第31話 見える限界
そんな先生の報告から時は流れて、いよいよその夏祭りも明日に迫って来ていた。
俺は暑さのせいか少し気だるげな体を起こし、夏祭り会場へ足を運ぶとすでに何人かが先に集まって、その中に大樹の姿もあった。
「お~。翔真、遅かったな。」
「大樹たちが早すぎんだよ。」
「そりゃあ、そうだろ。何と言っても伝説の夏祭りだからな。」
「気合い入れすぎだっつーの。」
「翔真が気合い入れなさすぎなんだよ。ってか、ホントに元気なさそうだな。大丈夫か?」
「別に大丈夫だ。」
大樹はそう心配そうに俺の顔を覗き込んでくるが、俺はそれを払いのけるようにしてそう言った。
そんなやり取りをしている間に人も集まって来て、夏祭りの準備が始まった。
屋台を組み立てたり、提灯を飾り付けをしたり、屋台のメニューやデコレーション等を検討していた。
「翔真、この提灯はどう思う?」
「いい感じだと思うぞ!夜になったらきっと綺麗に見えるんじゃないか?」
「もっと右だ!右!」
そんな風に皆真剣に準備をし続け、お昼を迎えた。
午後になったということもあり、暑い太陽が頭上に燦然と輝いている中、俺たちは涼しい屋内に移動して休憩することにした。
その時点で俺は朝からの気だるさが大きくなり、少し疲れを感じていたが、みんなの楽しみにしている夏祭りのために頑張りたいという思いが俺を動かしていた。
休憩が終わり、再び屋外に出ると、風が心地よく吹き抜ける。
「翔真、大丈夫か?顔色が悪いぞ。やっぱり、体調悪いんじゃないか?」
「え、大丈夫。本当に、大丈夫だから。」
心配そうに俺を見つめる大樹を安心させようと俺は無理をして笑顔を見せた。
それからしばらく、葵たちは屋台の最後の準備を進めていた。
しかし、次第に自分でもマズいと感じるほど体調が悪くなってきて、立っているのが辛くなってきた。
「翔真、ちょっと足元のトンカチ取ってくれるか?」
「ん?ああ。」
俺は大樹にそう頼まれ、足元に置いてあったトンカチを拾おうとした時、ついに視界が歪み、足元がふらついた。俺は屋台の柱に手をかけようとしたが、そんな俺の手は空を切って、いつの間にか見える景色は青い空になっていた。
「翔真!」
大樹の叫び声が耳に響く。
俺は倒れてしまったようだ。
意識が朦朧として、周りの声や景色が遠のいていく。
「誰か!先生呼んで来い!」
大樹の声が聞こえるが、それもだんだん遠くなっていく。
俺の見える視界にも人の顔がチラホラと覗き込んできて、夏祭りの会場がざわめいているのが分かるが、俺はもう何も感じられない。
そうして、意識はもう遠くへ飛んで行ってしまった。
次に俺が目を覚まして見えたのは見知らぬ天井だった。
辺りを見回すと、俺の隣で一人の眼鏡女子が心配そうに見守っていた。
「翔真、大丈夫?倒れたって聞いて心配したんだから。」
「えっと、ここはどこ…?」
俺はまだ頭がボーッとしていた。
「夏祭り会場近くの病院だよ。」
「病院……。」
俺は少しずつ思い出す。
夏祭りの準備をしていた時、体調が悪くなって倒れたことを。
「ああ、そうだ…。大樹たち、他の皆は?」
「他の皆はまだ、会場で準備をしてるよ。私も、翔真の付き添いで来ただけだからもうすぐ会場に戻らないと。あんまり、無理をしないでよね。今回はただの熱中症で済んだけど、こんなのただのラッキーだからね。」
「ごめん……。」
「それじゃあ、私の仕事も終わったことだし、後はお医者さんにお任せだね。」
俺が謝ると、彼女はそう言って椅子からおもむろに立ち上がって、病室を後にしようとした。
「1つ聞いてもいいか?」
「なに?」
「どうして俺の付き添いが、お前なんだ?
そんな彼女を引き留めるように俺は1つ尋ねると、汐良は悪戯っ子みたくはにかみながら、口に人差し指を当てて、「ヒ・ミ・ツ!」と言って去って行ってしまった。
「なんだよ秘密って…。それに、あの眼鏡、どっかで見たような‥‥。」
俺は残された病室で一人、そんなことを考えていた。
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