十一話

「……?」


 薄く目を開けたテクラは、やはり物音で目を覚ました。だが今回は小さな音ではなく、やけに騒々しい音だ。大勢の人間が一箇所に集まって立ち話でもしているような音に聞こえた。テクラは目をこすりながら体を起こし、隣のベッドを見る。が、そこに人影はない。めくられた毛布があるだけで、レネはどこにもいなかった。この光景を見るのは二度目で、夜中に見た一度目の光景と何も変わっていないようにも思えた。あの後レネは戻ってきたのだろうかという疑問が湧いたが、その前にこの騒々しい音の原因を突き止めようと、テクラは窓の外に視線をやった。


 空が曇っているせいか、太陽は昇っているはずだが、辺りは明るくなりきっていないようで薄暗かった。気温も前日より明らかに下がり肌寒い。埃で汚れた窓ガラスにはテクラの白い吐息が残った。その向こうを眺めれば、多くの人影が見えた。皆男性のようで、がやがやと話す中には武器を手にしている者もいる。だが不思議なのは、その全員がテクラのいる宿のほうへ向いていることだ。右にいる男性も左にいる男性も、もれなく宿に目を向けていた。まるでこの宿を取り囲んでいるようにも感じる。いや、本当にそうなのかもしれない――不穏なものを感じたテクラは慌てて部屋を飛び出すと、宿の主人を捜した。しかしどこを見てもおらず、さらには他の客室も見て回るが、すべて扉は開け放たれ、中には誰もいなかった。つまり、今宿にいるのはテクラ一人だけという状況だった。


 何が起きているのかわからないが、何かよくないことが起きていることだけはテクラもわかっていた。そしてそれはこの宿に、そこに泊まる自分に向けられているかもしれない。もしそうだとするなら、理由は一つしか思い付かない。吸血鬼だとばれたのだ。本当にそうだとしたら、外へ出ていくのは危険だろう。その途端、武器を持った男性達に襲われかねない。だが勘違いだったら? もっと別の理由で男性達が集まっているとしたら――楽観視したい気持ちと怯える気持ちの狭間でテクラは悩む。しかしこのまま宿に留まっていたところで何も知ることはできないだろう。ここは意を決して外に出てみるしかない――宿の入り口に向かい、その扉にテクラが手を伸ばした時だった。


「今は出ないほうがいい」


 横からすっと伸びてきた手が、扉の取っ手をつかもうとしたテクラの腕を止めた。


「……スタリー様!」


 驚いて見上げれば、いつの間にかすぐ側にスタリーが立って見下ろしていた。その後ろにはイサークの姿もあった。


「一体、どうやってここに……?」


 宿の中に誰もいないことは確認済みで、大勢の男性が取り囲む中、もちろん入り口から入ってきたわけでもない二人がどうして、どうやってここに来たのか、テクラには何とも不思議だった。


「我々には姿を変える能力があってね。この身を霧に変えれば、一見入れそうにない建物でも、わずかな隙間から侵入することも可能なんだ」


「霧に……? そ、そんなことができるんですか?」


「やっぱり元人間の下級だね。何も知らないんだ。主人としてもう少し教えてあげたらどうだ? スタリー」


「私は彼女の主人ではなく、単なる領主だ。……それより、早くここから逃げなければならないが――」


「あ、あの、外の人達は一体何なんですか? この宿を取り囲んでいるみたいですけど」


 怯えた声で聞くテクラに、イサークはわずらわしそうに言った。


「何となく察しは付いているだろう? 外のやつらは吸血鬼を狩るために集まっているんだから」


「それじゃあ、やっぱり、私が吸血鬼だと知られて……」


 スタリーは残念そうにうなずいた。


「そのようだ」


「でも、いつわかったんでしょうか。フードもかぶってたし、村の人達とも大して話してなかったのに……」


「答えは簡単だ。ほら、そこの小窓をのぞいてみなよ」


 イサークは入り口の扉に付いた小さな丸い窓を示した。言われるままテクラはそこをのぞき込んでみる。見えるのは先ほど部屋の窓から見た時と同じ景色だ。大勢の男性がこちらを見据えて立ち並んでいる。構えられた武器はやはりテクラへと向けられているようだが、その様子からなぜ吸血鬼とばれたかの答えは見つけられない。しかし、それを探して男性を順番に眺めていた時、テクラの目は大きく見開かれた。


「……あれは、レネさん!」


 傭兵と思われる体格のいい男性の間に、赤毛で短髪の見知った姿を見つけ、テクラは思わず声を上げた。レネは周囲の男性達と時折会話しながら、厳しい表情で宿を見つめていた。その様子は取り囲む男性の一員にしか見えない。これが答えなのか――ゆっくりと振り返ったテクラは、視線で二人にそう聞いた。


「昨晩、彼が村の中を歩いているのは見ていたが……おそらくその時に君のことを村人達に告げたのだろうね」


 それを聞いてテクラも昨晩のことを思い出した。レネは手洗いに行くと言って宿を出たが、その時の格好や言動の不自然さは、今思えばそういうことだったのかとわかる。レネはあの時点ですでに、テクラ達と対峙するつもりだったのだ。


「まったく愚かなやつだよ。武装した人間が多くいるからって、自分のほうが有利で強いと勘違いしたんだろう。だから人間なんて、さっさと食料にすればよかったのに」


「血を吸ったら、だたではおかないぞ」


 スタリーに睨まれ、イサークは肩をすくめた。


「本当、あなたは人間にどこまで優しくする気なの?」


「余計な争いを生みたくないだけだ」


「でも、人間のほうは争いたいみたいだけど? この下級を仕留めようと外で殺気立っている。それにしても、姿を変えられない下級を、ここからどうやって逃がすつもりなんだ? 僕ならぱぱっと蹴散らすところだけど」


 何も言わないスタリーは、もちろんそんな案は論外だった。誰にも見つからず、穏便に逃がす方法はないかと思案していると、外からこんな声が聞こえてきた。


「――準備、できたぞ」


「よし。じゃあ皆、たいまつに火をつけろ」


「合図するまで待てよ。他の配置は済んだか? あぶり出したらすぐにやれるように――」


 外を見ると、数人の男性の手にはたいまつが握られており、そこに次々と赤い火がつけられていく。曇った空模様の下、宿の周りだけが異様な明るさに包まれていった。それを見てイサークは鼻で笑った。


「炎であぶり出そうっていうのか……こざかしいね」


「時間がないようだな……仕方がない。私が彼らの気を引いてくる。お前はその隙にテクラを逃がしてくれ」


「気を引くのは僕がやりたいな」


「駄目だ。お前に任せたら〝つまみ食い〟されかねないからな」


「ふふっ、下心はお見通しか」


 イサークは楽しげに、だが少し残念そうに笑った。そんな余裕のあるイサークとは対照的に、テクラは緊張した表情に不安を見せていた。


「……テクラ、君のことはイサークが逃がしてくれる。大丈夫だ。外の者達に襲われることはないよ」


 肩に手を置き、スタリーは微笑んで言った。


「ありがとうございます。でも、スタリー様は……」


「私もすぐに合流する。心配はいらないよ」


「下級に心配されるなんて、あなたも見くびられたものだね」


 喉の奥で笑いながらイサークが言った。


「そ、そうですね。私が心配するまでもありませんね……でも、お気を付けて……」


 控え目に言ったテクラにスタリーは笑った。


「じゃあ、後で」


 そう言うと、スタリーの周りに黒い煙が沸き起こり始め、それが全身を覆うと、次にはスタリーの姿は消え失せ、黒く薄い霧へと変わっていた。それはたゆたいながら、風に流れるように上昇すると、天井の隙間へと入り込み、そのまま消えていった。目の前にあったはずの姿が本当に霧に変わるという不可思議さに、テクラは天井をしばし呆然と眺めるのだった。


「おいおい、眺めるのは上じゃなくて外だろう。……ほら、スタリーがいるぞ」


 イサークに促されて扉の小窓から外に目をやったテクラだが、いるというスタリーの姿はどこにも見当たらない。


「どこに、スタリー様が……?」


「下級の目じゃ追い付かないか。まあ、見ていればわかる」


 言われた通り外の様子をじっと眺めていると、すぐに異変は起きた。


「うわっ――」


 取り囲む男性達の後方から、驚いたような悲鳴が上がった。その周囲がざわめき始めると、今度は別の後方からまた悲鳴が上がる――


「何だ、何が起きた」


 最前列に立つ男性達の意識が背後へ向く。


「な、何かいる!」


「俺の足を引っ張ったんだ!」


「黒い影だった! 吸血鬼だ!」


 誰かがそう言うと、場は一気に騒然とし始めた。


「吸血鬼だと? おい、どこへ行った、捜せ!」


 火を放ってあぶり出す作戦は中断され、取り囲んでいた男性達は武器を構えて一人、また一人と宿から離れていく。だが、レネだけはその場を離れようとはせず、宿に警戒の眼差しを向け続けていた。


「間抜けな人間だと思ったけど、騒ぎが囮だということは見抜いているらしいな。まったく、うっとうしいやつだ。でも人間一人くらい、どうってことはないか。……行くぞ、下級」


 廊下の奥へ歩き始めるイサークの後を、テクラは小走りで追った。


「ど、どこから逃げるんですか?」


「ここには裏口がない。出口になるのは窓しかないだろう」


 そう言いながらイサークは最奥の客室に入った。


「人間の姿はないな……ほら、今のうちに逃げるぞ」


 入った部屋の正面にある窓をのぞき、テクラに促すイサークだが、この宿のガラス窓はすべて嵌め殺しになっており、開閉することができない作りになっていた。


「あの、この窓は開きませんから、開く窓を探さな――」


「こんなもの、割ればいいだろう」


 テクラの言葉を最後まで聞かずに拳を握ると、イサークはためらうことなく窓を勢いよく突き破った。ガラスの破片と共にガシャンと大きな音が響き渡り、テクラの心臓は跳ね上がった。


「み、見つかってしまいますよ」


「スタリーが引き付けてくれているよ」


 何の心配もなさそうにイサークは壊した窓から外へ出た。


「のろのろするな下級」


 急かされながらテクラも窓をまたいで出ようとするが、残ったガラスや折れた窓枠が外套に引っ掛かり、なかなかすんなりとは出られない。


「あの、手を、貸してもらえませんか?」


「手間のかかるやつだなあ……ほら、つかまれ」


 差し伸べられた手にテクラがつかまろうとした時だった。


「逃がすかよっ!」


 大声が響き、二人は振り向いた。そこには宿の正面から回り込んできたレネが、今にも腰の剣を引き抜く姿勢で駆けてくる姿があった。


「何だ、もう来たのか」


 イサークはにやりと笑うと、テクラのことは放ってレネに近付いていった。それにレネは急停止すると、剣の柄を握る手に力を入れた。


「お、俺が、ぶった切ってやる……!」


 腰を引かせながらも、目と声で威嚇するレネは、腰に提げた長い剣を引き抜こうとした。だが長すぎる剣の剣先は鞘に引っ掛かり、以前スタリーが予想した通り、無様にもたついていた。


「早くぶった切ってみろ。それとも、わざわざ僕を笑わせに来たのか?」


 せせら笑うイサークを、レネは顔を赤くして睨み付けた。そしてようやく剣を抜くと、両手で構え、刃をイサークに向けた。


「笑ってるのも今のうち――」


 黒い風が目の前を横切ったかと思った瞬間、レネの構えた剣は真っ二つに折れ、その剣先はカランと音を立てて地面に落ちていた。何が起きたのかわからなかったレネだが、ふとイサークの笑みと目が合い、慌てて後ずさりした。


「その剣で切れるなら切ってみたらどうだ? 絶対に無理だろうけど」


 小馬鹿にした表情でいちべつしたイサークは、再びテクラの元へ戻った。


「さっさと行くぞ。付いてこいよ」


 苦労しながらやっと外に下りたテクラにそう言うと、イサークは先に歩き出していく。


「ま、待ってくださ――」


 追おうと一歩を踏み出した瞬間だった。体に突如鋭い痛みが走り、テクラは思わず膝を折った。


「やった……当たった!」


 離れた背後からレネの興奮した声が聞こえてきた。何が当たったというのか――テクラは痛みのありかを探すように、手で自分の体をまさぐってみる。そして左の腰の辺りに来て、指先が硬く冷たいものに触れた。おそらくこれはナイフ――痛みの原因は、投げられたナイフが刺さっているからだとテクラは知った。


「……人間、ナイフ一本を当てたくらいで何を喜んでいるんだ? 僕が一撃必殺の手本を見せてあげようか」


 ナイフに気付いたイサークはすぐさまレネの元へ引き返そうとしたが、それをテクラは袖を引いて止めた。


「駄目です……私を、逃がしてください」


 スタリーの代わりにイサークの勝手を止めるのは自分しかおらず、テクラは痛みに顔を歪めながらそう頼んだ。これに最初は不服そうな表情を見せたイサークだったが、スタリーの顔でもよぎったのか、渋々テクラの体を支え、立ち上がらせた。


「逃げたいなら、自力で走れよ。……行くぞ」


 イサークはテクラの手を引いて走り出した。本来なら風のように走れるものの、手負いのテクラがいてはそうもいかない。背後のレネとの距離があまり離れないまま、二人は先に見える針葉樹の森へ向かった。


「あの中に逃げる気か……俺に恐れをなしたか!」


 レネの挑発する大声が後を追ってくる。


「身の程知らずの人間が。いい気になりやがって……よっと!」


 飛んできたナイフを簡単に弾き、イサークはレネをねめつけた。


「あの、少し、休んでも……痛みが、強くて……」


 我慢して走っていたテクラだったが、さすがに痛みをこらえ切れず、足はもう止まりかけていた。


「やっぱり下級は下級だな。そのくらいの傷でへたばるとは。……じゃあそこの木の陰に隠れていろ。僕はうっとうしい子バエを払いに行ってくるよ」


「払いにって、何をするんですか。ひどいことはしないで――」


 テクラの声をまったく聞くことなく、イサークは来た道を引き返していった。嫌な予感しかしないテクラは、歯を食い縛り、痛みで鈍い足を動かすと、早々と見えなくなったイサークを追って同じ道を引き返した。


 ようやく姿を見つけた時、イサークはレネを木の前で追い詰めているところだった。不敵な笑みを浮かべ、その右手にはレネが投げていたナイフが握られていた。


「僕が、恐れをなしたように見えるか?」


 わざと穏やかな口調で聞くイサークに、レネは表情を引きつらせてはいるが、鋭い目で睨み続けていた。


「どう見ても、恐れをなしているのは人間、お前のほうだ。言い間違いには気を付けろ」


「いずれお前ら吸血鬼は、俺達に恐れをなすんだ」


「へえ、すごい自信だね。一体どんな根拠があるんだか」


「狩人がまた増えれば、吸血鬼の居場所なんてなくなる。ここは、人間の世界だ。化け物なんかに渡すもんか!」


 これにイサークの笑った目が細められた。


「ここが、人間の世界? 傲慢にもほどがあるね。……僕が一番嫌いな人間だよ」


 イサークは握ったナイフを下向きに持ち直すと、その尖った先端をレネの首に狙い定め、大きく振り上げた。テクラは息を呑み、駆け寄ろうとするが、到底間に合うはずもない。次に起こることを想像し、思わず目をそむけた時だった。


 キン、と甲高い音が鳴り、そして離れた地面にナイフがコトンと転がった。テクラが再び顔を上げれば、そこにはスタリーの姿があった。


「少し目を離せばこれだ。私が言ったことをもう忘れたのか」


 ナイフを弾いたスタリーは、レネとイサークの間に立って厳しい表情で言った。


「こんな人間、今すぐ食料にするべきだと思うけどね」


 ふんっと鼻を鳴らし、イサークは不満そうに腕を組んで離れていった。


「誰が化け物の餌食なんかになるか! 狩人はお前らを必ず――」


 危機を脱し、いつもの強気を見せ始めたレネを、スタリーは手でさえぎって制した。


「君も、いい加減気付くべきだ」


「な、何のことだよ」


「今の君の能力では、我々に対抗するのは無謀としか思えない」


「俺は狩人だ。それに村にも同じ――」


「狩人の仲間ができた、か? それは結構なことだが、テクラを騙し討ちにするような真似をされては、私達はもう君と共にいられない」


「そんなの、こっちから願い下げだ。って言うか、そっちが言うから俺は付いてきてやっただけだ」


 スタリーの真意にまったく気付いていないレネは無愛想に言った。それに冷静な表情を崩さず、スタリーは続けた。


「よく考えてほしい。この先私は依頼の協力もしないし、君を守ることもしない。つまりこの後、吸血鬼と遭遇したとしても、君は自分で切り抜けるしかない」


「吸血鬼の助けなんかいるか。俺はあんたと会うまで一人でやってこれたんだ」


 たった今起きていたイサークとの対峙は棚に上げ、レネは過信した力を主張した。まるで誰の助けもなかったかのように言われ、スタリーは表情をわずかに曇らせて言った。


「では、はっきり言おう。このまま狩人を続ければ、君は命を落とすだろう。取り返しがつかなくなる前にやめるか、もっと勉強し、鍛えたほうがいい」


 敵である吸血鬼からの忠告に、レネは向きになった目で睨み付けた。


「うるさい! 俺は狩人だって言ってんだろ。仕事は最後まで果たす!」


 怒鳴る姿に聞く耳を持つ様子はなく、スタリーの懸念はレネに伝わることはなかった。


「そうか……聞いてもらえないのは残念だ」


 そう言って踵を返したスタリーは、後方でかがむテクラの元に歩み寄った。


「こんな目に遭わせて、すまない。休める場所に移動して、そこで傷を見よう。歩けるか?」


「どうにか……」


 木の幹につかまり、ゆっくりと立ち上がったテクラだったが、その顔は必死に痛みをこらえていた。それを見兼ねたスタリーは両手を伸ばすと、テクラを軽々と抱き上げた。


「スタリー様! 私、歩けます」


 慌てて言うテクラに、スタリーは微笑を見せた。


「辛そうに歩く姿など見ていられない。それに、私が運んだほうが早いだろう。……行くぞ。付いてこい」


 不満顔のイサークに声をかけると、その顔はさらにむくれた。


「そこの人間、放って行くのか? 舐めたことをされたっていうのに」


「構うな。そんなことをしても無意味だ。それより私達にはすべきことがある。……つかまっていなさい」


 抱きかかえたテクラにそう一言いうと、スタリーは森の中を風を切って走り出した。土や落ち葉を巻き上げ、黒い影は一瞬のようにその場から消え去った。それを見送りつつ、納得できない表情のイサークは、それを含んだ視線でレネを見やった。


「……い、行くなら行けよ。今だけは、見逃してやる」


 声をわずかに震わせながらレネは言った。


「見逃すねえ……一体どっちのことだか」


 じろりと一睨みし、イサークも風をまとってその場から消え去った。


「次に姿を見せたら、俺に狩られると思え!」


 どこに行ったかもわからないイサークの姿を捜しながら、レネは最後にそう叫んだ。その強気の声は、落ち葉と共に森の中へと巻き上げられていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る