第8話 見える告白

「そう言えば、今日、先輩の家に泊まらせてもらいますね。」


そんな麻衣まいの言葉を聞かされた俺は急いで樹に電話を掛けた。


「おい、樹どういうことだ?」

『何が?』

「とぼけるな、麻衣が家に泊まるってどういうことだ?」

『そのままの意味だが。何かまずいか?』

「まずいだろ。年頃の男女が一つ屋根の下で一夜を共に過ごすのは。」

『お前は親友の妹に手を出すのか?』


樹は笑いながらそう言った。


「いや、出すわけないだろ。」

『まあ、麻衣もなんか色々考えてるみたいだし付き合ってやってくれ。それに、俺は麻衣の相手が翔真なら大歓迎だけどな。』


そんな樹の言葉を聞き俺は麻衣の方に目を向ける。

それに気づいた彼女は俺に笑顔で見つめ返してくる。


「……いやいや、ないでしょ。」

『まー、一日だけ頑張ってくれ。それじゃあな。』

「お、おい。」


俺の言葉を待たずして、大樹は電話を切った。

俺は一つため息を付き、


「今日、一日だけだからな。明日には帰ること。約束な。」


その言葉を聞き、飛び跳ねる麻衣を見ながら今日の夜の不安を膨らませる俺だった。



夕飯の片づけを二人で終わらせ、麻衣と向かい合い話し合いを始めた。


「まず、布団の問題だ。家にはシングルベッド一つしかないから、今日は麻衣がベッドで寝てくれ。俺はそこのソファーで寝る。」

「え~。どうしてですか?お泊りなんですから一緒に寝ましょうよ。それにソファーじゃしっかり眠れませんよ。」

「いやいや、男女が同じベッドに寝るのはまずいだろ。」

「私の事、女の子と思ってくれてるんですね。嬉しい〜。」

「だから、俺はソファーで寝る。分かったな?」

「嫌ですよ。せっかく先輩とお泊まりなんですから一緒に寝ます!」

「無理。」


俺たちは結論の出ない話し合いを永遠とする。

そんな言い合いをしていると、麻衣がなにか閃いたかのように声を上げた。


「分かりました。先輩に選ばせてあげます!私と一緒にベッドで寝るか、それとも、今から一緒にお風呂に入るか!」

「は?」

「早く選んでください。ちなみに、選ばないはダメですからね。」


バレていた。第三の選択肢を自分で作るつもりだった俺の考えは即座に封鎖された。

さすがに一緒に風呂はいくらなんでもマズイ。消去法で一緒にベッドで寝るを選ぶしか無くなってしまった。


「分かったよ。一緒に寝ればいいんだろ。」

「分かれば良いんですよ。それじゃあ、決まりです。」


それから、麻衣は風呂に入って来ると言って立ち上がると鼻歌を歌いながら風呂場に向かった。


待っている間、読書でもしようと思ったが、壁を隔てていながらも聞こえてくる麻衣の鼻歌と、シャワーの音を聞こえないふりをするので精一杯だった。




麻衣の後に俺もお風呂を済ませ、いよいよ寝る時間となった。


「さぁ、寝ましょ〜!」


と言いながら俺のベッドにダイブする麻衣の格好は可愛らしい寝巻きだった。


「はいはい、人のベッドではしゃがない。」

「は〜い。」


俺はそう言ってベッドに入り、仰向けになる。その俺の右隣に麻衣も同じように並ぶ。


「それじゃあ、電気消すぞ。」

「あっ、私真っ暗じゃ寝れなくて。常夜灯にして貰えますか?」

「分かった。」


そう言われ、リモコンで常夜灯にする。

この時、いつもとは違い女子と2人であること、右半身に人の温もりを感じること、いい匂いがすること、さっきまでなんとも思わなかったことが常夜灯により何故か心が高ぶる。


「おやすみなさい、先輩。」

「おやすみ。」


俺は喉の奥からその声を絞り出し目を瞑り、体も麻衣とは反対側に向け横向きの体制になる。


悶々とした雰囲気で寝られるはずもなくしばらく寝たフリをしていると麻衣が背中の方でゴソゴソと動き始めたのを感じる。


「先輩、寝ました?」


そんな声が耳元に届いてくるが、寝たフリをしている手前返事など出来ないので無視をしていると、俺背中に柔らかいものが押し付けられさらに、お腹の辺りに麻衣の手であろうものが巻きついてきた。


「先輩。私、先輩の事が好きです。助けてもらった時から大好きです。彼女ができたと聞いた時は本当にショックだったけど、諦めきれなかったです。先輩は私の事、妹としか思っていないかもしれないけど、いつか私を1人の女の子として見て貰えるように、そしてこの言葉を面と向かって言えるように頑張ってみせます。」


そんなことを言う麻衣の俺を抱きしめる腕には力がこもっていた。

思い返せば、麻衣は俺に彼女が出来たと知ってから俺に面と向かって好きと言わなくなった気がする。

それは彼女なりの優しさなのだろうか。

それに

俺が樹と知り合ってすぐの麻衣が入院していた時のことだろう。

懐かしいなぁ。


そんな風に麻衣の言葉を受け止めながら、俺は眠りについた。





「翔真先輩、翔真せんぱーい。」


眠っていた俺の耳に、そんな綺麗な声が届いて来て、俺はデジャブを感じながらもゆっくりと目を開ける。


「おはようございます、翔真先輩。」

「ああ、おはよう。麻衣。」

「おはようって言ってももう10時半ですけどね。よく眠れました?」

「そんな時間なのか。ベッドに入ってすぐ寝たから結構寝たな。」

「それは良かったです。」


俺は昨日の夜の麻衣の言葉を聞いていなかったことにした。そして麻衣も、二つの意味で良かったと言ったのだろう。


「これからどうします?」


着替えている俺に、麻衣がそんなことを聞いてきた時、家のインターフォンが鳴った。


「誰でしょう?」

「知らないな。来客の予定はないし。」

「私の兄かもしれないですね。見てきます。」

「ああ。」


この時、軽はずみに頷いたのがいけなかった。


俺は着替えを終え、玄関に出てみるとそこには







俺の元カノ、松浦まつうら汐良せらが立っていた。





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