第6話 見える猫

陽菜乃ひなのとの約束の土曜日を迎えた。

家が隣なので一緒に向かえばいいと思ったが、それは違うでしょと怒られてしまった。

どっちでも一緒だろと思いながらも俺はしぶしぶ、待ち合わせ場所である公園に向かった。あそこにはいい思い出は無いんだが。。。



男と仲良く歩く汐良せら

俺に見せたことないような顔で笑う汐良せら

ホテルから出てくる汐良せら


公園に到着すると、やはりあの時のことがフラッシュバックしてきた。


俺は息が荒くなる。


「あーあ、時間の無駄だった。」


視界が歪み始める。


「浮気されて当然。」


俺は公園を離れようとしたとき、


「し、翔真、くん。」


そんな声が後ろから聞こえ、振り返ってみるとそこには陽菜乃が立っていた。


「待たせてしまってすみません。」

「い、いや。俺も今来たところだから大丈夫だよ。」

「ホントですか?顔色が少し悪いような気がしますけど……」


そう言って陽菜乃は俺に近寄ってくる。


「だ、大丈夫だって。」


俺は近づいてきた陽菜乃と距離を取りながらそう答える。


「それならいいんですけど。」

「それで、今日はどこに行くんだ?」

「それは行ってからのお楽しみです。さぁ、それじゃあ行きましょう!」


そう言って陽菜乃は俺の腕をとり歩き始めた。






「着きました!」


陽菜乃がそう声を上げたのはある店の前だった。


「猫カフェ ニャン太?」

「はい!一度行ってみたかったのです。」


思い返せば、メッセージのアイコンは猫だったし、スタンプも猫のもの多かったような気がする。なんとなく陽菜乃本人も猫に似てるような感じが、、


「早く入りましょう!」


急ぐ陽菜乃に引っぱられ俺達は店の中に入っていく。


受付を済ませて、早速、陽菜乃は猫と戯れに行った。


「陽菜乃、はしゃぐのはいいけど猫にストレスとかは与えない、よ・・・」


俺はそう言いかけて、辞めた。

いや、辞めざるを得なかったのだ。

陽菜乃の方に目をやると、ここの猫達がここぞとばかりに陽菜乃に擦り寄っていたのだ。

この目に優しい光景にしばらく見とれていると、


「彼女さん、猫ちゃんに取られちゃいましたね。」

「そうですね。」


彼女では無いのだがと思いつつも気にならないので訂正せずに、そう返すと


「あそこまで猫ちゃん達に好かれるのは珍しいですよ。」

「そうなんですか。あの子も猫に似てるとこあるので、それを感じ取ったのかもしれないですね。」



「翔真もこっち来てみなさいよ。」


と陽菜乃に呼ばれたので店員さんと別れて俺は陽菜乃と集まっている猫達の方へ向かった。


俺は床に座ると猫ちゃんを呼んでみる。


「猫ちゃ〜ん。こっちおいで~。」


陽菜乃に集まっていた猫たちは俺を一瞥すると直ぐに顔を俺から背け陽菜乃に再び擦り寄って行った。

何クソと思いながら何度も呼んでみるがどの子も俺に近寄って来すらしない。

それを見兼ねた店員さんが声を掛けてきた。


「彼女さんとは真反対ですね。」

「そうなんですよ。どうすればいいですかね。」

「そういう時は、ご飯です!」


そう言って、猫ちゃんのご飯と思われるものを渡してくる。

俺は貰ったご飯を猫ちゃん達の前に持っていき、


「ほーら、ご飯ですよ~。こっち来たらご飯食べられるよ〜。」


すると、さっきまでの無視が嘘だったかのように俺の前に置いたご飯のところに寄ってきた。


「彼氏さん!今です!猫ちゃんと触れ合えるチャンスです!」


そう言われ恐る恐るご飯に夢中な猫ちゃんに手を伸ばすと、撫でることが出来た。


「触れました!」

「おめでとうございます!」

「陽菜乃、触れたよ!」


そう言って俺は陽菜乃の方に目を向けると


「か、の、じょ・・・、か、れ、し・・・」


と、顔を赤くしながらボーっとしていた。

何してんだとは思いながら今はやっと触れることが出来た猫ちゃんとの時間を楽しむことにした。


ご飯を上げて俺の株が急上昇したのか、それから猫ちゃん達は俺によってくるようになった。

しばらく、触れ合っていると猫ちゃんまちの頭の上に、数字が見えた。



50



50って、微妙ー。

でも、どうして猫の上にも数字が見えるようになったのか。

猫と話すことは出来ないし、していない。

話すこと以外にも見える条件があるのか。

ここに来てから猫ちゃん達とは触れ合ってしかいない。

触れ合う?

触っていることでも見えるようになるのか。

最初は見えなかったから、何分か触っていないといけないのか。

またこの眼鏡の謎ができてしまった。


「猫ちゃーん、こっちおいで〜。」


そんな風に考えていると、陽菜乃が気を取り戻したのか、猫ちゃんを呼び俺の周りにいた猫ちゃんたちが陽菜乃の所へまた戻って行った。

すると、見えていた数字が見えなくなった。


それから時間いっぱい猫ちゃんと戯れたあと、ご飯を食べた。



「今日は初回だからもう、帰りましょう。」

「もういいの?まだ2時すぎだけど、」

「はい。今日はもうおなかいっぱいです。」

「陽菜乃がそう言うならいいけど。」

「では、家まで一緒に。」

「ああ。」


それから、隣の部屋の住人を家まで送り届けるというなんとも珍しいことをして、俺も自分の家に帰った。

今日1日、陽菜乃の数字は100から変わることはなかった。

ちなみに店員さんの数字も猫ちゃんたちと同じ50だった。流石、接客のプロ。余計な感情は何も無い。


家のソファで、今日一日を振り返っていると、家のインターフォンがなった。

重い腰を上げ、カメラで確認してみると戸田とだ 大樹だいきとその隣に女の子が立っていた。

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