルターに憧れているんです!

 彼は凄いんだ!

 生まれつき貧乏で、頭も悪くて、体も丈夫じゃないし、性格も正直あんまりよくないうえ酒グセも悪いから友達も少なくって、オマケに服もダサいし、スキルだけは辛うじて使えるって、そんな程度の人間だったんです!

 でも彼はそんな状態から努力して、世界一位の座までのし上がったんだ!

 俺はそんなヘンリーの生きざまに希望を見出したんです!

 だって、俺みたいなゴミでも一流になれるって思えたから!

 だから俺も彼みたいになりたいんです!

 だから、お願いします!!」


 俺は誠心誠意頼み込んだ。

 余りの気持ちの高ぶりっぷりに、涙がポロポロ零れ落ちる。

 鼻水もだった。

 こんな風に他人に頼ることしかできない俺って、どれだけ情けないなんだろう。

 悔しい……!

 でも……!

 それでも俺はのし上がりたい……!

 このクソ情けないどん底から、ヘンリーウォルターみたいに這いあがりたいんだ!

 そして世界一の探索者になる!


「フフ……アッハハハハハハハ! アンタみたいのが世界一になれるわけないじゃない!!!」


 だが、西麻布さんはダンジョンの外にまで響きそうな声で高笑いしながら俺を嘲った。

 俺は思わず彼女を見上げる。


「真面目な顔して何を言い出すかと思えば!

 さっすがスライム以下のスペックしかない低能陰キャの落ちこぼれ探索者は言う事が違うわね!

 まったくどんな頭してたらそんなおめでたい発想に至れるのかしら!!

 こんなの我慢しても笑っちゃうわよ!!!

 アッハハハハハハ!!!!」


「に……西麻布さん……!?」


「ハハ……! ホント少しは現実見たらどうなの? アンタ、ヘンリーと違ってスキルすら無能じゃない」


 そう言われてしまった俺は、もう彼女を黙って見送ることしかできなかった。




 ◆




 西麻布さんが帰ってしまった後、結局俺もダンジョンを出た。

 一人ではとてもじゃないがレベル上げなんてできない。


「……せめてスライムぐらいは安定して倒せるようにならないと」


 ため息混じりに俺は呟く。

 夕焼けが目に染みる。


『アンタみたいのが世界一になれるわけないじゃない』


 その時ふと西麻布さんに言われた言葉が浮かんだ。

 世界一には、なれない。

 そう言ってあいつは俺を嘲笑ったんだ。

 悔しい……!


 俺だって現実くらい分かってる……!

 だから一生懸命努力してきたんじゃないか!

 毎日のトレーニングもそうなら、西麻布さんに頼ったのだってそうだ!

 だいたい西麻布さんだって昔は弱かっただろ!

 それなのになんでそんな事を言うんだ……!


「……」


 昔。

 まだ俺たちが幼馴染していた頃。

 小学校低学年ぐらいまでは、まだ俺の方が強かった。

 体も少しだけだけど大きかったし、いつも俺が彼女を連れ回して遊んでいたんだ。

 一緒に色んな約束もした。


『いつか俺が世界一の探索者になったら、バリバリお金稼いでキミを養ってあげる』


 そんな事も言ったっけ。

 俺んちはずっと貧乏だったから、お金を稼ぐっていうのが一番の愛情表現だったんだよな。

 西麻布さんは笑ってた。

 それがいつの間にかあっちの方が強くなってしまって。

 今じゃ西麻布さんが日本一の高校生探索者だ。

 そして俺は恐らく日本で一番下の探索者。

 この事実に打ちのめされる。


「……っ!

 どうして俺は弱いんだ……っ!?

 どうして……っ!!」


 突如として込み上げてきた敗北感。

 それに突き動かされた形で俺は、周りに通行人が居たにも関わらずつい叫び散らしてしまった。

 弱い自分が一瞬たりとも許せない。

 今すぐ世界で一番になりたい。


 くそ……!

 なんで俺は弱い……!?

 いや、俺が弱い理由なんて分かっている……!

 俺が弱いのは、スキルがとんでもなく弱いせい。

 更に他の連中よりも『スタミナ値』が少ないせいだ……!


 そんな事を考えながら俺は、スマホに向かって「ステータス」と話しかける。

 すると、スマホにインストールされていたステータス閲覧アプリが起動した。

 広告ばかりで見難いその画面の中央に、『10』という数字がでかでかと表示されている。

 この数字が俺の現在の『スタミナ値』。

 その下に小さく表示されているのがスタミナの最大値で『50』と表示されている。


 そう。

 俺のスタミナ値は最大で50しかない。


 スタミナ値っていうのは、ダンジョンに潜ったり、スキルを使用するために必要な体力のようなものだ。

 ダンジョンに潜るためにはスタミナ値がおよそ40必要なので、俺がダンジョンに潜れるのは1日1度が限度となる。

 一般人は最低でも100はある。

 ちなみにヘンリーウォルターは42万5000。

 ただでさえ絶望的な数字なのに、しかも俺の場合、睡眠した時の回復量すら人より少ない。

 スタミナ値を回復させるためには睡眠が必要なのだが、俺の場合8時間たっぷり眠っても10しか回復しないのだ。

 つまり殆どの人が1日に1度ダンジョンに潜れるところを、俺は4日かけて1度しか潜れない。

 だからいつまで経っても強くなれなかった。

 そこで、仕方がないから学校の同級生たちに頭を下げて一緒にダンジョンに潜ってもらっていたのである。


 だけどそれも今日でお終い。

 最後に残った西麻布さんにまで愛想をつかされてしまった。

 明日からどうやって強くなろう。

 もうどうにもならないような気がしてきた。


 俺はステータスアプリの画面をスライドさせる。




 ──────────────────




[登録者名] 眠 士郎




[ジョブ] HWダンジョン専門学校東京校第14期生・Fランク探索者



[スキル] 仮眠(レベル1:99/100)

 1回仮眠することで熟練度を1得る。消費スタミナ:1


 レベル1:〔即眠〕どんな場所でも3秒で仮眠を取ることができる。


 レベル2:睡眠後に【スタミナ回復量UP(小)】の効果を得る。


 レベル3:********************。




 ──────────────────




 俺のスキルはこの【仮眠】スキルだけ。

 どこでも3秒で眠れる能力ってのは、強いっちゃ強い。

 なぜならスタミナは眠ることで回復するからだ。

 スタミナさえ回復すれば事実上何回でもダンジョンに潜れる。


 ただし、俺が8時間寝た時に得られるスタミナ回復量は平均で10しかなかった。

 つまり最低でも32時間は寝ないとダンジョンに潜れないのだ。

 これじゃどうやっても強くなれない。

 上位ランクの探索者たちは1日に5回も6回も潜っている。


 くそ……!

 俺はどうして弱いんだ……!

 嫌だ……!

 夢を諦めたくない……っ!

 終わりたくない……っ!!


「……」


 自分の弱さに苛立ちを覚えながらも、いつしか俺は微睡んでいた。

 スライムから喰らったダメージが思いのほか大きかったのと、スタミナ値がかなり減っていたからだ。

 体が重い。

 まるで鉛の中を進んでいるようだ。


 ダメだ……!

 このままじゃぶっ倒れる……!

 少し休もう……!


 俺は近場にあったベンチに座り込むと【仮眠】スキルを発動した。




 ◆




 目覚めると、辺りがほんのり暗くなっていた。

 3時間ぐらいは寝てたんじゃないかな。

 そう思ってその場で伸びをすると、なんだか体が軽い。


「……?」


 いや、軽いなんてもんじゃないぞ。

 このままもう1回ぐらいダンジョン潜れる感じだ。

 こんなに調子がいいのは何年ぶりだろう。

 なんだかスタミナ値が全回復したような気がする。

 って、そんなはずはないか。

 だって、俺はたとえ8時間寝たとしても10しか回復しないのだ。


 それなのに体が全快しているということは……。

 俺、もしかして丸1日寝てた?

 そしたら単純計算で24時間だからスタミナ値が30回復するはず。


 そう思ってスマホを見るが、時間は1時間しか経っていない。


 よかった。

 でも、なんで?


 不思議に思いステータスアプリを開く。

 するとスタミナ値が50に戻っている。

 やっぱり全回復していたのだ。

 1時間しか経っていないのに。

 どういう事だろう?


 ……ひょっとして。


 そして俺はある事に思い当たった。

 そういえば、仮眠スキルの熟練度があと1でレベル上がったはずだ。

 俺の記憶が正しければ、新しいスキル効果を獲得できた気がする。


 そう思った俺はスキル画面を開く。




 ──────────────────




[スキル] 仮眠(レベル2:0/100)

 1回仮眠することで熟練度を1得る。消費スタミナ:1


 レベル1:【即眠】どんな場所でも3秒で仮眠を取ることができる。


 レベル2:睡眠後に【スタミナ回復量UP(小)】の効果を得る。回復量は50アップ。

 

 レベル3:仮眠スキルで眠った場合3秒で目覚める。


 レベル4:********************。




 ──────────────────




[スキル]欄の横にある(レベルX:0/100)って数字は熟練度を示してる。

 これが100たまる度に、スキルのレベルが上がるのだ。

 そしてスキルレベルに応じて、その下の欄に書かれてある効果が獲得できる。


 今の俺のステータス画面を見るに、どうやら100回眠ったために仮眠スキルのレベルが上がったらしい。

 そのことで、【スタミナ量回復(小)】という効果を獲得したみたいだ。

 このスタミナ量回復(小)により、俺のスタミナ値は50回復したらしいんだけど……!?


「って、マジ!?」


 俺は何度も画面を見直した。


 もしスタミナ値が50まで回復するなら、仮眠さえとれば俺は何回でもダンジョンに潜れるってことになるぞ……!?

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