第38話 見える思い

夏祭りといえば、金魚すくいやりんご飴、いろんな屋台を回るのが醍醐味だ。

俺たちはまず射的屋に向かった。

人はあまり並んでおらず、すぐに順番が来た。


「翔真、全然当たらないー。」


こういうことは苦手なのか、陽菜乃がだいぶ的はずれな方向に、射的の玉を飛ばしながら言ってきた。まるで、取ってくださいと言わんばかりの眼で俺のことを見つめて来た。


「ちょっと貸してみろ。」


陽菜乃の持っていた射的を貰うと、俺は上の段のクマのぬいぐるみに狙いを定めた。

パンッ。

勢いよく玉が飛び出し、クマに当たった。


「あっ、当たった。」


が、クマのぬいぐるみは微動だにせず、落とすことができなかった。


「嘘、当たったのにー。」


悔しくてショボンとしている陽菜乃を見て、射的屋のおじさんがこっそり俺の方に近付いてきた。


「落ちなかったけど、これあげるよ。」


その手には花火があった。


「いいんですか?」

「ああ。ぬいぐるみ自体は上げられないけど、あんな悲しそうな顔されたらおじちゃんもやってられないよ。」

「ありがとうございます。」


俺は射的屋のおじさんにお礼を言い、陽菜乃に貰った花火を渡した。


「嘘!やったね。」

「うん!」


陽菜乃はそう喜びながらも、射的のおじさんへ軽くお辞儀をした。

こういう所はやっぱり完璧なんだなと俺は感心した。


幸せな気分で次に向かったのは、かき氷屋さん。

夏の夜は暑く、冷たいものを食べることにしたのだ。


「ねぇねぇ、翔真は何味にする?」

「うーん、俺はブルーハワイかな。」


ざっと味の種類を見て決める。

このかき氷屋さんには、『メロン・イチゴ・パイナップル・ブルーハワイ・コーラ』の味があった。コーラなんて始めてみた…。


「私は、イチゴにしよっかな。」


そこまで悩む様子もなく、陽菜乃が答えた。

それぞれのかき氷を注文し、私達はどこで食べるか話し合っていた。


「人が沢山いると、人に当たったりしそうで食べづらいよね。」

「そうだな。あんまり人のいなそうな所がいいな。」


お祭りで人がいない所…。


「あっ、あそこは?神社の裏側。準備してるときに気が付いたんだ。」

「なるほど。」


神社の裏側は本当に人が来ないのだ。

そもそも神社の裏に行こうとする人は、いないのだろうけど。

だけど、この神社の裏にはベンチが置いてあり、座ることもできる。


俺たちは陽菜乃の提案通り、神社の裏につくとベンチに座り、かき氷を食べ始めた。

ブルーハワイって美味しいけど、何味に近いんだろう。

なんて事を考えながら無心で食べいた。


「あのね、翔真。」

「ん?どうした。」


陽菜乃がかき氷を食べる手を止めて、俺の方を向いた。


「今日は花火、上がらないんだよね。」

「そうだな、花火は二日目だけだな。」

「そう、だよね。」


俺の答えに、陽菜乃はとても悲しそうな顔をした。

そして、もう一度、今度は俺の眼を真っ直ぐ向いてきた。


「私、翔真と花火、見たいな。」


俺はここで陽菜乃に何て答えるのが正解なのか分からなかった。

汐良せらと別れてから、初めに仲良くなって、一緒に登校したり、弁当を作ってもらって、食べたり。

俺のその時の悲しい気持ちから立ち直れたのは陽菜乃のお陰と言っても過言ではない。

そんな思いを巡らせ、その言葉の返答に少し黙っていると再び彼女が口を開く。


「私、翔真のこと、ずっと前から好き。だから、付き合ってください。」


俺は陽菜乃にそう言われたとき俺はある人物が頭に思い浮かんだ。

でも、それは陽菜乃では無かった。


「……ごめん。陽菜乃とは付き合えない。俺、好きな人がいるんだ。」


俺がそう答えると、陽菜乃はただ「うん。」と頷いた。

その額には、俺が告白を断ったにも関わらず、変わらず100の数字がまるで、その数字で一喜一憂する俺の事をバカにするかのように浮かんでいた。


「……翔真。今日の最後に一つだけ、お願いしてもいい?」


陽菜乃はそう言ってかき氷を椅子に置くと、さっき射的でおじさんから貰った花火を出てきた。


「花火、一緒にしよ。」


そう言って、作り笑いなのか分からない綺麗な笑顔で尋ねてこられては断るという選択肢は俺にはなく、快く承諾する。


「わー!綺麗だね!」

「だなっ。」


花火の間は、告白の話なんてせずに、ただ目の前の花火の感想を言い合っていた。

その時間は、とても心地よくあっという間にすぎて言ってしまった。


「もう無くなっちゃったね。」

「そうだな。あっという間だったな。」

「もうちょっと楽しみたかったな〜。」

「また今度すればいいだろ。」


俺がそう言うと、陽菜乃は一瞬暗い顔をしたが、直ぐに笑顔に戻り「そうだね。」と言った。


「すっかり暗くなっちゃったな。」

「そうだね、帰らないと。……あっ。」

「ん?」


陽菜乃がかき氷が入っていたカップを、こちらに見せてきた。


「あ、溶けてる。」

「すっかりかき氷のこと、忘れてたね。」

「よし、飲むか。」


俺たちはそうして、一気に一緒にただの甘い水となったかき氷を飲んだ。

すっーと身体に染み渡り、暑さが和らいだ。


「さてと、帰りますか。」

「うん。今日はありがとね。」


帰り道、陽菜乃との距離は行きよりも少し近くなっていたが、くっつくという訳でもなく、ただ、なんとも言えない距離感で帰り道を進んだ。



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